第八話「ファンタジー世界における不動産業界の市況 ~ 魔王城の不動産価値 ~」
世の中には、触れてはならない世界がある。
呪われた宝石、災いを呼ぶ人形、死者の慟哭が聞こえる自殺の名所。
そして、その究極形と言えるものが、【魔王の城】である。
有望な不動産物件を物色していたところ、タイミング良く勇者が魔王を退治したという情報を聞きつけ、主の居なくなった魔界の王の居城を不動資産として転売する事を思い付いた投資家ケルナー。
地縛霊どころか、本物の悪魔が住みつく この不吉な城を不動産として売り込むには、どうしたらいいのか?
余程の資産価値を生まなければ、こんな災いの源のような不動産を求めるようなモノ好きは、皆無であろう。
しかし、数百にも及ぶ部屋と、広大な謁見室、そして巨大攻撃魔法にも耐えうる頑強な建物構造等、魔王が住んでいたという点を除けば、極めて優良な不動産物件ではある。
要は、購入者にメリットがあると思わせれば良いのだ。
「防犯用途で、この魔王城を有効利用できないものか?」
凶暴な怪物が徘徊する建物に侵入を試みる、命知らずな盗っ人は居ない。
たとえ怪物の追跡を振り切っても、仕掛けられた死のワナが侵入者を拒絶する。
下手な防犯装置よりも、確実に侵入者を撃退出来る安心の防犯システムという訳だ。
まあ、家主も命の危険にさらされる形となるが、住む家としてでは無く、大切な資産の保管場所と考えれば、申し分の無い、最適な場所となるだろう。
【あなたの大事な資産、悪魔に託してみませんか?】
こんなキャッチフレーズで、違法資金の隠し場所に困っている非合法組織のマフィアや脱税目的の悪徳商人にPRを始める投資家ケルナー。
悪魔に資産を預けるという行為自体、盗賊に資産を任せる以上にハイリスクなのでは?との利用者の声があったのは、事実である。
盗っ人の親玉たるマフィアが、盗っ人を引き合いにリスクを語るとはお笑い草だが、大切なお客様へのアフター・サービスも重要だ。
ケルナーは、こう力説した。
「仮に違法資金の差し押さえの為に国税庁が動いたところで、本場の悪魔や悪霊が国家権力の介入を撃退する! 魔王城こそが、あなたの大切な資産を完璧に守るのだ!!」
メフィストフェレスめいた笑顔を浮かべて、文字通りの悪魔の囁きでマフィアや悪徳商人をそそのかす投資家ケルナー。
ケルナーの甘言に踊らされた腹黒い資産家達は、魔王城の部屋を買い取って、隠し資産の金庫として利用した。
巨大隕石の直撃にも耐える頑丈な城壁と、凶暴なモンスター達に守られた魔王城は、確かに如何なる違法資金の隠し場所より堅牢であった。
しかし、魔界の城という異界の境界線に資産を置いておくのは、リスク管理という意味合いでは安全とは程遠かったのである。
魔王城に巣食う、この世ならざるモノが、金目のモノに捕り憑いたのだ。
盗掘オークションで競り落とした《黄金のデスマスク》が呪いの言葉を呟き、とある資産家から略奪した《大理石の彫像》が、この世のものとは思えぬ断末魔を叫ぶ。
恐喝して「譲り受けた」《純銀の鏡》に無念の表情を浮かべた落ち武者が映るなど、どう見ても真っ当な資産とは言い難い、呪われたアイテムと化してしまったのだ。
さすがのマフィアも『祟り』を相手にしては、得意の恐喝や私刑も通用しない。
逆に、悪霊の音程の狂った笑い声に、正気を保てず発狂してしまうチンピラが続出。
資産を持って逃げようにも、触った途端に祟られて、ポックリ逝ってしまう海賊王も居た。
やがて、違法資産の持ち主である裏社会のボスと、その家族が原因不明の病気で立て続けに怪死してしまうと、恐れをなしたマフィアや悪徳商人は、預けた資産を完全に放棄した。
下手に触れば末代まで祟られる財産など 資産の価値は無い、と言って。
安全な資産運用を目指していたら、いつの間にやら危険極まりないオカルトめいた
資産運用となってしまった訳だ。
非常識な資産運用で、マフィアや悪徳商人など裏社会の住人をまとめて壊滅状態に追い込むという、歴戦の勇者すら舌を巻く離れ技を演じた投資家ケルナー。
だが、いくら犯罪組織を壊滅させてをクリーンな社会とやらにしたところで、ケルナーの財布に金が転がり込む訳では無い。
犯罪組織という厄介なお客様に大損害を与えたケルナーは、裏社会の住民達から
目の敵にされ、殺人対象の第一標的として登録される事となった。
そして、身の危険にさらされる破目に陥った投資家ケルナーは、止む無くマフィアの要求する損失補てんに同意し、またも巨額の不良債権を溜め込む事となった。
末代まで支払っても返済不能な巨額の借金を抱えた投資家ケルナーは、捲土重来、最大最後の大博打に挑む事となる。




