お買い物に行きましょうか。
露姫「買い物行かない!? 明日!」
梅松「なにを買いに行くんだ?」
露姫「服!」
優弥「はぁ? なんで?」
と、いつものように言い出したのは眞田露姫である。
彼女は仲間内で、常に騒動の発端となる。
しかしながら今回、彼女がそう言い出したのは理由がある。
露姫「……神楽の私服、梅、こないだ見たでしょ…? あれは買わなきゃダメよ…」
東雲学院高等部で有名なイケメン三名が含まれた五人組。
眞田露姫、その恋人、松竹梅松。
松竹梅松の幼なじみで、イケメンその2…小野口優弥と、同じく幼なじみのイケメンその3で、学院名物の変態…柳瀬那音。
そして柳瀬那音の友人でイケメンその1…神楽祭。
学院で常に話題の中心となるアイドル的イケメントリオ+α…。
本人たちにほとんどその意識がないので、現在進行形で注目を集めているなどとは気付いてすらいまい。
梅松「…こないだって……ああ…あれか……そうだな…」
那音「ああ…まさかジャージで来るとは思わなかったもんなぁ…」
神楽「?」
神楽以外の四人は腕を組んで先週の日曜日の出来事を思い出していた。
彼らの遊びの誘いをいつも拒んでいた神楽を説き伏せ(※騙したともいう)連れ出した時に発覚した異常事態。
そう、まさか東雲学院高等部一の美形と名高い彼が、学院指定のジャージで待ち合わせ場所に現れるとは誰が予想出来ただろうか。
それだけならまだしも、那音が「何故ジャージ?」と訝しみつつ問えば「これしか持っていない」と真顔で即答してきたではないか。
優弥「…そうだな、みんなで神楽の服を見繕うか」
神楽「?」
梅松「さすがにあれはまずいもんな」
神楽「??」
那音「なぁなぁ、こないだ中央東駅前に出来たショッピングモール行こうぜ! 色々見られるし隙を見て優弥とデート出来るし!」
優弥「しねぇよ」
神楽「???」
当事者置いてけぼりである。
露姫「じゃ、明日中央東駅前に集合よ! 分かったわね、神楽!」
神楽「何故…」
露姫「約束破ったら血祭りだからね」
神楽「何故…!?」
梅優那「・・・・(相変わらずむちゃくちゃだな…)」
そんなこんなで翌日。
中央東駅前に集合した五人は案の定ジャージで現れた神楽を引き擦りながら、件のショッピングモールへ向かった。
那音「しかし神楽って一年生の時から謎だったけど、付き合ってくとより謎が多い奴だよな~」
優弥「確かに…どっから通ってんのかも不明だしな…」
那音「なぁなぁ、神楽ってどの辺りに住んでるんだ?」
神楽「…特に決まっていない…」
露梅優那「・・・・・・」
笑顔の固まった那音と梅松。
思わず振り返った露姫と優弥。
神楽「………なんだ?」
優弥「いやなんだじゃねぇし」
那音「決まってないってなに? お前家どこ!?」
神楽「………特に決まって…」
優弥「実家はどこだ!?」
神楽「………………………森…」
優那「妖精さんか!?」
さすが優弥と那音、幼なじみらしいサウンド突っ込みである。
居心地悪そうに目を逸らす神楽。
本人、一応嘘は言っていない。
実際彼の実家? は森の奥地だ。
優弥「つか住む場所決まってないってお前まさか家なき子か!?」
神楽「う…」
露姫「止しなさいよ優弥! きっと何か深い事情があるのよ!」
梅松「そうだな、きっと何か事情があるんだよな………神楽、お前っ…苦労してるんだな………っ、俺のうち剣道道場で家は広いんだ! いつでもうちに来てくれて構わないからな!」
神楽「は……はぁ…?」
那音「そうだなそうしろよ神楽! このご時世に家なき子だったなんて……イケメンってだけで偏見を持っていた俺を許してくれ!」
