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フォーフーム戦機  作者: 女又心
第一章 蒼空のオーランド

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いわゆる焼き餅ってヤツ?

 慣熟トレーニングの完了には半日程度の時間を要した。


 初級や中級のミッションまでは初見突破も造作なかったが、これが上級にもなると、そう易々と事は運ばず、何度かのリトライを強いられた。


 とはいえ、一日足らずでこの成果はセシルにとっても予想外であったらしく、


「……驚きです。想定では、最低でも二、三日ぐらいの訓練時間が必要になると踏んでいたのですが」


「そうなのか? まあ、上達は早いに越したことないわけだし、結果オーライってことで」


 シミュレーターから降機しながら意見を交換していると、不意に光一の腹の音が鳴り、そこから思い出したように彼は空腹を感じ始めた。随分と訓練に集中していたらしい。


 目覚めてからこれまでの間に目にした生活感のない環境を思い出し、光一は不安そうにセシルに問う。


「……ところで、ここじゃ飯はどうすりゃいいんだ? 人間用の食堂とかあったりすんの?」


「ご飯、ですか?」


 セシルは暫し黙考する。


「……とりあえず、私たちレプリノイドに睡眠や食事は不要です。定期的にリフレッシャーと呼ばれるメンテナンス機器に入ることで、外装の汚れや内蔵機構の不調が修復されます」


「要するに、知らないってことね」


 回りくどいセシルの返答を解釈し、光一は短く鼻を鳴らす。


 サポート担当の彼女に分からないとなると、これはアルバートに直接訊くしかないか、などと光一が思案していると、


「あ、あの……」


 今にも消え入りそうな声で背後から呼びかけられ、振り向くとそこにはレイチェルがいた。どうやら光一たちがシミュレーターを終えるのを待っていたらしい。


「博士が、光一さんにこれを、って……」


 そう言って彼女が差し出したのは、ゼリー状の物体が詰まった一袋のスパウトパウチだった。


 猛烈に嫌な予感がして、光一はレイチェルの気弱そうな瞳を恐る恐る見つめ返す。


「……もしかして、これが俺の食事だったり?」


「は、はい……。この一袋で、一日に必要な栄養素が全て賄える、だそうです」


「…………マジか。味気ねー」


 こんな生活が何日も続くのだとしたら、正直気が滅入りそうだと光一は思った。


(……ま、一時はその日食べるものすらままならかったことを考えれば、屋根があって栄養が摂れる今の状況の方が大分マシか)


 受け取ったゼリー飲料を摂取しながら、光一は無理矢理自分にそう言い聞かせた。ちなみに、肝心の味はしょっぱいような甘いような、それでいてちょっと苦いような、とにかく形容しがたいものだった。美味い不味いで表すなら、どちらかと言うと前者寄りだったのが唯一の救いか。


 念のため、トイレやシャワールームの場所についてもレイチェルに確認しておく。最悪、どちらも設置されていない可能性を覚悟していたが、幸い両方とも代替機能はあるとの回答を得られた。


 まずトイレについては、HS本体やシミュレーターにバキューム式のものが備え付けられているので、普段はシミュレーターのものを使えばよいとのこと。


 シャワーについては、コールドスリープでも使用したカプセル型コフィンに、ヘルスケア用のミストサウナ機能が搭載されているので、これを代用することで汗や汚れを落とすことが可能だそうだ。


(にしても、これは……)


 空になった容器を受け取り、そそくさとその場を立ち去っていくレイチェルの背中を見送りながら、光一は傍らのセシルに何気ない風を装って聞いてみた。


ラストパラダイス(ここ)じゃ、やっぱり水って貴重だったりするん?」


「水ですか? 宇宙にある施設なので、貴重と言えば貴重ですが、ラストパラダイスの運営維持やHSの開発製造で大量の工業用水が必要となる関係上、あらかじめ潤沢な用意があります。少なくとも、常に節水を心掛けなければならないほどではありません」


「ふーん、そっか」


 あまりに違和感なさ過ぎて、今の今まで全く気にも留めなかったが、ラストパラダイスには地球とほぼ変わらない重力があった。おそらく人工的に発生させているものだろう。


 無重力でない、つまり、水が流れる最低限の環境が整っているにもかかわらず、人が長期滞在する上で欠かせない設備がほとんど見当たらないことに、光一は言い様のない(いびつ)さを覚えずにはいられなかった。


(長いことレプリノイドだけで管理されてきたから、の一言で片付けていいものなのか?)


 人間不在がどうと言うより、そもそも居住性が考慮されていないとでも言うべきか。


(裏を返せば、ここで活動する人間がそれだけ少ないってことか)


 自分より前に目覚めさせられた人は、一体どうしていたのか。


 そのような趣旨の質問をセシルにしようとした矢先、当の本人から唐突にぐいと詰め寄られ、光一は思わずたじろいだ。


「な、何?」


「食事の件はともかく、先程レイチェルが光一に伝えた情報は、当然私も把握していました」


「は? 何の話……って、もしかしてトイレやシャワーのこと? だったらそれを早く言ってくれよ」


「これから説明するつもりだったんです」


「はっ、物は言いようだな」


 あわや売り言葉に買い言葉となりかけたところで、心なし膨れっ面になってセシルはそっぽを向く。


「……とにかく、光一のパートナーは、この私です。何かご不明の際は、まず私に聞いてください」


「はあ」


 彼女のらしからぬ言動に、しばらくの間ぽかんと放心していた光一だったが、


(……ん? これって、まさか、いわゆる焼き餅ってヤツ?)


 淡泊に思われたセシルの意外な一面を知り、ちょっぴり動揺した光一は、直前に彼女に何を訊こうとしていたか、すっかり失念するのだった。

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