第2話 過去を見る村
恭子は前方を見据え、軽く息を吐いた。
「静かだし、暴れ回ってる人とかいないし、大丈夫そうじゃん。」
善はハンドルを握り直し、低く笑った。
「静かさで安心出来るなら、俺たちの仕事も楽だったんだがな。」
葉が風にそよぎ、山道を駆け上がる車の軋む音が一層大きく響く。
車は舗装されていない細い道を進んでいく。
やがて、小さな診療所に到着した。
木造の古びた建物。
ドアには「診療所」と書かれた小さなプレートが揺れている。
あいらが端末を操作しながら声をかける。
「依頼主は、ここの診療所の医者ですね。」
「よーし。じゃあそのお医者様に会いに行きますか。」
恭子は大きく伸びをしながら車を降りた。
診療所の扉を開けると、中から疲れ切った顔の中年男性が現れた。
白衣のポケットにはペンとメモ帳。
目の下にはくっきりとした疲労の影がある。
「……来てくれたんですね。」
声は低く、わずかに震えていた。
琉生が軽く手を上げる。
「どーも、"救いの手"です。お名前を伺ってもいいですか?」
少し間を置いて、琉生は首をかしげる。
「それと……なんでこんな胡散臭いところに頼ろうと思ったか、聞いてもいいですか?」
医者は苦笑し、肩をすくめた。
「私は佐藤正和と申します。」
「失礼を承知ですが、胡散臭いと私も思っていました。」
「でも……他に頼れるところがなくて。藁にも縋る思いで送ったんです。」
恭子は腕を組み、目を細める。
「状況を教えてもらってもいいですか。」
医者は深く息を吐き、椅子に腰を下ろした。
「最初に発症したのは、河井弘恵という……私の妻の友人でした。」
「妻から、弘恵さんの様子がおかしいから一度見てほしいと頼まれたんです。」
「そして連れてこられた弘恵さんを見て、私は呆然としました。」
医者の声がわずかに震える。
「弘恵さんは社交的で、常に明るい方だったんです。」
「ですが、目の前にいる弘恵さんは……目が虚ろで、私が話しかけても反応をしない。」
「そして突然――」
医者は言葉を止めた。
「一昨年に亡くなった旦那さんの名前を叫び出したんです。」
部屋の空気が重くなる。
「そのあと、ぶつぶつと何かを言い続けていました。」
「最初は弘恵さんだけでした。でも今は二人、三人と増えて……」
善が静かに口を開く。
「共通点は?」
医者は頷いた。
「症状が出ている全員が……過去の記憶を見ているようなんです。」
善が横目で三人を見る。
「……なるほど。」
「簡単には終わらなさそうだな。」
医者は手元のノートをめくった。
「何度か他の機関にも相談しました。」
「精神科医も来ましたが、原因は特定できませんでした。」
「そして最後の手段として、私の友人に紹介された――」
医者は四人を見た。
「“救いの手”に頼んだんです。」
琉生が軽く手を叩く。
「とりあえず、その症状が出てる人に会わせてもらえますか?」
医者はゆっくり頷いた。
震える手でノートを差し出す。
「患者の情報や症状が詳しく書いてあります……どうか、よろしくお願いします。」
四人は診療所の奥へと向かった。
患者たちがいる部屋へ。
そのとき――
廊下の奥から、誰かの声が聞こえた。
「……あの光が……」
かすれた声だった。
「また、落ちてきた……」
四人は同時に足を止めた。