神楽「………………」
優弥「……神楽、今度俺んちに飯食いに来いよ。ちっさい弟居てうっせーけど…俺料理は得意だからなんでも作ってやる」
神楽「………………」
…なんだか良く分からないが話は纏まったようだ。
何故かハンカチで目元を拭う露姫と梅松。
那音は袖口で粗く目元を拭っている。
そして何故か非常に居たたまれない気持ちになる神楽と、神楽とは違った意味で居たたまれない気持ちになった優弥。
そして涙を拭った露姫が、気合いを新たに入れ直す。
露姫「神楽、今日は私達の奢りよ!」那音「ああ、欲しい物があったらなんでも言えよっ!」
梅松「俺も今日は清水の舞台から飛び降りる気で協力するぜ!」
優弥「仕方ねーな…」
神楽「………え…あ…いや、よく分からないが、そんなに気を使わないでくれ…」
梅松「くぅぅ! 神楽、お前謙虚だな! けど俺達友達なんだから遠慮はいらねーぜ!」
露姫「そうよ! 友達にそういう気を使うもんじゃないわ!」
神楽「……………………」
困惑する神楽をずるずる引き連れて、近くにあったメンズ服売り場に入る五人。
元々趣味のいい那音の見立てで数着、上下で服を無理やり買って押し付ける。
勿論四人の奢りである。
梅松「神楽は荷物どのくらいあるんだ?」
神楽「? 荷物?」
梅松「私物。家がないくらいだから持ち運びできる量しかないんだろう?」
神楽「…ああ…通学鞄で事足りている。教科書は全部ロッカーに置いてあるからな」
露梅優弥「・・・・・・」
うるり…再び露姫と那音の目に涙が浮かぶ。
そりゃそうだ、彼は家がないのだから。
持ち帰る場所がないのだから。
学校ではそのイケメンぶりに嫉妬され、優弥との仲良しぶり? に嫉妬され、学年トップ独走な優秀っぷりに嫉妬されている彼が…。
露姫(まさかの家なき子…!)
那音(まさかの路上生活者…!)
お前最後に風呂入ったのいつだよ? と優弥が問うと少しムッとされた。
神楽「毎日入っている…」
那音「え、どこで?」
神楽「山林を流れる河だ」
露梅優那「・・・・・」
…どうしても可哀想なものを見る目になってしまう。
無理もない、だって生活が完全に路上生活者なのだ。
食事はどうしているのかと聞けば水だけ飲めば生きていけるというサバイバルな返答。
最後の食事はいつだ、と聞けば一昨日、とか言われる。
なんという生活苦。
学院高等部で一番の美形がなんという日常。
通りで一度も昼食を食べているところを見たことがないわけである。
あまりの境遇に、四人はまた目頭が熱くなった。
優弥が神楽の肩を掴む。
優弥「……なにか食いたいものはないか…?」
神楽「……は…?」
梅松「レストラン街行くか」
露姫「フードコートは三階よ!」
神楽「は、…え…っ?」
勿論強制連行である。
神楽「………………俺は何か変なことを言ったのか…???」
急変した同級生達の態度に、本気で疑問付を浮かべる神楽。
その日の帰り、剣道道場を営む松竹梅松の生家に荷物ごと連行された神楽は、住居として一室あてがわれる事になった。
~後日談~
那音「神楽~、お弁当作ってきたよー! 俺のお手製弁当なんか優弥にしか作ってあげた事ないスーパーレアなんだからありがたく食えよ!」
神楽「あ…ああ…しかし俺は固形物食せない。優弥にあげれば…」
那音「固形物が食えないって、体調でも悪いのか…!?」
露姫「あんたちゃんと食べてるの!?」
梅松「朝ご飯も残してたが…病院行くか!?」
優弥「コンビニで粥でも買ってきてやろうか…?」
神楽「…………、…ありがたく…いただく…」
扱いがまるでご老体。




