小悪魔は基本乳がでかいイメージしかない
投稿が遅れて申し訳ないですっ
「ま、マジか……」
突然だが、俺は今呆然としていた。その理由はなんと目の前にエトワール凱旋門を彷彿とさせる正門がそびえ立っているからだ。何処ぞの国に迷い込んだのかと思ってGPSを確認するが、俺がいるのは間違いようもなく日本だったし、なんども地図を見返して見ても間違いなくこの奥に学園があることは明らかだった……
「無駄にスケール大きすぎだろ……これ。いくらかかってんだよ、門だけでもかなりのお金かかってそうなんだが……」
なんて……無駄に気合の入った門に向かって愚痴っているのはそれこそ無駄だ。
愚痴るのをやめて門をくぐり中に入ろうとする。
「学生証を見せていただけますか?」
「あ?」
突然呼び止められ、声の聞こえた方を向くと。そこにはこの学園の女子の制服を着た生徒が門の端で立っていた。その格好は整っており、優等生のような風格を漂わせていた。だが、俺はその優等生の雰囲気に少し違和感を感じた。その彼女は水色の髪をストレートに流している。
「学生証……見せていただけますか?」
もう一度同じことを言う彼女を見たとき、RPGのモブみたいだな……と、思ったが。これ以上待たすのも悪いので、胸ポケットに入っている学生証を取り出し、彼女に渡す。
「確認しました。貴方が最後の生徒なので、急いでホールにむかってください。入学式が始まりますので」
と、また機械のような口調で話す彼女。その時自分が何故彼女に違和感を感じたのか、すぐに理解した。
「無理して固くしなくてもいいぞ」
「は、はい?」
「だから……無理して行儀良く話す必要はない。俺は別に気にしないしな」
俺がそういうと彼女は少し驚いた表情をした後、興味深そうな顔をして少し笑った。
「いつから気づいてたのよ。あたしが無理してるって」
「違和感は最初に見た時からだな。なんとなくそんな感じがしただけだ」
そういうと彼女はくすっと笑い、そう。と短く答えた後、制服の上のボタンを外した。
「助かったわ。やっぱりボタンを上まで止めると苦しくてね」
そりゃあ……そうだろ、と俺は心の中で呟く。何故ならその彼女は見ただけでわかるほどの豊満な胸をしていたからだ。サイズを考えるほど俺は胸には興味はないが、少なくとも脚フェチな俺の目を惹かせるほどはあるだろう。
「そうか……」
俺はそう短く答えた。そうすると彼女は踵を返して歩き始めた。少し早歩きになっていて、俺からちょっと離れた後振り返った。
「なにやってるのよ、貴方が最後なのは本当なんだから、急がないと初日から遅刻よ?」
「了解」
早歩きで進んでいく彼女を見失わない程度の早さで追う。ある意味彼女がいてくれて助かった。彼女がいなかったらホールに辿り着く前に絶対に迷子になっていただろうしな。
そしてそのまま彼女について行った……のだが、そこはホールとは異なる場所。一つの個室の入口だった。そしてドアの少し上のところには女子更衣室の文字。
「おい……」
「なに?」
とても不思議そうな顔で俺の方を見てくる彼女。こいつは俺をここに連れてきたことになんの違和感も感じていないらしい。馬鹿なのか、それとも俺を男として認識していないのか。それとも初めて知り合った男を女子更衣室に連れてきてあれこれするほどの痴女なのか。
「なぁ、ここって女子更衣室だよな?」
「そうだけど……それがどうかしたの?」
「どうかしたの……じゃないだろ。なんで俺はこんなところに連れてこられてるんだよ。この先にホールでもあるのか?」
きっと俺は今、この女をジト目で睨んでいるだろう。仕方ない、全部この女が悪い。
「そんなわけないでしょ? ちょっと着替えるのよ、これ……私の本当の制服じゃないし、ね」
「そうならそうと先に言えよ」
「わかったわよ、ごめんなさいね」
そう言いながら更衣室に入っていく女。まったく反省してないだろ……というか、入学式始まるんじゃないのかよ? このままじゃ二人揃って遅刻だぞ。
そして暫く待った後、ゆっくりとドアが開いて中からあの女が出てきた。その格好は確かに普通の女子生徒の制服とは違い、より煌びやかで気品に溢れていた。そしてなにより……レースのついた灰色ニーソを履いていた。灰色のニーソも魅力的だが、なによりレースがついているニーソが彼女から滲みでているエロさ……というものによく合っていた。
「お待たせ……って、そんなに見てきてどうかしたの?」
「へ? あ、あぁ……いや、似合ってるなと思ってな」
