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フレンチ・デ・ジャポネ  作者: 佐藤トモヒロウ
1/1

パリ、冬の日にて。

ドアを開けるとパリだった。

見回せば金髪、赤髪、黒髪のオンパレード。

自分でも何を言ってるのかわからなくて、開いた口が塞がらなかった。

おかしい。


俺は確かに、仕込みの食材を取りに冷蔵庫に入ったはずだ。

しかし、俺は何故かフランスに居る。昔に修学旅行で行ったセーヌ川とかそのままだ。

ただ、橋桁に南京錠はかかっていなかったが。


さっきも言ったが、黒髪の人は居ることは居る。

でも、顔つきが日本人のそれではない。


どう見てもエジプトとかそっちの血が混じった顔つきだ。

昔、世界史の授業で「フランスとエジプトは交流があった」と聞いたが、

だからだろうか。そういった顔や毛色になるのは。

あとだ、通る人は民草でも美形が多い。

エキゾチックな血がそうさせてるのか。

短足胴長の日本人からしたら羨ましい限りだ。


ふと振り返ってみるが、私が通ってきたドアは何処にもない。

仕事中だったので、着の身着のまま白の和装の仕事着に戴帽である。

料亭の料理人とかが着けてるアレだ。

そんな変な格好でザルを両手に抱えて突っ立ってるもんだから、

周りの視線がすごく痛い。

今通って行った人など、こっちを見ずに顔を伏せて笑っていた。

そりゃそうだ。



そういえば、通る人の服装がどこか古めかしい。

オシャレの国にしてはすごく変だ。

民草と言ったが、それはそれは質素だったからだ。

少なくともTVで見るような人の、華やかな服装は見られない。

質素さにほんの少し華美さを重ね合わせてるような、そんな感覚である。


時々通る高いシャッポの男性は貴族だろうか。

立派な馬車に乗っている。

ぼーっと見とれていたらスリに絡まれそうになった。

危ない。

財布はロッカーの中に、鍵をかけて置いてきてしまっているから使えないが。


言葉は無論分からない。

巻き舌のかかった言葉が聞こえてくるだけで、意味など分からない。

ただ、不思議と感情だけは伝わるので、

馬鹿にされてるな、とかそういうのは分かる。

こんな格好をしているのが悪い、と言われたらそれまでなのであるが。


仕方なくセーヌ川のほとりで黄昏る。

正直この格好は肌に堪える。

捲った袖を伸ばしても、所詮肌着程度の薄さの服だ。

「灰色の町」にふさわしく、日は重い雲に隠れて今にも雪が降りそうだ。

冷蔵庫に入るときはスカジャンを着るときがあるのだが、

その時は調達する食材も少なかったのでそれもない。

後の祭りだが着てくればよかった。


ただ、持ってきていたものが2つだけあった。

片刃の包丁と100円の瓦斯ライターである。

うちは着火は手動だったので、煙草は吸わないがライターは惰性で常備していた。

くすねてきたともいう。


そうして頬杖をついていると、子供が何やら早口でまくし立ててくるのが聞こえた。

しかめっ面をした其れは、明らかにこちらを警戒していた。

ストリートチルドレン。

ふとそんな言葉が浮かぶ。


歳は7~10歳程度だろうか。

彼に続いてゾロゾロと5名ほど顔を出してくる。

どれも男の子ばっかりだ。

女の子は居ないのか、少し期待したが今のところ居ないらしい。

しかし、どこかで見た顔だなと、じっ、とその目を見る。

ふと、あっ!っと声を上げてしまった。

さっきのスリじゃないか。


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