最終話「投資の変神」
火事場泥棒の如き錬金術で、一気に億万長者として世に躍り出た投資家ケルナー。
巨額の負債を抱えた負け犬人生から、天文学的な金を動かす暗黒の黒幕へ。
ケルナーは、人生の勝利者として返り咲いたのだ。
しかし、それだけならこの男に匹敵する億万長者は過去に何人も居たので別に珍しくも無いが、この男が【投資の変神】という称号を得て、後世にまで名を轟かす事になったのは、その豪快な浪費ぶりにあった。
儲けた金は、右から左へ惜しげもなく、湯水のように使いまくったのである。
「ハーレムは、男の夢」
そう言って、巨費を投じて荒野のど真ん中に広大な地下歓楽街を作り、日夜 怪しげなネオンが灯る巨大ダンジョン型ハーレムを建設する投資家ケルナー。
そして、様々な設定を設けては、金に飽かせて世界中の美女達をハーレムに組み込んだのである。
一国が傾くほどの巨費を投入して、いい歳をしたオッサンが『面識の無い幼馴染』やら『親子ほどに年齢が離れた義理の妹』といった設定で世界中の美女をハーレムに組み込むサマは、ある意味、圧巻ではあった。
桁外れの散財で、年齢設定が狂ったハーレムの運営に勤しむ一方、金塊を大量に買い取り、《フラグ立て》と称して盛大に道中にバラ撒いた。
ばら撒かれた金塊を拾いに来る美少女を見染めては、その財力で釣り上げ、一夜限りの恋を楽しんだのである。
だが、さすがのケルナーも相次ぐ乱費によって、やがて金回りが苦しくなってきた。
フラグを立てるために、金塊をバラ撒く その常軌を逸したお大尽遊びは、確実にケルナーの財政事情を蝕んでいったのだ。
丁度その頃、ファンタジー世界は戦後の混乱期から脱して安定期となり、市場が
法整備を整えるだけの余裕が出てくると、非合法な経済活動に支障が生じ始めていた。
取り巻く環境が徐々に変化し、以前のような旨みのなくなった市況に対して、ここが潮時と決断したケルナーは、あっさりとノレンをたたんで、市場から身を引いたのだ。
計画倒産したケルナーは、その後、不動資産や家財道具を切り売りしながら、隠居生活をエンジョイしていたが、やがてそれらを売り尽くすと、さらに転々として、最後はスラム街のあばら屋に居を構えた。
最貧困層の住む薄暗いボロ家で、ケルナーは昔の使用人から生活費を恵んでもらいながら、細々と老後を過ごしたのだ。
そして、その場末のあばら屋で、この稀代の投資家は、誰に看取られる事無く ひっそりと息を引き取った。
享年52歳。
かつては、大国の国家予算を超えると言わしめた巨万の資産を、無一文になるまで使い果たして生涯を閉じたのだ。
長者番付一位の資産家が、スラム街で施しを受けながら老いさらばえるという皮肉な最後を迎えたのである。
いやしくも投資家としては、破滅型の完全な落伍者と言えるだろう。
こうして稀代の投資家は、市場から永久に退場した。
ファンタジー世界を混乱の渦に飲み込む その破天荒な投資術は、後年、多くの人々から非難を浴びた。
確かに、マフィアどころか、魔王・邪神すら投機目的としか見なさないその手腕には異論が多いが、一方で好意的な評価もある。
誰でも頭を捻って努力すれば成功するという夢を、ケルナーは身をもって証明した男だ。
その意味から言えば、剣一本で権力の座に登りつめた英雄王や、己の才覚だけで不動の名声を得た芸術家と変わりは無い。
ただ、ケルナーはその夢を『投資』というキャリアに求めただけに過ぎない。
この男が多くの人々から非難されながらも、潜在的なファンが投資家に多いのは、この所為かもしれない。
「投資の変神」 完




