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彼女の話

作者: 小瑠璃
掲載日:2013/01/24



僕はこれからあるひとりの女性の話をしようと思う。



話と言ってもそんな大したものじゃない。



ただ、彼女の言っていたことが個人的にとても面白かったんだ。


そして、僕の日常は少しだけだが変化したように思える。



そんな彼女のお話。



彼女との出会いから話すと長くなってしまう。


長い話はみんなあまり好きではないだろう。


手短にね。





「わたしは将来心理学を学んでみたいの。」



初めはそんなありふれた言葉だった。



心理学。


どんなことを学ぶのかなんて知らないが、前から名前からして面白そうだな、と思っていたものだった。



「心理学か。面白そうだね。学びたいからには何か理由があるの?」



ごく当たり前な質問。


すると彼女は少しだけ目を伏せて、

そしてにっこりと笑って言った。



「私はね、模範解答がほしいの。」


と。



「模範解答?」



「そう。模範解答。意味わかんないでしょ?」



いたずらっぽく笑う彼女の目はどこか寂しそうにも見えた。



「私ね、国語が嫌いなの。できないわけじゃない。特に文章読解の問題なんて大嫌い。」



国語の点数は毎回トップクラスの人間の口からそんな言葉が出るなんて思わなかった。



「本当は読書も嫌いだし、人とコミュニケーションをとるのも苦手。つまりね、」



彼女のイメージががらりと変わった瞬間だった。



「つまり、理解できないの。

どうしてこの人は今こんな風に機嫌が悪いんだろう。


どうして主人公はこんなことで泣いているんだろう。

どこが面白いんだろうって。

そんなことばかり頭に浮かんでしまうの。」



「えと、それは・・・」



「感じ方の違い。だから私は本を読んで学の。こういう時どういう対応をすればいいのかを。


少し、過去の話をしてもいい?」



僕はわくわくしていた。

何故かはわからないけれど、続きが聞きたかった。



「うん。」


そういう感情がつまった一言だった。




「私ね、中学の時に付き合っていた人がいたの。

中学生ってそういう年頃だからね。

でも、そういう年頃のはずなのに私は恋愛になんて興味がなかった。


告白してきたのは向こうからだったわ。その時はね、私も好きよって思ってたの。

でもそれはほんの数日のものだった。子供がおもちゃに飽きてしまうように。 

そんな簡単に。最低でしょ?」



やっぱり彼女は笑っている。



「きっとそれは恋愛感情ではなく、単なる興味だったんじゃないかなって無理やり解決しちゃった。それでね、彼に聞いたの。

「なんで付き合いたかったの?」

って。そうしたら、

「一緒にいたかったから」って。

前に読んだ小説にそんな言葉のっていたなあ、なんて変なことを考えてた。

「付き合わなくても一緒にいるじゃない。」そう答えるとね、

「それはなんか違う。」って小さい声で反論してきた。

「そうなんだ。あなたはそういう気持ちを理解してくれる人とお付き合いをした方がいい。」って振っちゃった。」



ひどい人だ。

最低だ。

はじめに思ったのは彼女を非難する言葉だった。


けれど僕は考えた。


何故付き合うのかを。

確かに一緒にいるだけなら付き合わなくてもできる。

何が違うんだろうと。



「それから高校生になってすぐ、私はもっとひどいことをしたの。自分のために。」



うっとりとしたような顔に少し鳥肌が立った。



聞いてもいいのか?


これを聞いたら僕と彼女の関係はどうなるんだろう。

友達でいられなくなるかもしれない。

そんなことを考えたがやっぱり聞きたかった。

ただの興味が僕の動きを止めたのだ。



「何をしたの?」



声がかすれた。



「そこまで大袈裟じゃなかった。

でもやっぱり許されないこと。



 私はやっぱり恋愛というのもが理解できなかった。他のことも。

でも、知りたかった。どうしても。

だからね、知り合いを利用して実験をしたの。」



「実験?」



「そう。その知り合いにね、彼氏さんがいたの。そのことは前から知っていた。とても仲が良くてね、幸せそうだった。だから、ちょうどよかったの。

観察対象として、実験対象として。

でもこの実験は第三者じゃいけなかった。当事者にならなきゃ意味がなかった。

ねぇ、私はね、本性が一番出やすいのは怒っている時なんじゃないかなって思うの。」



なんとなく察しがつた。

恋愛というものが理解できない彼女。

恋愛を満喫している知り合い。

この知り合いを利用してできる実験。

当事者にならなきゃ意味がない。

怒るという言葉。


それは・・・。



「その知り合いから彼氏さんを盗ったの。」



やっぱり。

予想は見事に的中した。

いや、してしまったと言うべきかもしれない。



「知り合い、ここではYと呼ぶことにしましょう。

Yは何の前触れもなく彼氏さん、

Tから別れを告げられた。

理由なんて聞けなかったみたい。

そのあとYがとった行動は私にはもっと理解できないものだった。」



僕の唾を飲み込む音が響いた。



「Yは風邪薬を大量に服用して自殺しようとしたの。

彼氏に振られただけで。

死んでしまいたかったのは私の方だった。Yのことは理解も共感も何もできなかった。

それだけじゃない。

Tのことも私を苦しめる要因だった。」



彼女の顔は変わらず薄く笑っている。



「Tは私を好きだと言ってくれた。

Yにキスしたのと同じ口でキスされた。

けれど、わたしの中には何もなかったわ。

空っぽのまま。

埋めるものもなければ欠けるものもない。

つまり0だった。

それ以上でもそれ以下でもない。

YにTと付き合ってる事がバレたときYはまた死のうとした。

それを私がとめた。

私はYからも、Tからも優しい人だといわれたわ。」



自分が最低なことをしたのにお礼を言われるなんて。



「辛かった?」



彼女から表情が消えた。

しかしそれは一瞬のことで、またいつも通りに優しく微笑み、ゆっくりと首を横に振った。



「え?」



「やっぱり何もなかった。0のままだった。0に何をかけても0であるように。


 数日して、Tに言ったの。あなたにはもっといい人がいるからって。」



考えられない。

少なくとも僕はこんな人にいままで出会ったことがなかった。


最低。

彼女はこの言葉がしっくりくるような人だ。



「その時、その場面でどんな対応をすればいいのか。

どんな考えを持つのが普通なのか。

他にももっとたくさんある私の中の疑問がもしかしたら消えるんじゃないか。

だから私は心理学を学びたいの。

答えがほしいの。

答えがあればテストなんて怖くないのと同じように。

生きていくのも怖くない。



それと・・・、


もう、

誰かを利用した実験なんてしたくないからね。」




そして最後に言った。



「本当は、心理学なんてどんなことを学ぶのかすら知らないし、さっき言ったのはただのイメージなんだけどね。」






あれから少し経つが、彼女には会っていない。



特別仲が良かったわけでもないからいいのだが、野良猫をイメージさせるような自由すぎる彼女から、普段は何にも興味を示さない彼女からあんな話が聞けるとは思っていなかった。



彼女の中の疑問が消えたのかも、今何をしているのかも僕は知らない。


けれど、もしまた会えたとしたら、彼女の好きなジャスミンティでも飲みながら話をしたいな。






これで彼女の話はおしまい。



僕は文章を書くのも読むのもが苦手だ。


だから僕のせいで彼女のイメージを悪くしてしまったのならすまないと思う。


冒頭、僕の日常が少し変わったといったが、人の気持ちを考えるようになったという本当に大したことじゃない、ごく当たり前のことなんだ。



読んでくれてありがとう。


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