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Sin Spec Record  作者: 直斗
アドバンス・ロード
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十四

 十四


 減速しながら駅へと入っていく列車は、厚い黒煙をまき散らし重厚な音を響かせる。レールと車輪のこすれる音は、耳障りな高周波となり響き渡っていた。

「ノイズの除去は上手くいきましたね」

 小野田がノイズに呑まれた位置は、何事も無かったのかのように綺麗になっている。オンライン、始まりの街ビレンジタウン。ある意味では、二人にとって始まりの街となるなんて、誰にも予想できなかったであろう。

「あれ、おっさん何で居んの?」

 二人の前に見覚えのある、一人の少年が姿を現す。彼は何かを探しているようであったが、それが何であるのか、レクタードとギルジスには理解できていた。

「居てはまずいのかな?」

「別にいいけど。僕は、ある人を待つことになっているのだからね」

「それは駅舎の前で、かな?」

 話した覚えのない情報を持っているレクタードに、ミサエルは驚く。彼は不審そうに睨みつけながら、一つの質問を投げかけた。

「おっさん、なにものだ?」

 今だに、その待ち人が目の前にいる事に気づかないその少年に、彼らは、思わず吹き出しそうになる。どうにか顔をそらし、笑っている事を悟られないようにしていたのだが、限界があったようだ。

「何を笑っているのさ。早く、こっちの質問に答えてよ」

 少年の本気な態度は、かえって彼らを笑わせる。そのことに気が付かず、レクタードへと掴みかかるのだが、レクタードは笑うだけでされるがままにさせていた。

「何をしているの……」

 いつの間にかそこにいた、一人の少女。ゲーム特有の赤い髪をなびかせて、少女は、馬鹿な事をしていると言わんばかりの視線を、彼らへと投げかけていた。

「遅かったね」

 背負い投げられていたレクタードは、頭だけを起こして笑いかける。そんな楽観的な彼の様子に、アッシュはなんとなく、殴られていた理由がわかった気がしていた。

「まぁ、わたしも親の目があるからね。長時間起きなくても怪しまれないように、ごはんとかお風呂とか済ませていたの」

 立ち上がろうとするレクタードに手を貸しながら、彼女は彼の装備を確認する。左右でデザインの違う拳銃は、先ほど見た物と全く変化は無かった。

「ねぇ、メールにあった神葬装備って、あなたはまだつけていないの?」

 駅の方から高い、汽笛の音が響いてくる。それはとても長く、紅の空に透き通って行くようであった。

「おっさんが、運営者……?」

 ようやく気づいたか、と、少年へと向き直る。その時の驚いた少年の表情は遥かに滑稽で、もしその光景を保存できるなら、レクタードは迷わず保存していただろう。

「俺が運営責任者であり、メールを送った張本人だ。そして肝心の神葬装備も、今は俺が持っている」

 神葬装備という言葉に、二人は反応する。これまでとは比較にならないほどの強さを秘めたその装備は、公式には発表されていないものの、いずれ実装されるだろうと噂されていたのであった。

 そんな憧れの装備を手に入れられると、二人の目は共に輝いてはいたのだが、一人は友を助けるために。もう一人は己の欲の為にそう見えていたのであった。

 各々見ているものは違うが、それでも、レクタードの呼びかけに集まったことに代わりは無く、ギルジス含め三人はレクタードへと視線を向けていた。

「みんな、よく来てくれた。唐突な呼びかけに応じてくれたこと、感謝するよ」

 差し込む太陽の光はとても低く、早朝なのか、夕暮れなのか判断できない。赤い空に浮かぶ太陽がこれから沈むのか、はたまた上るのか、それは時が経てばわかることであろう。

「いいよ、おっさん。早く武器を頂戴」

 そんなミサエルの言葉に、大きくため息をつく。とは言え、急いだ方が良いのもまた事実。レクタードは一度メニューを開き、所持品を確認した。

「神葬装備。ベータ版のときはそう呼ばれていた、頭一つどころか、二つも三つも飛び抜けた武器があった。それを君たちに貸し出そう。だがその前に移動しようか」

 開いたメニューを左手でそのまま操作し、腰の銃をしまい込む。完全に空いたその手には、武器の代わりに、四枚のチケットが握られていた。


 一定の間隔で揺れ続ける車内から、ミサエルはぼんやりと外を眺める。向かい合うコンパートメントに腰掛けて、初めてオンラインに来た時の事を思い出していた。難関ダンジョンを攻略した直後で、周囲の友人からは、その攻略速度に驚いていたものだった。

 今になって思えば、友人らが遅かったのだろう。

 オンライン最強のプレイヤーになることを夢見て、あのビレンジタウンの駅に降り立ったのであった。結果は言うまでも無かったが、それでも夢はあきらめきれず、今こうして、最強の称号を手にする事ができるチャンスを手に入れたことに、喜びを感じていたのであった。

「さて、神葬装備について軽く説明させてもらおうかな」

 煙突から吐き続けられる黒煙は、広がりと共に後方へと流れてゆく。SL特有のエンジン音は、現実の電車とはまた違った重たい響きがあった。

「そもそもこのゲームは能力バトルになる予定であったのだが、使用される武器によってプレイヤー間の格差が出てきてしまったことに由来する。この格差を埋める為、本来つけられる予定だった能力が、つけられずに始まったのが今のこのゲームだ。ベータ版の時に試験的に能力がつけられた四つの武器が、この神葬装備なんだ」