主にニーソが。
「そ、そう? ありがとね」
呆気にとられた表情をする彼女は、お礼を言った後ハッとした表情をして思い出したかのように口を開いた。
「もうすぐ入学式が始まるわっ! 行きましょ」
「すっげぇ、今更だな」
小走りになっている彼女の後を追っていくと、目の前に丸い建物が見えてきた。どうやらあれがホールのようだ。例の如く馬鹿でかい。
「それじゃあ、私はこっちだから」
「おう」
そうして軽く手を振って別れる。これほどの広い学園だ。そんなに会うこともないだろう。それにあんな女となんども会うようなことになったら疲れそうだ。
その後、中に入るとホールの奥の方に壇上があり、そこから出口までにはずらりと椅子があって、そこに座れるようになっていた。椅子はほぼ全員が座っていて人が規則正しく並んでいる様はある意味絶景だった。
「え〜、ではこれからアムール学園第一回、入学式を始めますよ〜」
今時珍しいぐるぐる模様の眼鏡をかけ、ダボダボの白衣を着た女性らしき人がマイクを持って合図をする。その女は気の抜けた声に緊張感がないな、と思ったが……生徒達はすぐに静かになる。思えばここはお金持ちやらが通えるような学校だったな……だから優等生が多いのかもな。ちなみに俺が入れた理由は特殊で、招待状が届いたのだ。ここに通いなさいとお手紙付きで……一体誰がなんの目的で入れたのか検討もつかないが、暫くはその差出人の掌で踊るのもいいだろう。
入学式は常に暇だった。この学校の活動方針やら、目指す生徒の形。心構えだとかを永遠と語っていた。俺の知っている老いぼれどもは居なかったが、どいつもこいつもお固い感じの人達ばかりだ。はっきりいって、若者の未来への可能性を摘み取っているのは何を隠そう……今をふんぞり返って偉そうにしているあの老いぼれだと思うのは間違っているだろうか。……というか、暇な話過ぎて眠くなってきた。
「それじゃあ〜最後に、生徒会長〜副会長〜よろしく〜」
『おぉ〜!』
生徒達のあちらこちらから声が上がる。中には黄色い声援のような声も聞こえる。
『凄い美人じゃんあの銀髪の子っ!』
『あぁ、大人しそうでおとなっぽいな!』
『俺は副会長とかいう方の巨乳の方が好みだな』
『確かになぁ…あの胸は反則だろ』
正直に思ったことを言おう。男はどこの学校もこんなもんなのか……こういうのはそこらへんの普通の学校だったらありえそうだと思ったが、こんなにお金持ち、優等生が集まる学校でもこんな言葉が飛び交うとは……まあ、気持ちはわかるが。
「静粛に」
騒いでいる生徒達に一言静かに告げる彼女。俺はその声を聞いて先程までの眠気が吹き飛んだ。そう……何年経ったとしても変わらない、聞きなれた声。
「私はこのアムール学園において生徒会長を任されることになりました。寒咲 雪芽です。どうぞよろしくお願いします」
銀髪の髪。ちょうどいいプロポーション。大人しい性格。生まれた時から持っていた天才的な雰囲気のオーラ。どれもこれも昔のまま……さらに成長を遂げていた。
だが、一番変わったのは雪芽の目だった。俺が覚えている限りの雪芽はあんなに冷たい目はしていなかった。冷徹な瞳……それが俺が今の雪芽から感じた印象だった。一体俺と会わなかった間に何があったのか……。
「一言お願いしますと言われていますので……簡単にお話します」
雪芽は少し俯く。雪芽から発せられるオーラもあってか、無音の時間がとても長く感じられる。それに加えてここで音をだそうものなら大変な事になるだろうというプレッシャーも漂っていた。
「私には使命があります……何年のも間、その為だけに生きてきました」
使命……その言葉を口にする雪芽の目からはハイライトが消え、ただ感情のないロボットのような表情をしていた。
「それは……この世のどこかで生きている義理の兄を……殺すことです」
「っ!?」
俺は自分の耳を疑った。聞き間違いだろうと、さっきまで寝そうだったから寝ぼけているだけだと。だがしかし、周りに座っている生徒のざわめきでそれが現実だと理解する。
なぜ……その思いが心を支配していた。俺が寒咲の家を追放されてから数年。一体何があったのか……俺を殺すということになる事件があったのか。でも俺は何も身に覚えがなかった。考えてもわからず、自問自答を繰り返す。あの老いぼれどもになにか言われたのか……でもそれだけでこんなことになるのか。
「以上です」
そう言って壇上から去っていく雪芽の姿を俺はただ呆然と見つめていた。
