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第3話 ぱぷりあ


四人は互いに目を合わせた。


息をひそめ、音に耳を澄ます。



扉を押し開けると、室内は静寂に包まれていた。


九人の患者が、静かに横たわっている。


琉生の視線は、床と天井の境目で揺れる僅かな青い光に止まった。


その光は患者の指先を伝い、床に溶けていく。


誰も気づかない。


肩越しに恭子が視線を動かしたが、光は見えていない。


「何かわかったことはあるか?」


善の声で、琉生はハッと我に返る。光のことを口にしようとしたが、すでに光は消えていた。


あいらが端末を操作しながら言った。


「全員、何かしらの辛い過去がありますね。誰かを失った、会社が倒産した、恋人に振られた........」


恭子は静かに息を吐き、部屋を見渡した。

「その辛い記憶が、幻覚となって現れてるってこと?」


琉生は何も答えず、再び視線を床に落とした。 誰も気づかない青い光を探している。


そのとき、微かな声が再び聞こえた。


「ぱぷりあ......」


琉生は顔を上げ、小さく眉をひそめた。

「ぱぷりあ...?」


恭子が口を開く。

「パプリカの別名......?」


あいらは画面を見つめながら答えた。

「ネットには情報がありません。でも、佐藤さんのノートによると、幻覚を見ている人たちは皆、同じように“ぱぷりあ”と口にしているそうです。何かに追い詰められたとき、自然に出る言葉と書いてあります。」


「ぱぷりあ......」

「なんの意味なんだか」


恭子はそう言い、黙り込んだ。



患者の一人の指先が、わずかに動く。

その動きだけで、部屋に張り付いた静寂が一層重く感じられた。


背筋に残る寒気を感じながら、四人はゆっくりと部屋を後にした。


廊下に響く寝息と微かな声を背に、扉をそっと閉めた。


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