重奏/ひぐらし
重奏
天を刺す塔の先端に
光厳の竜が独り
あれは神、あれは夢想
あれは厄、あれは聖獣
深海のごときその双眸が
見下ろす先に吟遊の者
手にしたリュートの旋律は
青海原の清風に似て
最後の弦がつま弾かれ
若き詩人が立ち上がる
漆黒の翼が広がりて
彼の前へと舞い降りた
“共に行こうぞ、彼の地を求め”
音無き声が大地に響く
竜の背には赤き髪
幻想という名の大地を目指す
★☆★☆
ヒグラシ
僕は少しのんびりだから
出てきた時は友達も消えて
空に向かって独り鳴けば
虚しさだけが空回り
丸い月はとても綺麗
涼しい風も気持ちが良い
でも僕が好きなのは
灼熱の太陽と入道雲
生まれてきた使命も果たせずに
寂しくなって散々泣いた
夕日の中に赤とんぼ
もうそろそろ時間みたいだ
力尽きてポトリ落ちると
誰かの瞳が僕を見下ろす
“もう秋だね”
季節外れの麦わらが
少しだけ羨ましくて
200文字制限は詩には辛いです。