第二話「ファンタジー世界におけるファッション業界の最新流行 その1 ~最弱武装をスタイリッシュに着こなす方法~」
勇者とは、冒険稼業における花形である。
凶暴な巨龍を退治する正義の味方、無慈悲な邪神を追い払う救世主等々、華々しい活躍を見せる勇者達ではあるが、そんな勝ち組は一握りしか居ない。
大抵の勇者達は、人目に付くことも無く、野原やダンジョンでザコキャラを相手に日々、僅かな小銭と経験値を稼いで、細々と生活しているのが実情だ。
そんな、わびしい生活を送る勇者達にも、スポットライトを浴びせるには、どうしたら良いのか?
それは、オシャレな武装で自己アピールさせる事だ。
人を魅了する、妖しい光沢を放つ伝説の魔剣。
ダンディズムの漂う、漆黒の闇の如きダーク・アーマー。
魔宝石と特殊金属で強化された、きらめく豪華な魔法の盾。
こんなオシャレ武装で街を歩けば、ファッションに敏感な都会の娘も、先を争って勇者達に熱い視線を投げかけるだろう。
が、問題は負け組の貧乏勇者の財布の中身では、こんな高価な装備を用意をするなど不可能だ、という現実である。
勇者の新人であれば、《棍棒》や《皮の盾》程度しか買う資金が無い。
負け組のベテラン勇者達も、財布の中身は似たり寄ったりである。
しかし、その現状を逆の視点で見ると、一筋のビジネス・チャンスが見えてくる。
【最弱武装をスタイリッシュに着こなすファッション技術】
消費者が価値あるモノと判断すれば、安物でもレア・アイテムに変換される。最弱武装の《棍棒》でも、希少性のあるブランド品と思わせれば、高く売れるのだ。
だが、安物に付加価値を付けて売るには、消費意欲をそそる派手な宣伝工作が必要不可欠である。
人気美少女アイドルが《棍棒》を片手に失恋の詩を歌い、いぶし銀の著名人が《皮の盾》を持って『本物が認める本場の皮の盾』というキャッチコピーでファッション雑誌に広告を載せれば、流行に敏感な勇者達は、最弱武装のブランド品に身を包んで、肩で風を切りながら街中を練り歩くだろう。
「ビジネス戦略は、決まった!」
後は、《棍棒》と《皮の盾》を大量に仕込んで、オシャレ武装の証たる〝ケルナー印〟を書き込めば、ブランド品の一丁上がりという訳だ。
ファッション雑誌に大々的に宣伝しながら、勇者達の財布のヒモが緩むのを、手ぐすねを引いて待つ投資家ケルナー。
しかし、ファッションの世界は非情だった。
勇者達は、悪趣味なセンスの光る最弱武装には、見向きもしなかったのである。
「フッ、やはり貧乏人にブランド品をあてがおうとしたのが、間違いの元だったか。」
閑古鳥の鳴く店の中、《棍棒》と《皮の盾》の大量在庫を抱えたまま、ニヒルに笑う投資家ケルナー。
だが、ここで商売を諦めて、店をたたんで夜逃げをするのは三流のやる事だ。
一流とは、ピンチをチャンスに変えるものである。
一流(と思い込んでいる)投資家の戦いが、ここに始まる。