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フォーフーム戦機  作者: 女又心
第三章 橙陸のアンダーソン

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出来損ないの意地、見せてやろうよ

 レイチェルから一通りの施設案内を受けた正博は、飲食スペースでお茶っぽい何かを飲みながら、一人そわそわしていた。


「この後はいよいよシミュレーター訓練かー。楽しみだなぁ」


「……何がそんなに楽しみなんですか?」


 向かいに座るレイチェルの、どこか(とが)めるような上目遣いの眼差しに、正博は対照的なほくほく顔でこれに応じる。


「僕、ロボットものの作品が大好きでさ、争いに巻き込まれた主人公が新型メカに乗って戦う展開にすごく憧れてたんだよね。まさか、自分の人生でそんなシチュエーションが訪れるとは思ってもみなかったから、つい興奮しちゃって」


「……分かってるとは思いますけど、これ、遊びじゃないんですよ?」


 沈痛に顔を歪めて、レイチェルが胸の内を吐露する。


第一(ファースト)候補者(キャンディデイト)の光一さんとセシルお姉様は、無事オーランドを消滅させたにもかかわらず、未知のウイルス汚染の疑いから、ラストパラダイスへの帰還もままなりませんでした。その最後は、自爆による自死だそうです。第二(セカンド)候補者(キャンディデイト)の葉月さんとシーラお姉様に至ってはMIA(作戦行動中行方不明)――インザクアの消失は確認できたものの、お二人が最終的にどうなったかについては、今も分かっていません。おそらく、機体を自爆させることで、核を道連れにした結果なのではないかと、わたしは推測していますが……」


「レイチェルさん……」


 仲間の死を(いた)むレイチェルの落ち込みように、正博は自身の迂闊で軽はずみな言動を今更ながら自覚する。


「……ごめん。君の気持ちも考えずに浮かれて……悪気はなかったんだ」


「あ、いえ……わたしも、別に正博さんのことを責めたかったわけじゃないんです。ただ……」


 そのまま言葉少なになる二人。


 しばらくして、その沈黙を先に破ったのは、正博の方だった。


「……でもさ。やっぱり、(いや)が上にも気持ちが(たかぶ)るんだ、今のこの状況」


「……?」


 そっと耳を傾けてくれるレイチェルに感謝しつつ、正博は続ける。


「僕、何の取り柄もない普通の子どもだったからさ。いわゆる、どこにでもいるようなモブキャラってヤツ? だから、さっきみたいに誰かにもてはやされたことって、これまで一度もなかったんだよね」


 期待に胸を膨らませ、目をきらきらと輝かせて、正博は熱く意気込みを語った。


「こんな僕でも誰かの……ううん、今回に限って言えば、人類や世界のために何かできるんだって思ったら、何だか居ても立っても居られなくってさ」


「……ごめんなさい」


 急に謝罪の言葉を口にしたレイチェルに、正博は狼狽(うろた)える。


「ど、どうして君が謝るの?」


「……物は言い様ですよね」


 今にも泣き出しそうな、困ったような笑顔で、レイチェルは白状するように言った。


「……最後の希望の星と言えば聞こえはいいですが、要は最後に余った残り物なんです。あなたも、わたしも」


「残り、物……?」


 思わず聞き直した正博に、レイチェルは頷く。


「姉二人と比べて、わたしは落ちこぼれでした。要領が悪く、仕事も遅いので、シーラお姉様にはしょっちゅう叱られてばかりで……。あのお二人のどちらかが今も存命であれば、おそらくわたしなんかが正博さんのパートナーになることはなかったと断言できます」


「な、何もそこまで卑下しなくても……」


 自虐的に語るレイチェルがとても他人事とは思えず、正博は何とも居たたまれない気分になる。


 何とか励まそうとした正博の言葉も、頑ななレイチェルの心には全く響かなかったようで、


「事実ですから。それに、正博さんのことだってそう。博士はあなたのことを、さも選ばれた特別な存在であるかのように褒めそやしていましたが、実際は、たまたま条件に合致したからピックアップした若い個体、その三番手に過ぎないんです。事実、第一(ファースト)候補者(キャンディデイト)の光一さんには、博士は包み隠さずそのように伝えていました」