 外は突然暗くなり、列車はトンネルへと入っていく。轟々と、反響し。窓には、彼らの様子がよりはっきりと映っていた。

「まぁ、みんな使ったよ。それは予想できていたんだ。ただ、武器があまりにも強かったため、レベルも、プレイヤースキルも、ほとんど意味をなさなかった。俺はなんか違うと、没にしたのがその装備だ」

 そう言ってレクタードは一つの重火器を取り出した。

「バルカン砲M-134だ。連係プレーなんてあったもんじゃない。集団でただ撃ちまくる。それだけでそんな敵にもうち勝てた」

 いくつもの砲身がつけられており、それは回転する作りになっている。これまでの重火器とは違い、一撃必殺というよりも、数で押し込める事に重点を置いたものだと、初めてみるアッシュとミサエルにも理解できた。

「ギルジス、君がこれを使うといい。一番スキルとかみ合っているだろう?」

「そうですね」

 木製の床に置かれたそれは鈍く、妖しい輝きを放っている。その輝きは己の儚い運命を物語っているのかのようでもあった。ギルジスがそれをしまうと、レクタードは話を続ける。

「次がこの武器、黄金杖ケリュケイオン。本来の魔法武器は、決められた一つの属性しか扱えないが、これは炎属性と、氷属性の二属性を扱う事ができる」

 四人でも余裕あるコンパートメントに、ギリギリ入るほどの長さの杖。それは金色に輝いており、最上部には一対の羽の装飾が施されている。

 レクタードは音を立てて床を叩くと、どこからともなく二匹の蛇が、音を立てずに現れた。その蛇は杖の周りを回りながらその半径を縮めて行き、二重螺旋状に巻きついた。

「この武器の真髄は他のところにあるが、まぁ、使っていれば分かるだろう」

 ケリュケイオンを手渡して、それをしまうように促す。金に輝くその杖は、ミサエルにとって憧れ中の憧れだった。

「三つ目が、大権現避来矢だ」

「ひらいし?」

 まだかまだかと気にしていたアッシュが問いかけた。彼女を落ち着かせながら、メニューをいじる。

「たぶん、思っている漢字とは違うけどね。盾だから、アッシュに渡そう」

 そう言って取り出された物を見たアッシュは、驚きの声をあげたが無理もない。一つの平たい岩に、一本の白い綱が結び付けられているだけなのだから。

「これ、ダサいね……」

 渋々、彼女はそれをしまう。そんな様子の彼女をみて、レクタードは口を開いた。

「大権現避来矢、言っておくがこれは、防御面では尋常で無く強い。盾は一応打撃属性であるが、その数値もトップクラスだ。避来矢、飛んでくる矢が避けて通ることから由来されたその装備は、魔法含めて全遠距離攻撃は、装備者を避けるようになる。もっとも、盾の武器スキルとはかみ合わない能力だから、装備者が望めば避ける事なく飛んでくるけどね。遠距離からの不意打ちで死ぬ、と言うことは完全になくなる」

 怪訝そうなアッシュであったが、とりあえず強い、と言う事だけは理解したのか。開きかけていた彼女の口は、改めて閉じられていた。

「で、最後がこの刀だ。ホグニの妖剣ダーインスレイブ、一応武器種としては刀だが、見たとおり剣だ。職スキル的に本当はバルカン砲M-134を使いたかったが、こっちは小銃の為のスキル構成だからね。職によって装備できる武器が限られるとかは無いから、誰もいないであろうこいつを使わせてもらおう」

 鞘から柄まで、全体が紅くなっている。他に目立った装飾などは無く、シンプルな剣そのものだった。レクタードはそれを一切抜くことなく、そのまま腰に装備する。

 いつの間にか列車はトンネルを抜け、広大な草原地帯を疾走する。一つ、二つと星輝きだす星はとても暗く、どことなく不安に感じさせていた。

 外はみるみる暗くなり、月が昇り始めている。一方はまだ赤い空、一方からは月が。夕暮れ時特有の光景はとてもきれいな物であった。

「渡した神葬装備だが、これは味方扱いのプレイヤーにも攻撃が通るようになっている。これまでは味方への攻撃は無敵となり、すり抜けていたが、この装備は違うためフレンドリーファイヤーに気を付ける必要がある。武器はノイズ化の影響がないらしいが、当然、体がノイズ化するとどうなるのか分からない。そこのところは気を付けてくれ。そして、ノイズ化したプレイヤーへの対処法だが――」

 不意に、コンパートメントを照らす灯りが点滅する。停電などと言った、それとは違う奇妙な点滅に、一斉に天井を見上げる。小さな炎の揺れる灯りは、いつの間に発生していたのか、天井を覆い、釣り紐を伝い、輝く銀のノイズによって阻まれていた。

「この部屋を急いで出るぞ!」

 慌てて飛び出す四人だが、その廊下には、いつの間に乗車していたのだろうか。既にノイズ化したプレイヤーが後方にいた。

「まだ距離はある。応戦しながら前方車両へ逃げるぞ!」

 四人はそれぞれの神葬装備を装備すると、彼らへと構えた。


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