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Sin Spec Record  作者: 直斗
バースト
8/21

 八


 巨大な羽を大きく広げ、巨大な咆哮に木々が大きくしなる。わずかに空に浮かんでいた真っ白な雲は、その咆哮に吹き飛ばされてゆく。

「ウロボロスまでノイズにやられるのか……」

 鱗に覆われた中の赤い目が、わずかに動く。広げられたノイズの羽はまるで滝のようで、まばゆい輝きをこぼれ落としていた。

 咆哮に呼応し、木々の合間からフォートレスドラゴンが飛び上がる。二、三度羽ばたき滞空すると、四人の方へと首をもたげた。

「こんな時に!」

 金属の装甲に身を包み、隙間から見える筋肉質な翼膜を、赤い血管が通っているのが分かる。羽をわずかに閉じ、その隙間全てを装甲で覆いつくす。一対の翼となると共に、ジェットエンジンが唸りをあげた。

 正面にはウロボロス、背後からはフォートレスドラゴン。どちらも強力な敵であり、一撃で死にかねないほどの強力な攻撃を持つ。ましてや、今のアッシュの残りの体力では、この二体の攻撃では確実にやられてしまうだろう。四人は互いに背中を預け、それぞれに身構える。

「来るぞ!」

 木々に巨体をかすらせて、フォートレスドラゴンは彼らへと加速する。迎え撃つギルジスの弾丸が、その装甲に空しく音を立てた。盾を突き出し、衝撃に備える。しかし、輝かせた盾は、一切の衝撃をアッシュに伝えることは無かった。

 彼女らの頭上ギリギリを、大きく口をあけながら、激しい風圧と共に飛び抜ける。片腕で風を遮りながら、そのまま上昇するフォートレスドラゴンへと視線を向けた。

「え……」

 フォートレスドラゴンの金属の口に噛みつかれた、一匹猿のようなモンスターが必死にもがいている。ノイズの羽を羽ばたかせ脱出を試みるが、圧倒的な龍のパワーの前ではどうすることもできない。龍は空へと連れ去り噛みついたまま、口内につけられた二機のバルカン砲を回転させた。

「さすが、強いな」

 四人がかりでも苦戦したそれをほんの一瞬で葬り去り、空中で羽を広げホバリングする。龍と竜は睨み合い、互いに牽制し合う。高く舞い上がっていた木の葉が、ゆっくりとヒラつきながら落ちてきた。

 背中のエンジンを最大まで稼働させ、フォートレスドラゴンはウロボロスへと向かっていく。龍の睨みは、どんなものでも怯ませるような威圧感があるものの、王者の、いや、神の余裕か。うるさい羽虫でも除けるかのように、尾で軽く払った。

 黒く強靭な尾をわずかに装甲へこすらせて、火花をあげながら回避する。空に白い煙を残しつつ、龍は神へと二発のミサイルを撃ちこんだ。

 圧倒的な体力と防御力を兼ね備えた神に、流石の龍でも簡単には倒せない。ましてや、ノイズによって圧倒的な強化が施されたその存在を制すなど、夢のまた夢のよう。

 一つのミサイルが、空中で爆散する。赤い、神の目の一つが、それを見ていた。

 発射されたミサイルは二発、残されたもう一発は頭部への直撃ルート。見ていた者、誰もが攻撃の成功を予感していた。

「なんてやつだ……」

 生物的には不可能な動きで羽は動き、ミサイルはノイズの羽を突き抜ける。推進力として吐き出されていた白い煙は、全て銀に輝くノイズへと変わり大きく頭部をそれた。龍は大きく宙返りをし、再度攻撃を仕掛けるが、再び放たれたミサイル二発を同時に尾で払うと、神はそっと赤い目を閉じた。

 銀のノイズのミサイルが急激に向きを変え、フォートレスドラゴンを追う。後方斜め上からそれは直撃し、爆炎の代わりにノイズをまき散らした。エンジンと翼が激しく損傷し、コントロールを失う。