「……ただ単に、僕が若いから選ばれただけってこと?」


 期せずして打ち明けられた残酷な真実に、正博は落胆を禁じ得なかった。


 そんな彼に、レイチェルは気休めにもならない言葉をかける。


「だから、正博さん。今回の件に、あなたがそんなに使命感を持つ必要はないんです。いくら多くの方の命運がかかっているとはいえ、それがあなた自身の命を軽視していい理由にはなりません。死んでしまったら何の意味もない……見ず知らずの人たちのために、命を懸けるような真似はしないで――」



「……ありがとね、レイチェルさん」



 唐突な正博の感謝の言葉に、今度はレイチェルの方が目を(みは)る番だった。


「……今の話のどこに、わたしがお礼を言われる要素があるのですか?」


「だってレイチェルさん、僕のことを心配して、わざとそんな言い方してるんでしょ?」


 にへらと笑いながら、正博はその結論に至った根拠を述べる。


「今、君から聞いた話は、きっと出鱈目なんかじゃなく、その大半が本当のことなんだと思う。でも、わざわざ君が僕にそれを話してくれたのは、博士が何も知らない僕をいいように利用しようとしているのを快く思ってなくて……だから、少しでも僕が自分の意思で物事を決定できるように、あえて露悪的な言い方で教えてくれたんだ、って――そう理解したんだけど、どうかな? 合ってる?」


「それは……」


 気まずそうに口ごもるレイチェルに、正博はすっと右手を差し出す。


「――だったらさ、その出来損ないの意地、見せてやろうよ」


「え?」


「結局誰でもよかったって言われちゃ確かにショックだけど……でも、やっぱりこの非日常的な出来事は、何の変哲もなかった僕の平凡な人生を変える、絶好の転機になる気がするんだ。そりゃ、誰かの思惑とかも当然あると思うけど、そんなの関係なしに、こっちはこっちで、この機会を存分に有効活用したって(ばち)は当たらないと思うんだよね」


 正博の話をぽかんと聞いていたレイチェルは、ややあって、ぷっと小さく噴き出す。


「……前向きなんですね、正博さんって」


「目が覚めたらこんなとこにいて、色々吹っ切れたっていうのもあるかもだけどね。とりあえず、動き出さなきゃ何も始まらないわけだし、僕は僕で、やれることをやれるだけやってみるつもりだよ」


 犬みたいに人懐っこい正博の明るい笑顔に、レイチェルは口元を綻ばせると、差し出された彼の右手をそっと握り返す。


「……正博さんの意思は分かりました。それではわたしも、そんなあなたを全力でサポートしていきたいと思います。改めて、よろしくお願いしますね」


「こちらこそ」


 そこでレイチェルは、ふと思い出したように、


「そう言えば、わたしにさん付けなんて要らないですよ? これからは遠慮なくレイチェルって呼んでください」


「そ、そう? じゃあ、レイチェルで……いやあ、女の子を呼び捨てにするのって、なんか()()ずかしいよね」


 暑そうに手をぱたぱたさせながら正博は赤面する。


「じゃあさじゃあさ。それならレイチェルも、僕のことは次から正博って呼んでよ」


「わたしも、ですか?」


 途端にレイチェルは表情を曇らせる。


「それは、ちょっと……わたしなんかが、流石におこがましいです」


「えー? そんなことないでしょ……って、あー、もしかして、僕のことはそんな親しげに呼びたくない?」


 自分で言っておいてしゅんとなってしまう正博に、レイチェルはあわあわと狼狽する。


「そっ、そんなことないです! ただ、慣れないというか、なんていうか……」


 彼女はしばらくの間、うーっと悩ましげに唸った(のち)


「……ちょっとずつ練習していこうと思うので、少しお時間をいただいてもよろしいでしょうか?」


「あはは、了解。レイチェルは真面目さんだね」


 律儀なレイチェルに破顔一笑すると、正博は心機一転した彼女と共に、トレーニングスペースへと足を運ぶことにした。

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