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その男の正体は?

少しずつ登場人物達の事を明らかにして行こうと努力している今日この頃です。



最近では、もうすっかり見慣れた真白な空間。

目の前の大きな水盤には、愛しい妻と子供が楽しそうに笑い合っている姿が映し出されている。


ああ、良かった…笑ってくれている。

我知らず、鳶色の眼が細まり、口元がほころぶ。

無意識にチェーンで首から下げられた細い銀色のリングを握りしめる。



何もしてやる事が出来なかった…。

何も残してやる事が出来なかった…。


ただ辛い思いばかりをさせていたのではないか?

少しずつ心が軋み、壊れていっている君に

気付いていたのに、気付かない振りをした。

どうしても最期まで

その手を離す事が出来なかった…。


「さくら……すまない。」

何度となく繰り返してきた

決して届く事のない謝罪の言葉を口にする。


「また、あの親子を見ているのか。」

一体いつからそこに居たのか、重厚な扉の前で腕を組み、こちらを呆れ顔で見つめ ため息を1つつくと、膝まである常盤色の髪を揺らしながら、長身の男がゆったりと近付いて来る。


返事に困り、苦笑いをうかべる事しか出来なかった。

異界の神となり、すでに3年の月日が経とうとしていた。


私は、元はしがないただの地球人の男だ。

何故、自分が神となったかわからない。私などよりも

当時、私の妻だった女性の方が はるかに神たるに相応しいと思う。


妻は、ふんわりとした雰囲気を持つ

心根の優しい女性だった。

小柄な割にとてもパワフルで

少し天然な所もあるけれど、そこが何とも言えず

可愛らしいのだ。


長かった不妊治療の末に、ようやく子を授かり

親子3人でこれから来るであろう幸福な未来を信じて疑わなかった。

だから、私は自分の身体の異変に気付く事が出来なかった。

どうして気付く事など出来るだろうか?

家族が増えた幸せでいっぱいだった。

妻と子供を守り、普通に生活をして、

普通に年を重ねて行くものだと思っていた。


健康診断で異常が発見された時には、

もはや手遅れと言って良い状態だったのだ。


毎日病院に通って来る妻の柔らかな笑顔と

ようやく少しだけ喋れるようになって来た我が子に癒される毎日だった。

病気が発覚してしまえば、それからはあっという間に過ぎていった。


絶えず涙を流しながらも、私が一番好きだった笑顔を作ろうと必死な妻と、何も分からずに ただ小さな手で私の人差し指を握る我が子。


あぁ、眠ってしまった…。


そして、私の意識は、途切れたのだった。



「ずっと、名乗らないつもりか?」

こちらの世界に来てから出来た、親友と言っても良い竜人の男は 何度となく繰り返し私に、妻と子供の元へ行くべきだと諭してくる。

その言葉に毎回私は、ゆるゆると首をふる。

私の思いは変わらない。

ツガイ至上主義の竜族である親友には、自分の妻を他人に託す事が理解出来ないと言う。


私もできる事ならば、自分が側にいて守りたい。

だが、私では駄目なのだ。

もう、解放してやらなければ。


「彼が来たのだろう? さぁ、会議を始めよう。」

いつもの様に 焦げ茶色のローブを纏うと

すでに黒いローブ姿になっていた友人と共に重い扉を開け、私の大切なものを託す事の出来るただ1人の男のもとへと向かうのだった。

お読みいただきありがとうございます。

読んでくれている方達がいると思うと

とても励みになります。

ツタナイ文章ではありますが、お楽しみいただければ幸いです。

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