その後のことは特に印象に残ることはなかった。ただひたすらこうなった理由を考えていたからだ。俺はこの学園に入学し、義妹の顔を拝むのとあの老いぼれどもに一泡吹かせる。そんな軽い気持ちだったのだ。それなのに……
「それがなんでこうなったんだか……」
「なにがどうなったの?」
「ん……?」
俯いていた顔を上げると、そこにはあの乳デカ女がいた。
「あぁ……乳デカ痴女か」
「し、初対面じゃないにしても流石にそれは失礼じゃない!?」
「すまん……ついな。安心しろ、五パーセント冗談だ」
「後の九十五パーセントは本気じゃないの!」
乳デカ痴女に溜まっていた鬱憤をぶつける。俺は悪くない、こんな時に話しかけてくる乳デカ痴女が悪いのだ。だが乳デカ痴女に話しかけられて気づいたが、ホールには既に人はおらずガランとしていた。
「あれ……入学式は?」
そう聞くと乳デカ痴女は不思議そうな顔をした。
「そんなのとっくに終わったわよ? 私が後片付けを頼まれてたからやっててね、終わったら貴方がぼ〜っと座ってたから声をかけたのよ」
「あぁ、なるほどな」
確かにあの雪芽の発言以降。自問自答を繰り返し過ぎて周りのことを考えていなかった。
「えぇ、クラスも発表されているだろうから。見てきたらどう?」
そう乳デカ痴女は言う。確かにそうだ……いつまで悩んでいてもこのことは解決しないだろう。だったらいっそ、確かめるために学校生活をはじめる必要がある。くよくよ悩んでいる暇があったら取り敢えず目をつぶってでもいいから前に進め。そんな言葉を誰かに言われたことがあったような気がする。
「あぁ、サンキューな。乳デカ痴女。お前のおかげで少しは目が覚めた。」
「そう、それならいいけど……って、貴方はいつまで私のことを乳デカ痴女って呼んでるのよ」
「いや、だってお前の名前知らんし」
「私さっき壇上で自己紹介したわよね!?」
「知らん」
知らないったら知らない。あの時は雪芽しか見えていなかった。もう一人副会長とかいたらしいけど、顔すらまともに見ていなかった。なるほど、副会長はコイツだったのか。大丈夫なのか? この学園。
「はぁ……私もそれなりな女っていう自覚はあるけれど、貴方はそれ以上ね」
「大きなお世話だ乳デカ痴女」
「違うわよっ! こほん……私の名前は坂原心奏よ」
「坂原心奏か、よろしく」
これ以上乳デカ痴女……もとい坂原心奏といるとこの学園が面倒くさくなる感じがひしひしするので、足早に立ち去ろうとすると……
「あたし、あなたの名前聞いてないんだけど」
「そりゃあ、言ってないからな」
無言の圧力を向けてくる坂原心奏。流石は副会長。雪芽には劣るがなかなかのプレッシャーだと思う。だがそんなことで名前を教えるほど俺は優しく……
「教えてくれたら私の体のどこか一つ、好きなだけ触らせてあげるかもしれないわよ?」
「ニーソもとい足を触らせてくれ」
俺は土下座をして頼み込む。ニーソは正義だから仕方がない。そう、仕方がない。
「そう、なら名前を教えてもらえる?」
「俺の名前は柊幸だ」
「柊幸……ね。これからよろしく」
「あぁ……さぁ、約束は守ったんだ。早速……」
俺が触ろうとして近づくと坂原心奏はさっと距離を取る。
「なんの真似だ?」
「なんの真似って……私は触らせてあげるかもしれないって言ったのよ? 触らせるとは言ってないわ」
悪びれもせずにそう言う坂原心奏。膝から崩れ落ちる俺。
「俺を……俺を騙したなぁ!! この乳デカ悪魔クソ痴女がぁぁ!!」
「騙される方が悪いのよっ」
ホールの出口まで走り、くるっと振り返ってウィンクをする坂原心奏。その姿はさながら小悪魔のようだった。そんな小悪魔に魅力なんて感じないが。
「それじゃあ、柊ー! これからよろしくねっ」
「よろしくしねぇよっ!……ったく」
ホールに一人だけ残される俺。今回学んだことは……女の誘惑には簡単についていかない。
後……女は素の方が何倍も魅力的ということだった。これから面倒くさいことになりそうだが、それも悪くないかもしれない。なんて言ったって、久しぶりに通う学園なんだ。楽しまないと損だしな。
そして俺は一歩を踏み出す。この波乱万丈そうな学園生活にほんの少し胸を踊らせながら……
「って……俺の教室ってどこなんだ?」
早くも壁にぶつかった学園生活。これからやっていける気がしない俺だった。
次回も頑張って書きますが、進み具合は時間があればあるほど早いので、不定期になりそうです