第一話「ファンタジー世界における外食産業の行方 ~ リサイクル土鍋 ~」
「近所に巣食う怪物共を、有効利用できないか?」
こんな突拍子もない考えのもと、投資家ケルナーはまったく新しいコンセプトの商売を始めた。
【環境に優しい食生活 ~リサイクル土鍋~ 】
この不況下において食材コストが高騰する中、ケルナーは異質で安価な食材に目を付けた。
食材は、無限にある。そこら辺に徘徊するモンスターを土鍋にぶち込んで、煮込んで食べるのである。
人類にとって、災厄でしかないモンスターを再利用し、勇者達が退治した怪物を、土鍋料理用食材として使用するのだ。
怪物駆除による環境改善と食糧コスト対策という一石二鳥のプランに、勇者達は喜び勇んでモンスターを退治し、ケルナーに食材を売り込みに来るだろう。
まぁ、見た目はグロテスクだろうが、味付けを工夫して〝秘伝の味〟とやらにでっち上げれば、自称グルメ達は、この最先端の環境料理に驚き、グルメ雑誌にエコロジー土鍋と書き立てるであろう。
それを読んだ消費者達は、ケルナーのリサイクル土鍋店に長蛇の列を作って、先を争い土鍋料理にハシを突付くのだ。
【エコロジーを約束するリサイクル土鍋。 あなたも大いに飲み食いしながら、自然環境保護に参加しませんか?】
このキャッチフレーズに酔いしれた消費者達は、エコの為にモンスターを根こそぎ喰らい尽くすであろう。
「さあ、土鍋屋のフランチャイズ化を始めるとしよう!」
さっそく行動を起こしてモンスターを仕入れ、土鍋料理店の開店まで漕ぎ着ける投資家ケルナー。
しかし、現実は冷酷であった。
試食品を近所のガキ共に食べさせたところ、原因不明の食中毒を起こして、保健所が出動するという大騒動に発展したのだ。
保健所が調査した結果、〝レッサー・デーモン(低級悪魔)〟の肉が食中毒の原因と特定された。
地獄の悪魔を土鍋にぶち込んで、煮込んで食べたのである。
こんなゲテモノを食べて、たった二日間の腹痛で済んだのが、むしろ奇跡であろう。
環境には優しいが、人の胃袋には優しくないリサイクル土鍋は、ケルナーの構想に反して消費者の反感を買い、事業撤退に追い込まれたのである。
フランチャイズ化に失敗し、店舗もろとも火を噴く会社財政。
しかし、懲りるという事を知らないケルナーの投資術は、次なる市場を求めて蠢動を開始する。