第6話 光の記憶
青い光に包まれた瞬間――
世界から音が消えた。
風も、足音も、呼吸さえも遠のいていく。
「……っ」
琉生は目を開ける。
そこにあったのは――
見知らぬ部屋だった。
古びた畳。 夕焼けに染まる室内。
どこか懐かしく、そして息苦しい空気。
「……どこだ、ここ……」
振り返る。
善も、恭子も、あいらも――いない。
代わりに、
部屋の奥に、一人の女性が座っていた。
俯き、肩を震わせている。
「……大丈夫ですか」
琉生が声をかける。
反応はない。
女性の手には、写真が握られていた。
笑い合う男女の姿。
その瞬間――
記憶が流れ込んできた。
食卓の笑い声。
何気ない日常。
名前を呼ぶ声。
そして、もう戻らない時間。
「っ……!」
琉生は頭を押さえる。
「どうして……」
女性が呟く。
「どうしていないの……」
声が崩れていく。
「ねぇ……帰ってきてよ……」
空気が沈む。
重く、逃げ場のない絶望。
琉生は動けない。
ただ見ていることしかできない。
やがて、
女性の呼吸が乱れる。
そして――
ぽつりと呟いた。
「……もう、いい……」
その瞬間。
女性の胸の奥から、
微かな青い光が灯った。
「……っ」
琉生の目が見開く。
光はゆっくりと、身体の内側から滲み出す。
まるで、
感情が形になったかのように。
「……ぱぷりあ……」
女性が呟く。
その声は、
安堵と、諦めが混ざっていた。
光が強くなる。
部屋全体を、静かに染めていく。
痛みも、悲しみも、
すべてが溶けていくような――
あまりにも穏やかな光。
「……やめろ……」
琉生は自然と手を伸ばしていた。
「行くな……!」
その瞬間。
女性の視線が、ゆっくりと動いた。
琉生を、見た。
「……え……?」
時間が止まる。
「あなたも……来るの……?」
かすれた声。
「ここ、楽だよ……」
女性は微笑む。
「何も、考えなくていいの……」
手が、伸びてくる。
「一緒に――」
触れられる、寸前――
「琉生!!」
衝撃。
視界が一瞬、弾けるように崩れた。
「……はっ……!」
荒い呼吸。
全身が小刻みに震えている。
「大丈夫か!」
善が肩を掴んでいた。
「急に動かなくなったんだよ!」
恭子も顔を覗き込む。
「呼んでも反応なくて……」
あいらの声も震えていた。
琉生はしばらく言葉を失う。
そして、ゆっくりと口を開いた。
「……見たんだ……」
「誰かの……過去……」
三人の表情が変わる。
「……あの光……」
喉がひどく乾く。
「外から来てるんじゃない……」
「……人が、出してる……」
沈黙。
風が吹き込み、青い光が揺れる。
琉生は、その光を見つめたまま――
小さく呟いた。
「……光……」
「……心地よかった……」
青い光が、
静かに揺らめいた。
まるで、
その言葉に応えるように。




