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文化祭ではっちゃけましょう! 前






那音「あれ…」

優弥「どうした?」



その日は前夜祭。

待ちに待った、四方校合同大文化祭『四奉祭』である。

東雲学院高等部二年生の柳瀬那音と小野口優弥は、家がお向かいさん…なので一緒に登校します。

途中、那音が不振な段ボールに入った子猫を一匹発見してしまう。

黒と白のまだら模様…ぶち猫だ。

毛布にくるまりプルプルと震えている。

段ボールには古風にも『拾って下さい』の文字……。


那音「……い…今時マジでこんなシチュエーションあるもんなんだねぇ…」

優弥「…都市伝説にもならないレベルの古風さだな…」


しかし二人とも動物は好きだ。

那音がひょいと子猫を持ち上げる。

か細い「にゃー」という鳴き声に、那音は一気にメロメロになった。


那音「かぁーわいーい! うちで飼おっかなー」

優弥「…芳那さん、動物平気なのか?」

那音「うん! 優理子も大丈夫だよ!」


芳那…那音の父親である。

優理子…那音の母親だ。

両親を名前呼びな近頃の若者は、幼なじみの優弥へ花のように笑いかける。


那音「この子、優理子に預けてくる! 優弥、先に行ってていいから!」

優弥「…お…おう…」


元グラドルの母親似である那音は成長すればするほ、ど母親に似てきたと優弥は思う。

小さな頃は優弥の方が背も伸び悩み、顔も女の子みたいで那音の方がカッコ良かった。

高校になって、すっかり逆転した背丈。

顔付きも完全に望んでいた通り、男らしくなった。

那音の影響なのか、告白される事は神楽ほど多くはないけれど…。



優弥(……待っててやりたいが…一応生徒会も文化祭の実行役だから遅刻はできねーんだよなぁ…)



那音の事を待っててやりたい。

毎朝一緒に行く時間が、一番穏やかで優弥は好きだった。

帰りは自分が部活や、生徒会があり那音を先に帰らせる事が多い。

特に最近は、文化祭や体育祭で朝も登校が早かった。

那音はわざと自分も早く出て、登校時間を優弥に合わせてくれたけれど…それも申し訳がない。

そんな風に最近は気を使わせてばかりだったから、今日はゆっくり二人で登校したかったが…。

仕方なく、優弥は先に学校へと入った。


神楽「優弥、早いな」

優弥「神楽? お前どうした、こんな早く?」

神楽「泊まりだ。…なんでも女子たちが衣装作りが間に合わないとかで…実際に着用する男が一人くらい居て欲しいとか…」

優弥「……。…襲われなかったか?」

神楽「心配はない。命までは奪っていない」

優弥「………」


教室はすっかり執事喫茶にリメイクされていたが、中には神楽だけ。

その女子たちはどうしたのかと聞けば、ミシンのある家庭科室だと言う。

いくら東雲学院一の美男子だからと言っても、神楽を夜這いするとは…無謀な…。








…殺してはいないらしいが、無事でもなかろう。

なにせ神楽の戦闘能力は優弥や梅松以上…正直人間離れしている。

弱っちい那音ならいざ知らず、そんな神楽に襲い掛かれば結果は考えるまでもない。

そもそも優弥は女子を殴る事が出来ないのだが、神楽はどうも「殺られる前に殺る」意識が高いので男だろうが女だろうが関係ない。

クラスの女子たちの安否をそこはかとなく心配はしたが、どう考えても神楽を襲った女子どもが悪いので優弥はさっさと生徒会室に向かう事にした。



神央郷「わぉーん! おはようなのだなー!」



がら、と生徒会室の扉を開ける。

推定身長145センチ、犬のたれ耳と尻尾を装備したぱっと見小学生…奴の名は神央郷蘭。

これでもれっきとした、この東雲学院高等部の生徒会長でいやがる。

優弥のクラスでクラス委員長も勤める、早い話ただの目立ちたがり。

大の犬好きで、自分の頭に耳、ケツに尻尾を装着し犬になりきっている気持ち悪さ。

見た目小学生でなければシバき殺しているところだ。


文芳「おはようございますぅ、小野口くんっ」

白亜「おはようですわ。遅かったですわね」

紅葉「おはよ、これで揃ったね」

優弥「…お前ら早すぎだろ…」


まずは書記、黒崎文芳。

那音の母親並みのグラドル体型で、のほんとした喋り方だが凄まじい腐女子。

漫画アニメ研究部で日々、優弥たちの同人誌を制作する黒幕的女だ。

次に会計の鳥居白亜。

ほっそりスレンダー体型のツンデレ風お嬢様。

黒髪ツインテールが特徴で、生徒会一筋の神社の跡取り娘。

文芳とは親友同士らしいが、よくついていけなくなっている。

そして最後、経理、都村紅葉。

生徒会の良心、優弥の代わりに突っ込みも担当できる赤髪眼鏡の生真面目くんである。

主に神央郷への突っ込みの強力さは優弥を上回る。

仕事も完璧だし、頼りがいがある男子生徒だ。


文芳「それじゃあ、わたしと白亜は各部活の完成度調査に行きますわ。前夜祭とは言え今日から本番と言っても過言ではありませんもの…終わっていない部があれば報告しますわね」

