第十話:子羊
私の名前は大坪瑠香。
天国にある神の国学園幼年部の、年中組の五歳です。
今日も幼年部の授業がある日なので、いつもの時間に起きました。
でもちょっと眠いな……
「おはよう……」
「おう、おはよう瑠香。もう少しで朝ごはんができるから、ちょっと待っててな」
この人は私のパパです。いつも私の事を一番に考えてくれて、とっても優しくて大好き。
地上では会う事が出来なくて寂しかったけど、今は一緒に居られてとっても嬉しい。
「うん、テレビ見てるね」
そう言ってテレビをつけると、ちょうど【ひらけ!! てんごくのもん】が始まった所だった。
この番組は、ステファノお兄さんとケルビムちゃんが出演していて、子供達に人気のアニメやゲームの最新情報や、今日のお天気、体操のコーナーがあり、子供達は毎朝欠かさず見ている程の人気番組だ。
私の好きなアニメの【プリティエンジェルズ】の最新情報が始まった。映画の公開が決まった事を聞いている内に、すっかり目が覚めた。
今度パパにお願いして、連れていって貰わなくちゃ。
「さあ次はハレルヤ体操だよー、みんな準備はいいかなー?」
ハレルヤ体操が始まるので、私もその場に立ち上がる。
「新しい日がやってきた
僕らのテンションゲージはMAX
なぜなら神のご加護があるからさ
悪魔よ来るなら来いっての
ライトパンチでワンパンだ
僕らに恐いものは何もない
僕らのバックにゃ神がいる
わいわい皆でハレルヤ賛美
全ての人に祝福を
明日は明日考えよう
今日も一日お守りください
僕らは良い子のクリスチャン♪」
ステファノお兄さんの振り付けに合わせて、元気いっぱいに歌を歌い、体を動かす。
「瑠香ちゃーん、ごはんの準備が出来たわよ」
ちょうど体操が終わった時におばあ…、晶子ちゃんが声をかけてきた。
よく分かんないけど、おばあちゃんと呼ぶのはダメらしい。
「はーい!!」
ハレルヤ体操のお陰で、目がパッチリ覚めた。
テーブルには目玉焼きにタコさんウインナー、ミニサラダとトーストが乗っている。とても美味しそう。
三人でいただきますをして、ごはんを食べる。
「うん、美味しいね」
「ほんと? 良かったわ」
晶子ちゃんは料理が得意で、作ってくれる物は何でも美味しい。
私は嫌いな食べ物が多かったのに、晶子ちゃんのお陰で好き嫌いが少なくなった。
ご飯を食べ終えたら、学園に行く準備をする。
パパと一緒に歯磨きをして、ちゃんと磨けたか見てもらい、顔を洗った後は制服に着替える。
そして晶子ちゃんにお下げを作って貰う。今日は可愛い赤に白の水玉模様のリボンを着けてくれた。
そして鞄をかけて準備完了。
パパと晶子ちゃんの準備も出来たので、学園に向かう事にしました。
私が真ん中で左にはパパ、右には晶子ちゃんで三人手を繋いで歩く。
今日はとても天気が良くて、風も爽やかで気持ち良い。
「今日は何をするんだい?」
「今日はね、お遊戯とお絵描きをするんだよ」
「何だか楽しそうだね、描いた絵をパパに見せてくれる?」
「うん、いいよ」
「じゃあまた後でな、楽しんでおいで」
「はーい!!」
幼年部の教室まで送ってくれたパパ達とさよならをして、教室の中に入る。
「みんな、おはよー」
「瑠香ちゃん、おはよー。そのリボン可愛いね」
お友達のまりあちゃんだ。
まりあちゃんはおっとりとしていて誰にも優しい子。
「おばあ……じゃなくて、晶子ちゃんが着けてくれたの」
「そうなんだ、凄く似合ってるね」
「ありがとっ」
褒められて凄く嬉しくなった。が。
「別に可愛くなんてねーよ」
そう言って来たのは志門くんだ。
いつも何かにつけてケチをつけてくる。私の事が嫌いなのかな?
