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フォーフーム戦機  作者: 女又心
第一章 蒼空のオーランド

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レイルバイン、リフトオフ

 光一がコールドスリープから覚醒して丸一日(24時間)が経過しようとしていた。


 数時間前にベッド代わりのカプセル型コフィンで就寝し、泥のように眠っていた光一は、当初の予定よりも早い時間にセシルに叩き起こされた。


「光一、起きてください。出撃です」


「んあ? 出撃?」


 寝()(まなこ)で身を起こした光一に、セシルが着替えのようなものの一式を差し出す。


「HS搭乗者用のパイロットスーツです。衝撃吸収、体温調整、耐刃性能など、各種生命維持機能が盛り込まれています。これに着替えたら、レイルバインの待つ格納庫(ハンガー)に向かいましょう」


「……相も変わらず性急っつーか、こっちの都合を考えないっつーか、もうどうでもいいけど」


「すみません。光一の訓練が早期に終了したことに加え、折よくオーランドの核がラストパラダイスの直下点に近付いたため、作戦の決行が急遽繰り上げになったそうです」


「知らんがな」


 文句を言いつつ、光一は着替えに取り掛かる。その様子を、セシルは棒立ちでぼけっと眺めている。


 彼女の視線もそうだが、それ以上に気になることがあり、光一はセシルに話を振る。


「ところで、セシルは着替えなくていいのか?」


「はい。私たちレプリノイドの素体は、生身の人間よりも遥かに高い耐久性を備えているので、スーツの着用は不要です。短時間であれば、宇宙空間や次元断層内でも活動可能な設計となっています」


「……思った以上に高性能なのね、お宅ら」


 これで生体エネルギーを自前で用意できたら、きっと自分がこうやって目覚めさせられることもなかったんだろうな、と光一は卑屈な思いに駆られた。


 そうこうしている内に彼の着替えも終わり、二人は揃って格納庫へと赴く。


 現地では、三角柱状の支柱(ピラー)を背にするようにして、三機の人型機動兵器が直立姿勢で固定されていた。各機の機体色は、対応する次元断層の迷彩カラーになる色を基調としていると、事前にセシルから聞いている。


(となると、俺がこれから乗るレイルバインってのは、こいつか)


 三機の内、青を基調としたHSの前に立ち、見上げる。


 その機体は赤いバイザーを有していた。手首・足首より先の部位と胸部装甲は緑色だ。額の左右対称な二つの平行四辺形のマーキングを始め、機体の所々に白が差してあった。ウイングスラスターの可変翼部分も白いカラーリングなのは、天使などの白い翼をイメージしてのことだろうか。


 また、額のマーキング以外にも、チークガード、ショルダーアーマー、スカートアーマー、可変翼など、至る所に平行四辺形や菱形のデザインが取り入れられている。丸みを帯びた頭部以外は、全体的に鋭角でシャープな印象を光一は(いだ)いた。


「それでは、ちょっと失礼します」


 耳元でセシルの声が聞こえたと思った時には、光一の身体は彼女によって、お姫様抱っこの形に抱きかかえられていた。


「ちょっ!? いきなりなにしてんの!?」


生憎(あいにく)昇降用のリフトがないので、今から私がコックピットのある機体胸部まで光一をお連れします。――重力制御、限定解除」


 そうセシルが口にした途端、彼女にかかる重力がなくなり、彼女の前髪やポニーテールの毛先がふわりと浮き上がるのが見て取れた。


「光一に対する重力に変化はないので、落ちないようしっかり掴まっていてください」


 そう言って、セシルは光一を抱えたまま、レイルバインの胸部に向かって軽やかに跳躍する。


「あ、ありえねー」


 女の子(を模したレプリノイド)にお姫様抱っこされて無重力遊泳とか、ひょっとして人型機動兵器に乗って戦うよりレアな体験なんじゃないか、などという場違いな感想が、一瞬光一の胸中に去来する。


 一回で器用にレイルバインのコックピット内部へと潜り込んだセシルは、光一を前席にそっと座らせ、自身も流れるような動きで後席に腰を下ろす。


 コックピットハッチを閉じ、出撃準備を進めながら、彼女はブリーフィングを開始する。


「僭越ながら、ラストパラダイス出撃からオーランド内部侵入までの間のみ、機体制御を私の方で掌握させていただきます。オーランド内部に到達次第、コントロールを光一に譲渡する予定です。その理由を今から説明します」


「ほう?」


 正面ディスプレイに表示させたシミュレーション映像を交えてのセシルの解説に、光一はとりあえず相槌を打つ。


「次元断層に覆われた今の地球に大気圏は存在しないため、今回の出撃に際し大気圏突入の工程はありません。代わりに、次元断層突入フェーズがそれに相当します。この際、常時変動する障壁の位相に合わせて、展開するバリアフィールドの出力を細かく調整しつつ、シビアなタイミングを見計らって突入を敢行する必要があるのですが、このリアルタイム計算に応じた複雑な機体操作を人の手で行うのは非常に困難です。そのため――」


「あー、要は、どうしてもマニュアルじゃ対応できない部分があるから、そこはオートマに任せてくれってことね」


 光一の噛み砕いたコメントに、セシルはわずかの間沈黙する。


「……ざっくり言うとそんな感じです」


「了解。意図は理解した。そんじゃま、出番が来るまで大人しく電池役に徹するとしますか」


「電池……」再び無言になるセシル。「……なるほど、なかなか言い得て妙ですね」


「いや、いちいち俺の軽口を真に受けて考え込む必要ないからな?」


 見かねて光一がそう言うと、セシルはさも不思議そうに、きょとんと首を傾げて見せる。


「光一との対話は、私のボキャブラリーが飛躍的に向上するので、大変有意義に感じています」


「……そりゃよござんした」


 初出撃前だというのに何とも気の抜けるやり取りを経て。


 いよいよ、二人が搭乗するレイルバインが宇宙に飛翔する時が訪れる。


「それでは、準備はいいですか?」


「ああ」


「了解です。――レイルバイン、リフトオフ」


 セシルが言うなり、レイルバインの格納チャンバーがシーリングされ、支柱に設置されたレールに沿って下降していく。


 やがてチャンバーが最下部に到達し、ガコンという振動が音と共に伝わると同時、機体を固定していたハンガーロックが解除される。


「バリアフィールド展開、メテオシーケンス発動」


 機体を包み込むように発生したエネルギー防壁が周囲のシーリング材を弾き飛ばし、蒼き光球と化したレイルバインは、隕石の如く地球に向かって射出された。

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