「ここは危ない、逃げるぞ!」

「わたしが何とかする」

 黒煙とノイズを引きながら、それは四人のいる場所へと落ちていく。アッシュは盾をそれに向け、来たる衝撃に備えた。残りの体力はあとわずか。盾でのガードは大幅にダメージを減らすものの、今の残りの体力では、スキルを使ったガードでなければなくなってしまうだろう。きちんとログアウトできるのか分からないこの状況では、失敗するわけにはいかない。アッシュの手に思わず力が入る。

 体勢を立て直そうと、龍の落下速度がわずかに上がる。アッシュが盾のスキルを発動させようとしたその瞬間、神の頭上で新たにノイズの翼が羽開いた。

「ライゼル……」

 落ち行く龍を、空中でノイズが包み込む。それは損傷していた各部位を修復し、地につく寸前で大きく羽を羽ばたかせた。

 周囲に、ノイズの羽毛が舞い落ちる。

 アッシュと龍との間に、一人の女性が立っていた。その者は片手を龍に突き出し、もう一方の手で刀の鞘を握りしめている。地に落ちたノイズの羽毛がバチバチと、音を立てていた。

「ライゼル!」

「待て」

 盾を捨て、走り寄ろうとするアッシュをギルジスは止める。

 ライゼルはゆっくりと突き出した手を下におろし、同時に彼女らへと振り返った。その変わり果てた姿に、レクタードは思わず驚き、苦笑いする。

 ライゼルの片目から炎のようにノイズが燃え上がり、黒かった髪も半分ほど白くなっている。そして彼女の背中からは、ウロボロスと同じ、大きな銀のノイズの羽が開いていた。

「お嬢さん。他とは違うようだが、何をしたんだ」

 いつでも銃を抜けるように手を当てて、レクタードは尋ねる。他のノイズ化したプレイヤーには無かったような自我が、ライゼルにだけはあるように感じられていた。

 手なずけた龍を背に刀を抜き、両手で構える。レクタードも彼女を迎え撃とうと、銃口を向けた。ギルジスはアッシュを押さえつけている今、彼の援護は期待できない。

 レクタードは引き金に指を当て、そこに力を込めた。地を蹴り、草が舞う。発射された弾丸は空を裂き、舞う草葉を躍らせる。

「ギルジス、アッシュ!」

 ライゼルは弾丸よりも早く、二人の背後に回り込む。急ぎ銃を向けるレクタードだったが、時すでに遅く。煌めく刃は、二人を同時に引き裂いていた。

 攻撃後の隙をつくように、再度放たれた弾丸は頭を貫く。しかし貫通した弾丸は、一切のダメージを与えることなく、木の幹に小さく穴をあけただけだった。

「援護する」

 爆発する炎が、ライゼルを包み込む。立ち上る黒煙を羽で払いのけ、ミサエルを瞳だけを動かし捉える。

「引け!」

 絶え間なく撃ち続け気を引こうとする。しかし全く気にすることなく、ミサエルへとゆっくり歩み寄る。

「何で効かないんだ」

 困惑するミサエルをよそに、ライゼルは自身の頬のすぐ横で刀を構える。魔法による爆発が立て続けに彼女を襲う。広がった黒煙を身に纏い、ライゼルの刃はミサエルの胸元を貫いていた。

「やっぱり、そういう事か」

 ミサエルから刀を抜き、先端を地面にこすらせるようにレクタードへと向き直る。今のままでは一切のダメージを与えることが出来ない。それはチートコードによる物では無く、システムによるものだと、レクタードには理解できていた。

 慌てて飛び退き、距離を開けるが、一瞬の内に追いつかれる。そのまま振られるライゼルの刀は、綺麗にレクタードの首を切り落としていた。

 ライゼルはそっと刀をしまうと、切って捨てた三人へと背を向ける。そして大きく翼をはばたかせ、神と、龍と共に、ウロボロスが開けた裂け目へと飛んでいった。

 それが薄れゆく視界の中で、最後に見た光景だった。


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