「あっそ、別に志門くんに褒められたくないから良いもん」
私は顔をプイと反らす。
「ブスがリボンつけてもよ、ブスはブスなんだよ」
「何ですってー!!」
思わずカッとなり志門くんに詰め寄ろうとした所に、まりあちゃんが間に入った。
「二人とも、喧嘩しちゃダメよ。志門くんも瑠香ちゃんの事が好きなら、そんな事言っちゃダメ」
「はぁっ!? こんな奴なんて好きでも何でもねーし」
志門くんは何故か動揺しているみたいだ。よく分かんないけど。
「か、勘違いすんじゃねーぞ!!」
そう言って走り去って行った。
ホント何なんだろ。まりあちゃんはクスクス笑ってるし。
◇
「はーい皆さん、おはようございまーす」
「「おはようございまーす!!」」
ミリアム先生がやってきたので、皆でご挨拶をする。
ミリアム先生は預言者で、アロンとモーセのお姉さん。
そして歌と踊りがとっても上手だ。
「はい、今日も皆さん元気ですね。じゃあ出席を取りますよ」
出席を取った後は、お遊戯の時間。
来週に発表会があるので、その為の練習をします。
先生のピアノに合わせて、教えてもらった歌と振り付けをおさらいする。
最初は難しいと思ったけど、何回も練習したから皆上手になったし、何より皆とピッタリ合うと、とても良い気持ちだね。
「はーい、皆上手になりましたね、これなら本番もバッチリね。皆頑張って行きましょう!!」
「はーーーーい!!」
ミリアム先生が褒めてくれたから、皆嬉しそう。
よし、本番も頑張ろう。
◇
次はお絵描きの授業で、校舎の外で好きなものをお絵描きする事になった。
「まりあちゃん、一緒にお絵描きしよ?」
「うん、良いよ」
「あたし達も一緒に良い?」
お友達の、ほまれちゃんと愛ちゃんだ。
ほまれちゃんはいつも元気いっぱいの子で、愛ちゃんはおとなしく控え目な子。
「うん、もちろん。一緒に描こ」
四人で何を描くか決める為に、校舎の周りを歩いていると、学園で飼っている羊たちの牧場を見つけた。
「羊さんを描いてみよっか」
私が提案すると、他の三人も賛成してくれたので、早速お絵描きを始める事にした。
羊は丸くてモコモコなので、とっても描きやすそう。
私達はクレヨンを使って、真剣に描き始めた。
「そう言えば」
「なに、まりあちゃん」
「イエス様って、羊なんだって」
「えっ、そうなの!?」
私は初めて聞いたのでビックリした。
「それ、あたしも聞いた事ある。何だっけ?“かみのこひつじ”とか言うんだよね?」
「あたしも聞いた事ある」
ほまれちゃんと愛ちゃんも知ってるみたい。
でもイエス様が羊ってどういう意味なんだろう。
「何で羊なの?」
「えーとね、イエス様って私達の為に十字架にかけられて死んだでしょ?それで羊なんだって」
「よく分かんない」
「実はあたしもお父さんから教えて貰ったんだけど、良く分からないの」
「ふーん、何だか難しいんだねえ」
「あら、皆は羊を描いてるのね」
ミリアム先生がやって来た。
折角だから羊の事を聞いてみようかな。
「先生、イエス様は何で羊なの?」
「あら、良く知ってるのね。そうよ、イエス様は羊なの」
「ねえ何で何で?」
ほまれちゃんも気になっているみたい。
「昔はね、神様に捧げ物をしていたの。食べ物だとか動物だとかね。それは神様への感謝の気持ちだったり、悪い事をした時は“ごめんなさい”の気持ちで捧げていたの。それが羊」
「ふんふん、それで?」
「イエス様が十字架に掛けられたのは皆知ってるでしょ?あれはね、地上の人達が余りにも悪い事を繰り返していたから、許して貰うにはイエス様自身が“ごめんなさい”の捧げ物になるしか方法がなかったからなの。それでイエス様自らが羊になって、神様に捧げられたという訳なのよ」
「それで羊なんだ。あたし達、イエス様に悪い事しちゃったんだね」
愛ちゃんが少し悲しそうに言った。
「でも大丈夫よ、イエス様のお陰で神様に許して貰えたんだし、それにこんな良い子達が怒られる訳ないじゃない」
ミリアム先生はそう言って、私達をギューッとしてくれた。
すると一匹の羊がトコトコと柵越しに近づいて来て、私達をジーッと見つめてきた。
「な、何だろう、あたし達を見てるよ…」
愛ちゃんがほまれちゃんの後ろに隠れた。
「何か言いたそうにしてるね、何だろ」
ほまれちゃんも少し不安になっているみたい。
「天の国は、あなたたちのような良い子達のものですよ」
羊が突然話始めたかと思うと光り始め、イエス様の姿に変わった。
「わぁー、イエス様だったんだ!!」
「良い子に祝福あれ」
イエス様は私達一人一人の頭に手を置いて、祝福をしてくれた。
その後イエス様が羊のモデルになってくれて、私達は絵を描き上げ、そして四人とも先生から花マルを貰う事が出来た。
◇
家で晩ごはんを食べ終わった後、花マルを貰った絵を見せる事にした。
「パパ見て見てー、先生から花マル貰ったんだよ」
「ほんと? どれ見せて見せて。これは上手い!!ほら母さんも見てやってよ」
「ん?どれどれ。あらー可愛い羊さんね、上手に描けてるじゃない」
「うちの子は絵の才能があるに違いない!!」
「出た、親バカだよ」
「いやいやマジでさ、きっと将来は大物の画家になるぞ」
パパと晶子ちゃんが褒めてくれた。頑張って書いて良かった。
イエス様ありがとうございました。
「よし、額に入れて飾ろう。ところでこの羊って、学園で飼っている羊だよね?」
「違うよ、イエス様だよ」
「ん?」




