第四話「ファンタジー世界におけるファッション業界の最新流行 その3~ ファッションアイテム【愛棒】 ~」
ビジネス戦略を根本から間違えた事により、大量の《棍棒》という不良債権を抱え込んだ投資家ケルナー。
しかし、ピンチをチャンスに変えるべく、装いを新たにケルナーは武器商売の概念を覆す、まったく新しい武器の開発・販売を展開した。
【可愛いオシャレ武装で、気になるアイツをノック・ダウン】
オシャレとは、意中の異性をトリコにする武器である。
獲物(気になるアイツ)をゲットする為、オシャレで武装して相手を悩殺するのが、人間の本能というものだ。
だが、この世知辛い世の中、イケメンでもない男や冴えない容姿の女が、少しオシャレをして決めセリフを言ったところで鼻先で笑われて、惨めにフラれるのが関の山である。
しかし、どんな相手をもトリコにする武器を手に入れたならば、どんなキモい男でもハーレムを目指せる。
そんな夢のようなアイテムを売れば、在庫の心配など不要となるだろう。
そこでケルナーが目を付けたのが、凶暴なモンスターですら従順な味方へと変えてしまう補助系魔法『魅了』の応用である。
『魅了』を魔力付与した《棍棒》で〝気になるアイツ〟の頭をぶん殴れば、ヒロイン級の高嶺の花ですら従順な下僕と化すであろう。
ターゲット顧客は、思春期真っ盛りの青少年達。
この商品が市場に出回れば、恋多き少年少女達は《棍棒》を片手に〝出会い〟を求めて、街中をさ迷い歩くであろう。
【うだつの上がらなかったひ弱な僕が、オシャレ武装でモテモテに! 怪物退治は無理だけど、女の子なら一撃でノック・ダウンさ!】
こんなキャッチフレーズで《魅力機能付き棍棒》、名付けて【愛棒】を売り込む投資家ケルナー。
ケルナーの目論見は大当たりして、甘酸っぱい恋愛に悩む少年少女達は、【愛棒】を買い漁った。
瞬く間に在庫が底を尽き、【愛棒】欲しさに店内で暴動を起こす少女達が出る騒ぎとなり、一種の社会現象になるまで知名度が上がるケルナー・ブランド。
しかし、知名度が上がれば、それだけリスク管理も問われる。
【愛棒】を握りしめた少年達が、純粋無垢な乙女を求めて街中を徘徊し、片想いの先輩に恋焦がれて、【愛棒】を胸に抱いて待ち伏せ攻撃を仕掛けるゲリラ兵の如き少女達の暴力事件が多発したのである。
モンスターに怯えて暮らしていた街の住人達は、ある意味、モンスターよりも危険な桃色武装の青少年達を恐れるようになったのだ。
性犯罪の急増を危惧した治安警察は、【愛棒】を〝危険淫猥物〟ランクに位置付け、強制回収に踏み切った。
そして、販売主であるケルナーも、性犯罪を誘発する危険物取扱い業者として摘発され、逮捕された。
気鋭のブランド・プランナーとして名を馳せたケルナーは、一夜にして淫猥物を扱うポルノ業者の汚名を受けて、投獄される破目に陥ったのである。
「ファッション・アイテムを売っていたら、いつの間にやらポルノ・アイテムを売っていた事にされた。 警察の考える事は、理解に苦しむ!」
と、獄中のケルナーは無罪を主張したが、【愛棒】と言う名前からして いかがわしいアイテムを扱っていた点を指摘され、実際の少年少女達の被害状況を公表されるに至ると、ケルナー・ブランドのイメージは地に堕ちたのである。
〝前科歴のある淫猥物取扱い業者〟という屈辱的な称号を得たケルナーだが、元より世間体や風評などを意に介する男では無い。
保釈されるや否や、投資家ケルナーは新たな市場を求めて、消費者の前に再び舞い戻る。