第七話「ファンタジー世界における芸能業界の舞台裏 その3~ 野望の果て ~」
【人工養殖アイドルに出資して、あなた方の手でトップ・アイドルに育て上げ、その売上で多額のリターンを! 妄想と実益を兼ねた画期的システム、ここに誕生!!】という胡散臭い触れ込みで多数の出資者を騙し、金をかき集める事に成功した投資家ケルナー。
欲の皮が突っ張った出資者から巻き上げた多額の資金を流用して、いよいよ前代未聞のアイドルの養殖事業プロジェクトを発動させる。
【トップ・アイドルに必須な能力】
1.歌唱能力
2.人を惹きつける美貌と話術
3.アイドル同士の熾烈な競争を勝ち抜く生存能力
4.秘密保持能力(恋愛、飲酒、喫煙等のスキャンダルを未然に防ぐスキル)
ケルナーが構想するプロジェクトの根幹は、4つのスキルを兼ね備えたアイドルを
顧客需要に合わせて、貧乳から巨乳、幼女から熟女まで、無限に作り出す事にある。
そこで目を付けたのが、様々なモンスターを合成させて作る魔獣の魔法実験のノウハウである。
この点は、そこら辺に隠れ住む邪悪な魔法使いを安値で雇ってこき使えば、クリアー出来る。
では、どんな怪物共を合成すれば、売れるトップアイドルが生まれるのか?
この技術の融合こそが、このプロジェクトの肝となる。
1.歌唱能力
美しい歌声で船乗りを魅了し、船を難破させてしまう〝セイレーン〟の歌唱能力。
コンサート会場で湧く観客の耳元で、その甘美な歌声を囁けば、思考停止に陥った観客を重度の信者としてマインド・コントロールが出来るだろう。
2.人を惹きつける美貌と話術
妖しい色香で男の精気を吸い取る〝淫魔〟の肉体を使用。
過剰な色気で煽って、ファンの耳元で放送禁止用語でも囁けば、キャバクラ嬢に大金を貢ぐ 悲しきオヤジのようなファンを大量生産できるだろう。
3.アイドル同士の熾烈な競争を勝ち抜く生存能力
アイドル同士の殲滅戦に最も必要なのは、並み居るライバルを謀略と策謀で地獄の底に叩き落す、悪魔の如き頭脳である。
故に、〝上級悪魔〟の脳を使用する事が望ましい。
4.秘密保持能力(恋愛、飲酒、喫煙等のスキャンダルを未然に防ぐスキル)
アイドルが最も恐れるスキャンダル対策。
百戦錬磨の勇者パーティすら全滅させ得る『核爆発呪文』を唱えられる高位魔法使いの能力を付与させる。
スキャンダル暴きに躍起になって群がる芸能リポーターを、問答無用で皆殺しに出来る戦力があれば事足りる。
他人の人生を踏みにじる芸能レポーターでも、核融合爆発で蒸し焼きにされるリスクを冒してまで、追っかけをする度胸は無いであろう。
圧倒的戦力に裏打ちされた無慈悲な報復が、アイドルをスキャンダルから完璧に守るのだ。
「アイドル路線は決まった!養殖アイドルで、銀幕の世界を席巻しようではないか!」
そう息巻きながら、多額の資金を注ぎ込み、合成魔獣製造用の研究所を建設する投資家ケルナー。
巨大な研究施設に、最新式の研究設備を整え、隠れ住む多数の邪悪な魔法使いを騙して連れて来ては、安値で長時間の研究労働に従事させたのだ。
幾度ものトライアル&エラーを繰り返し、跳ね上がる研究費にもめげずに、何とかプロトタイプの合成アイドルの開発に成功。
当初の計画通り、男を狂わせる歌声と色香を醸し出す悪魔的頭脳を持った、愛くるしい試作型アイドルの完成度の高さに、一人酔いしれるケルナー。
「さぁ、世の男共よ、萌え狂え! そして、財布の中身を俺に向かって吐き出すがいい!」
早速、養殖アイドルの量産化に着手する投資家ケルナー。
しかし、破滅は音も無く 足下に忍び寄っていた。
養殖アイドルの開発に当たって、あらゆる試行錯誤が繰り返された結果、様々なタイプの合成獣がデタラメに生み出されたのである。
人面犬、鳥女、蛇女などは、まだ常識の範疇である。
貧乳の巨人族、リビングスタチュー(生きた美少女フィギュア)、満月の夜に大猿に変身するアイドル等、いささか趣味に走り過ぎた合成魔獣が、数多く作られていたのである。
こんなキメラ達が、ケルナーの研究所に所狭しと徘徊していたのだ。
《人外の館》《魑魅魍魎の研究所》として、ご近所の奥様方にウワサされるのに、さほど時間は掛からなかった。
このウワサを聞き付けた旅の勇者パーティが、『世界滅亡をたくらむ邪悪な魔法使いの秘密研究所』と勘違いして攻め込み、問答無用で研究所を完全爆破してしまったのである。
卑劣な勇者達の破壊活動で、ケルナーのトップアイドル養殖化計画は、敢え無く水泡に帰した。
「おのれ、邪悪な勇者共め! 何でもかんでも、殺して破壊すりゃ正義だと思ってんのか!」
秘密基地を爆破された悪の組織幹部ようなセリフを吐いて、訴訟を起こそうとするケルナー。
しかし、キメラの養殖とは言え、人体実験まがいの研究を秘密裏に行っていたのは事実だ。
真実を白日の下にさらされて、逆に多額の賠償金を支払う羽目に陥ってしまった。
ただでさえ、大赤字のケルナー・プロダクションにとって、この賠償金支払命令は致命傷となり、銀幕の世界からの撤退を余儀なくされたのである。
銀幕の世界に殴り込みを仕掛け、旧態依然の芸能業界を破壊し、新興勢力のトップになろうとした野望の果てに、膨大な借金だけが残骸のように手元に残った。
普通の人間であれば、一生かかっても返せない借金を苦に、世を儚んで自殺するのが常道である。
しかし、この男は常識が通用しない投資家だ。
「さて。 次は、どの業界が狙い目か・・・。」
〝前科歴のある、淫猥物を扱うポルノ業者〟の称号だけでなく、〝世界滅亡をたくらむ邪悪な投資家〟という有難くない称号まで得たケルナーは、詐欺師めいた瞳を輝かせながら、不死鳥の如く消費者の前に懲りずに舞い戻って来るのだ。