白亜「え、わ…わたくしも行きますの?」

文芳「…白亜は招待客の名簿作りがあるのでしたわね…、ごめんなさい。ではわたし一人で行きますわ」

白亜「ごめんなさい、文芳…」

文芳「あら、お気になさらないで。白亜は白亜の仕事をなさって?」



……相変わらず、この二人の会話は北雲のお嬢様たちみたいである。



神央郷「わんわん、ならば吾が輩が一緒に回るのだなー! わんだけにー!」

文芳「え、ウザイですわ」

神央郷「わぉん!?」

紅葉「…僕は構内の安全確認かな…特に屋上の庭園風カフェの柵は要確認だからな。優弥は…」

優弥「俺は放送部とイベント進行リハの調製だな。先にタイムテーブル確認してくる」

白亜「…では、わたくしお留守番してますわね」








面倒くさい。

正直、こんなのは文化祭実行員の仕事なのに…。

愚痴っても仕方ないのだが、優弥は頭を掻きながら体育館のステージに向かった。



国重「あ…お、小野口…!」

優弥「……」



その途中、一年の時に優弥のソフトストーカーになっていた国重刹羅と遭遇した。

二年生に上がってから、那音同様優弥に背を追い抜かされた国重は、今ではすっかり優弥を敬遠気味になった。

こういう奴を見ると、本当に那音は凄いと思ってしまう。

優弥のなにが変わっても、那音はなにも変わらずに側で微笑みかけ続けてくれるのだ。

それがどんなに凄い事なのかを、優弥は国重達のような奴らを見る度に思い知る。

国重を無視して体育館のステージでリハーサルの打ち合わせをしていた演劇部の部長や放送部、実行員とタイムテーブルを確認した。

……相変わらず女子の目線が熱いが、優弥は無視する。

女子に興味はない、というより、優弥は自分の懐に入った人間以外に興味がない。


女子「ねぇねぇ、小野口くん! 今日のキャンプファイヤー、誰と回るの?」

優弥「…仕事やってる…」

女子「えー、うちらと回ろうよー」

女子「ね、ね、この暴露コーナー、きっと小野口くんに告る子たくさん居るよ! 選り取り見取りじゃん? 見においでよー」


…鬱陶しいので早々に体育館を後にした優弥。

どうしてこう、女は面倒くさいのか。

大体先日の修学旅行で粗方の女子は振った。

もう、優弥や神楽に告白してくる奴らはいないと思う。



優弥「!」


谷津「!」



溜め息を吐きつつ、生徒会室に戻る途中…谷津勝利と遭遇した。

谷津勝利、野球部のエースピッチャーである。

那音が野球部部長だった時、那音に才能を見出されて外野からピッチャーに転職したらしい。

野球部の那音信者の一人で、優弥に対して宇都宮玄太並の敵意を向けてくる。


谷津「……」


優弥「……」


お互いに無視。

那音が居れば、また反応は違ったかもしれない。


谷津「…そうだ、君、生徒会役員だよね?」

優弥「…?」

谷津「…俺の彼女が、写真部が無断で女子のプロマイドを売買してるって怒ってたんだ。…早めになんとかして欲しいって」

優弥「……分かった」


すれ違ってから、睨み付けつつそんな事を言う。

というか、谷津は彼女が居たのか…と優弥はちょっとだけ驚いた。

まあ、確かに東雲学院イケメン五本指には入ると言われている奴だ、居るのは当たり前かもしれない。

つまり谷津は、今井や笹川や宇都宮と違って純粋に那音を案じて…尊敬しているのか。



優弥「………………」



そう思うと、胸が押し潰される様な気分になる。












~その頃の那音~


那音「神楽ぁー! オハヨー」

神楽「おはよう」

那音「見て見て! 今日ね、朝に猫拾ったんだー! 帰りに病院連れてくんだけど、名前なににしようかなーぁ」

猫「なぁーぅ」

神楽「ねおでいいんじゃないか?」

那音「そっかぁー! 那音、理音、音音! ねおー」

音音「にぁーぉ」


女子「柳瀬くーん、燕尾服早く着て着て! 神楽くんの燕尾服、今日間に合わないかもしれないから!」


那音「…へ?」


女子「今日は働いてもらうわよ…柳瀬くん」


那音「ええええぇー!?!?」

音音「にゃー(ご主人だけに働かせるとぁふてぇ連中にゃー!)」

神楽(…子猫とは思えない口の悪さだな…)




猫が教室に居る件は?


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