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フォーフーム戦機  作者: 女又心
第一章 蒼空のオーランド

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一つ、訊いてもいいですか?

 展望室を後にし、セシルら三人娘に連れられてやってきたのは、HSのシミュレーター筐体が据え置かれているという訓練施設的なスペースだった。


「それじゃ――」


「一つ、訊いてもいいですか?」


 得意気に何かを言い出そうとしたショートカットの少女を遮り、出し抜けにセシルが光一に問う。


「……何?」


「どうして、急にやる気になったのですか? さっきまで、あんなに非協力的な態度を取っていたのに」


 純粋に不思議そうな面持ちをしているセシルを、光一は暫しの間じっと見つめると、


「……その感じじゃ、知った上で交渉材料に持ち出した、って訳でもなさそうだな」


 疲れたように「ふう」と吐息した後、彼はぽつりぽつりと事情を語り始めた。


「例の二人目……あれ、俺の姉なんだよ、双子の」


「姉……シーラやレイチェルにとっての私、のようなものですね」


 微妙にズレた言い回しをするセシルが少し気になったが、光一はスルーした。


「母さんが死んで()ぐに親父が蒸発して、親戚にも見捨てられた挙句路頭に迷って……以来、ずっと二人で助け合って生きてきた、大切な家族なんだ。他の連中がどうなろうと俺の知ったこっちゃないが、ただ一人、あいつを守るためなら、俺の命なんて、いくらでも差し出してやったっていい」


 そこまで真剣な表情で一息に話すと、光一は照れ隠しのように軽くおどけて見せる。


「それに、あいつはあいつで、俺のためなら売りや殺しもやりかねないヤツだからな。こんな状況で一人になんてしたら、早まって何を仕出かすか分かったもんじゃない。どっち道、俺だけおちおち寝てるわけにはいかなかったってことさね」


「そうなんですね」


 大して感慨もなさそうに一言そう漏らしたセシルに、光一は怪訝そうな視線を投げかける。


「……ほんとに何も知らなかったわけ?」


「はい。私たちファルシオン三姉妹の主な役割は、ラストパラダイスの運営維持管理、次元断層の調査解析、HSの開発製造などに関する諸々のアルバート博士の補佐ですが、ことコールドスリープ中の人類に関しては、管理番号以上の情報を有していません。光一の名前も、先程あなたから教えてもらうまで知りませんでした」


「マジかよ……」


 信じられないといった風に光一は天を仰ぐ。


「……俺、ここに収容されることになった経緯とか全然覚えてないんだけど、当時何があったかについて聞いても、もしかして一切何も分からないってオチ?」


「残念ながら」


「……お宅らに付き合って行動するの、俄然不安になってきたわ」


 心底辟易した様子で光一が肩をすくめていると、その肩をツンツンと(つつ)く存在があった。


「あー、そろそろよろしいかしら?」


「あ?」


 振り返ると、そこにはショートの少女が何故か仏頂面で光一を見上げていた。先のセシルの発言から推察するに、多分彼女がシーラなのだろう。


 シーラは一転、誇らしげに胸を反らしながら、ふふんと鼻を鳴らす。


「何がそんなに心配なのか知らないけど、あたしが調整したシミュレーターは完璧よ。大船に乗ったつもりでその身を委ねなさい」


「いや、シミュレーターの心配なんてこれっぽっちもしてないし。むしろ、本番で使う機体の調整の方を万全にしておいてくれ」


「はあ!? あんた、あたしのシミュレーターを愚弄する気!?」


「だからしてねーよ! ちったあ人の話を聞け!」


 セシルと同じレプリノイドとは思えないほど感情表現が豊かな奴だなと、光一は密かに思った。





 そんなこんなで、早速シミュレーターを用いての慣熟トレーニングが始まった。


 実機と同じ複座式のコックピットは、前席がパイロット、後席がオペレーターのものとなっており、それぞれ光一とセシルが乗り込んでいる。


 システムを立ち上げながら、セシルが色んな情報を掻い摘んで光一に説明する。


「HSの基本的な操縦知識や技術については、コールドスリープの解凍と並行して既に光一の脳内にインプットされています。本訓練は、その知識や技術を無意識の内に活用・実行に移せるよう、身体に定着させることを目的としています」


