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おかしなおかしのおしろのおはなし

 むかしむかしあるところに、お菓子でできた大きなお城がありました。

 森の奥ふかくにあるそのお城は、お菓子でできているのに、虫たちが全然よってこないのです。不思議ですね。


 そのお城に女の子が一人やってきました。


 女の子は部屋でお菓子を食べ続けていたので、お母さんに、

「お菓子ばかり食べてはいけません」

 と叱られてしまったのです。

「だって、お菓子の方がいつものご飯よりおいしいもの。仕方ないわ」

 女の子はそう言ってまたお菓子を食べようとしましたが、怒ったお母さんに取り上げられてしまいました。


 仕方なく森で遊んでいたらここに迷い込んでしまったのです。


「まあすてき。お菓子のお城だわ。これだけ大きければ、いくら食べてもなくならないわ」


 女の子はお菓子のお城の中に入りました。

 するとそこは一面お菓子だらけでした。


 お菓子の床。

 お菓子の壁。

 お菓子の天井。

 お菓子の燭台。

 お菓子の像。

 お菓子のいす。

 お菓子のベッド。

 お菓子の本棚。

 お菓子の花瓶。


 中でも女の子が気に入ったのは、

「まあ、お菓子の机の上のお菓子のお皿の上にお菓子が山盛りになってるわ。まるで夢のようね」


 女の子は早速お菓子を食べ始めました。


 はじめはいくらでも食べれると思っていましたが、やっぱり子供なのですぐにおなかがいっぱいになってしまいました。

「これだけあれば当分は楽しめそうね。続きはまた明日にしましょう」


 女の子はお菓子の食べ過ぎで、動くのもいやになってしまったので、家に帰らないでお菓子のお城のベッドで寝ることにしました。


 お菓子のベッドで寝て、またすこしお腹がすいたら、横になりながらお菓子のお人形をかじります。

 こんなことをしても怒る人は誰もいないのです。


 次の日も、また次の日も、女の子は家に帰りませんでした。

 もう帰る気もなくなってしまったのです。


 ここにいれば大好きなお菓子をずっと食べ続けられます。

 いやなお勉強をすることもありません。

 ただ一つだけ、ほかに誰もいなくて寂しいのが問題でしたが、それもすぐに解決しました。

 ほかの女の子がやってきたのです。


 その子も同じような理由で森にやってきて、迷い込んだのでした。

 また何日かすると別の子供がやってきて、それから数日後にまた何人かやってきて、お菓子のお城はいつの間にか子供たちでいっぱいになっていました。


「これだけお友達がいれば、もう寂しくないわ。もうここから一生出なくても大丈夫ね」


 お菓子のお城の周りには、いつの間にかお菓子の兵隊さんが立っていました。

 お菓子の兵隊さんは子供たちには何もしませんが、じゃま者は追い払ってくれるようなので、安心です。



 それから何ヶ月かたちました。今日も女の子たちはお菓子を食べ続けます。


 いつの間にか女の子たちは服を脱いでいました。

 はだかになっても怒る人もいないし、チョコとかクリームが付いたりしてじゃまになるからです。


 女の子たちはもうベッドではなく床で寝ます。

 どうせどこもお菓子でできているから、どこで寝ても同じなのです。


 一日中お友達と遊んだりおしゃべりしながらお菓子を食べて、疲れたらその場で眠ります。


 そんな毎日の繰り返しでした。


 それでもお菓子は全くなくなる様子がありません。

 それどころか、いつの間にかお菓子のおきものやお菓子のおもちゃなどが増えているのです。


「これはなんだかおかしいわ」


 そのことに気づいた女の子は、このお城にきて初めて夜更かしをすることにしました。

 昼間は、おおぜいのお友達が見ていても、お菓子のおきものが増える様子はないので、何かおかしなことが起きるのは夜だろうと考えたのです。


 女の子はみんなとお菓子を食べ疲れて、少しうとうとしていましたが、はっと目を覚ますと、お菓子のカンテラを持って夜のお城を歩き回りました。

 ちなみに、このお菓子のカンテラは、何もしなくても火がついているのです。不思議ですね。


 女の子は、床で寝ているほかのおおぜいのお友達を踏まないようにそーっと歩きました。


 階段を下りて、下りて、地下まで下りました。


 すると、お菓子でできた床の隅から光が漏れていました。

 昼間は気づきませんでしたが、床の下に何かあるみたいです。


 女の子はちょっとだけ勇気を出すと、大きなビスケットの床をめくって、食べました。


 そこはまた階段になっていました。


 階段を下りて、びくびくしながら進むと、ドアがありました。

 隙間があいていたので、女の子はそっとのぞき込んでみました。


 そこには女の子のお父さんとお母さんがいました。


 周りを見ると、ほかの子供たちのお父さんやお母さんらしい人が大勢います。

 たくさんの人たちが、お菓子の兵隊さんにたたかれながらお菓子を作っています。


 それは過酷な労働でした。

 少しでも手をゆるめたらお菓子の兵隊さんはお菓子のむちでたたきます。

 お菓子の鉄砲で撃ちます。

 失敗したら、何か腐ったような変な色のお菓子を食べさせられます。


 子供のお父さんやお母さんは、みんな自分の子供がいなくなった次の日にここにやってきて、そしてお菓子の兵隊さんに捕まったのでした。


 そのことを知った女の子は部屋の中に飛び込んでお菓子の兵隊さんにつかみかかると、そのまま食べてしまいました。




「ごめんなさい」




 それから十年以上が経ちました。


 森の近くの村で、今日もお母さんが子供を叱る声が聞こえてきます。


「お菓子ばかり食べてはいけません」

学園モノの『家出少女と旧校舎』もよろしくね。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 小説、拝見させていただきました。 本格的な童話ですね!とても素敵でした。 メルヘンチックな雰囲気と、子どもたちへの教訓。それこそ童話だなぁと一人感動していました。 私もお菓子の食べすぎには…
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