養生テープ
私は家のドアを開け、靴も脱がず玄関で突っ伏した。顔を勢いよく打ち付けたために、とても痛かった。
(ああ、終わったのか…)
この聖なる夜に、僕らの関係がとても容易いものなのだと知って、とても切なくなった。
「別れましょう…。私はもう疲れたわ。」
その時の彼女の声音は、とても落ち着いていて、いつも通りに発っせられたものだったのだろう。
つまり、僕は彼女にとって、仮の相手だったらしい。
私は彼女との交際において、ガムテープを貼っていた。しかし、彼女の場合は、ガムテープではなく養生テープだったらしい。
ガムテープを貼ったなら、剥がれにくく跡が残りやすい。養生テープなら、容易に剥がれ跡が残らない。
私と彼女の間において、このような差異を生じていたのは果たして今知ったのだ。
テープに熱を含ませたなら、それはとても剥がれにくい。私らの交際において、そのような行為があったかどうか反芻してみる。
やはり、私は本気だった。ともすれば、私だけが本気だったのか…。
冷えた床が私の頭と胸とを冷やす。
私はおもむろに立ち上がり、下駄箱上の彼女の顔を写した写真立てを取ってみつめてみる。それを胸元に沿わせて、一息置く。
(さようなら。私は私の人生を、あなたはあなたの人生を…、さようなら)
おかしな話だが、私はその後のあの写真立てをどうしたか覚えてない。
ただ私はその瞬間は、俯きながらにこれまでの彼女との時間を想起し、精一杯涙を流しただけなのだ。