「あー、つまり、非常に効率性を高めた反復練習ってことね」


「はい。これらの措置により、たとえ元のパイロットがずぶの素人だったとしても、短時間で一線級のプロフェショナルにまで仕立て上げることが可能です」


「身も蓋もないやり方だが、きっつい勉強や練習を長時間こなさなくて済む分、確かにこちらとしても大分気が楽だわな」


 続いて、解説は最初に挑む次元断層の詳細へと移る。


「私たちが手始めに攻略を目指すのは、一番表層にある蒼空(そうくう)の次元断層――コードネーム『オーランド』です」


「表現からして、宇宙から見ると青色に見える障壁のことか」


「はい。蒼空と呼ばれるようになったことからも分かる通り、障壁内部には天空を彷彿とさせる広大な空間が広がっています。足場となる陸地が一切存在しないため、常時飛行可能な機体でないと活動もままなりません」


 実際に疑似体験してみましょう、と言って、セシルはシミュレーターの仮想空間を展開する。


 薄暗い閉鎖環境に、一瞬にして果てしない大空の光景が投影され、光一は思わず「おお」と感嘆の声を上げる。


 その壮大さとは裏腹に、あまり開放感のない空間だな、という所感を光一は(いだ)いた。天地は厚い雲海で覆われており、どこか閉塞感の漂う景色がどこまでも続いている。空の青も、清々(すがすが)しいと評するには少々陰鬱としていた。時折遠目に見える、縦横無尽に走る稲光が、何とも不穏な終末感を醸し出していた。


「光一が現在搭乗している機体――レイルバインは、オーランドでの作戦行動に合わせて最適化した空戦用HSです。バリアフィールドもオーランド用に調整されており、暴風吹きすさぶ嵐の中でも自由自在に安定した飛行が可能となっています」


「へぇ、そいつはすごいな」


 素直に感心する光一に、セシルは「ただし」と付け加える。


「雷や突風、雹からも機体を保護してくれるバリアフィールドですが、過信は禁物です。システムの負荷が増大し、一時的にでも防壁が展開できなくなれば、次元断層からの生還の可能性は著しく低下します。バリアフィールドに頼ることなく敵の攻撃や障害を回避する巧みな操縦技術が求められることをお忘れなきよう」


「了解だ」


 聞きながら、光一は搭乗機の武装をチェックする。


「出力調整で弾種を変えられる射撃兵装ブラスターに、二基のレーザーブレード、と……ブレードの方は、柄を連結させることでツインブレードにもなるのか。――で、レイルバインを空戦機たらしめているのが、背部のオプションバックパック、ウイングスラスター。単にフライトユニットとして機能する以外に、本体に内蔵されているバリアフィールドの最適化もこいつが行っていると……なるほどね。バックパックを換装するだけで、各次元断層に合わせたチューニングが即座に可能って寸法か」


「はい。厳密には、今回開発した三機は本体の方にも特別な調整を施したカスタマイズ仕様となっていますが、基本的な設計思想はそのようになっています」


 それまで流暢に話していたセシルの声のトーンが、不自然に若干下がる。


「……あと、これはスペックノートには記載されていないのですが、各機のバックパックには万が一に備え、機密保持用の自爆装置が取り付けられています」


「自爆装置だぁ?」


 突として飛び出した物騒な話に目を丸くする光一。一方で、同時に()いた素朴な疑問について、彼はセシルに尋ねていた。


「どうして、わざわざその情報を俺に? そっちにとっちゃ、黙ってた方が都合がよかったんじゃ?」


「……どうしてでしょう?」


 自分でもよく分かっていない様子で、セシルはことりと小首を傾げる。


「光一の背中を預かるパートナーとして、後ろめたい秘密を抱えているのは信義にもとる、とでも思ったのでしょうか?」


「いや、俺に訊かれても」


 機械的なようで、たまにポンコツな彼女に妙な人間臭さを感じ、光一は苦笑いを浮かべる。


「まあいいや。その誠意に免じて、俺もあんたのことは信じるよ。俺の警戒を解くための芝居、って線も考えないでもないが、どうもそういうのはあんたには無理そうだ」


「よく分かりませんが、恐縮です」


「そこで、よく分からないとか言っちゃうのが、安定のセシルクオリティだよな」


「そうなんですか?」


 そんなちぐはぐなやり取りを交わしている間にも、肝心のトレーニングミッションは既に火蓋が切られていた。


 一機、また一機と出現を繰り返す敵性体の攻撃端末。無限に増殖する円盤状のそれらが一斉に砲撃を行う様は、まるで三次元の弾幕シューティングのようだった。


「ナビを開始――迎撃は最小限に(とど)め、わずかな間隙を縫い、最速最短で目標地点への到達を目指してください」


「言われるまでも!」


 敵機の苛烈な包囲網を掻い潜りつつ、光一は機体を突貫させた。

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