第六話「ファンタジー世界における芸能業界の舞台裏 その2~ トップアイドルの人工養殖 ~」
【近所に住む地味な女の子を魔法少女に変身させて、《マジカル・パワー》でトップアイドルを目指す】というコンセプトで、ファンから金を巻き上げようとしたビジネスが破綻し、坂道を転げ落ちるように会社経営が悪化するケルナー・プロダクション。
デフレ市場と言えど、低価格なだけの魔法少女に金を落とすような甘い客は居ないという、苦い現実にさらされる投資家ケルナー。
ファンの度肝を抜くようなハイスペックなアイドルでなければ、客の固い財布のヒモを緩めるのは不可能なのだ。
しかし、ファンがお布施をばら撒くようなアイドルとは如何なる存在か? という、根本的な問題を解決する必要がある。
美少女をスカウトしても、可愛いだけのアイドルはゴロゴロ居るので、投資に見合った利益を出すにはリスクが高い。
では、ファンが求めるアイドルに必須な能力とは、何なのか?
ケルナーが考察した、アイドルに必要なスキルは4つ。
1.歌唱能力
2.人を惹きつける美貌と話術
3.アイドル同士の熾烈な競争を勝ち抜く生存能力
4.機密保持能力(恋愛、飲酒喫煙等のスキャンダルを未然に防ぐスキル)
「歌が上手い」「美人」なだけでは、アイドルとして大成しない。
アイドル(偶像)と呼ばれる存在である以上、観客達が魅了されるだけのカリスマ性と、スターダムに のし上がろうとする向上心が無ければ、単なる金食い虫=不良債権にしかならない。
要は、「歌って踊れて」「美人でお喋り上手であり」「ライバルを地獄の底に突き落としてでもスターダムにのし上がろうとする」「心臓に剛毛が生えた鋼鉄の処女」こそが、投資家ケルナーの欲するアイドル候補生となる。
この極めて高難易度な条件をクリアーするとなると、結論はただ一つ。
【全てのスキルを兼ね備えたアイドルを、人工的に作成する事】
ケルナーが熟考して出した結論は、アイドルを人工養殖するという突拍子も無いアイデアだった。
居るかどうかも判らない天然モノを発掘するより、人工的にトップアイドルを量産してしまうほうが、手間もリスクも省略できる。
ファンの趣向に合わせて、貧乳から巨乳、幼女から老婆まであらゆるジャンルを網羅するアイドルを揃えられるのだから、メリットは大きい。
だが、大きな問題が一つある。
その人工養殖をする為の大掛かりな設備や環境を、貧乏な弱小芸能事務所がどうやって揃えるのか?という資金面の問題である。
【告知! 美少女を養殖する為に、多額の資金が必要です!出資者大募集!!】
金をかき集めるには、こんな広告を打って出資者を募るのが一番早い。
しかし、ケルナーの世間的評価は、〝前科歴のある、淫猥物を扱うポルノ業者〟なのだから、こんな広告を出したら また刑務所へ投獄されかねない。
これ以上、犯罪歴を増やすのは利口とは言い難い。
それに、こんな広告で手軽に金を出す程、出資者という人種はピュアでは無い。
欲の皮の突っ張った人種を誑かすには、ノーリスク・ハイリターンを大々的に宣言するのが手っ取り早い。
「人工養殖アイドルに出資して、あなた方の手でトップ・アイドルに育て上げ、 その売上で多額のリターンを! 妄想と実益を兼ねた画期的システム、ここに誕生!!」
そんな胡散臭い触れ込みで、特定商品預託のオーナーとなる出資者を募る投資家ケルナー。
後は、安○楽牧場の如く政治献金でもばら撒いて、クリーンに偽装した悪徳政治家に広告塔になってもらい、リスクゼロを強調してもらえば良いだけだ。
こうして妄想たくましい欲の皮の突っ張った出資者を多数募り、巻き上げた多額の資金を流用して、いよいよ『アイドルの工業生産』というファンタジーにあるまじき試みが開始される。
銀幕の世界に新しい旋風を起こすべく、投資家ケルナーの本格的アイドルプロデュースが、ここに開幕する。