君が、最後の希望の星だ
僕は、一番になりたかった。
でも、勉強も、スポーツも。趣味のゲームのランキングや、友情や恋愛といった人間関係における順位でさえ。
僕はいつだって、誰かにとっての一番目未満の存在だった。
家族だってそうだ。母さんのお気に入りは何をやらせても優秀な兄さんで、父さんが贔屓するのは可愛い妹だった。
僕じゃ、ない。
何も、みんなにちやほやされたいわけじゃない。
たった、一人だけでいい。
僕は、誰かにとっての一番になりたかったんだ。
※
「――わたし、もう嫌です……!」
(……おろ?)
誰かが言い争う気配に、岡部正博はおぼろげだった意識がにわかに鮮明さを取り戻していくのを感じた。
「光一さんやセシルお姉様に続いて、今度は葉月さんとシーラお姉様まで……。わたしがどうなろうと、別に構いません。ですが、もうこれ以上、善意で協力してくれる無辜の人間の方を死地に送り出すような真似、したくありません……!」
「確かに、先駆者の彼らは不運にも命を落とした。だが、彼らの献身があったからこそ、こうしてオーランドとインザクア、二つの次元断層の解除に成功したのだ。彼らはただ犠牲になったのではない。人類救済の礎となったのだよ。それはとても光栄なことだ」
「そ、そんなの詭弁です……!」
(……人の頭の上でごちゃごちゃうるさいな。お芝居かなんかの練習なら他所でやってほしいよね)
胸中で毒づきつつ、ほとぼりが冷めるまで寝たふりを決め込むことにした正博だったが。
「レイチェル。この期に及んで臆するのはお前の勝手だが、地球解放計画も今や最終の第三フェーズ。ここに来て変更などあり得ない。お前がやらぬと言うのなら、代わりに私が彼を起こそう」
強い信念を秘めた言葉と共に、横たわる正博の身体を何者かが揺り動かす。
「目覚めよ、勇者」
「へ? 勇者?」
フィクションの世界以外では滅多に耳にする機会のないそのワードに、思わず反応して起き上がってしまう正博。
そんな彼の両肩に手を乗せ、声の主らしき口髭の壮年男性は厳かに告げた。
「君が、最後の希望の星だ」
※
「分かりました。僕、頑張ります!」
互いに簡単な自己紹介を済ませた後、アルバートから現状説明を受けた正博は、提示された協力依頼を一も二もなく快諾した。
「い、いいんですか? 下手したら、前任者のお二人のように、作戦中に命を落とすかもしれないんですよ?」
今後サポート担当に付くことになるレイチェルの問いに、正博ははにかみながら次のように答えた。
「だって、僕なんかの力で、全人類を救うことができるかもしれないんでしょ? それってなんだか、物語の中の英雄みたいじゃないですか」
「その通りだ、正博君。君には私も期待している。君には、英雄たり得る資格がある」
「いえいえ、そんな」
アルバートに持ち上げられ、満更でもなさそうな正博を、レイチェルは複雑な表情で見つめていた。
早々と話が付いたことで、アルバートがまとめに入る。
「それでは、以降の段取りについてはレイチェルがレクチャーを行う。何か不明なことがあれば彼女に訊いてほしい」
去り際、彼はレイチェルとすれ違い様に、小声で何かを話していた。
「お前も、彼に要らぬことを吹き込まぬようにな」
「…………はい」
去り行くアルバートの背中を悲痛な面持ちで見送るレイチェルに、正博は見るからに上機嫌で話しかける。
「いやあ、期待されるって、なんだか嬉しくなるよね」
「正博さん……」
何か言いたそうに口をぱくぱくさせたレイチェルは、一旦出かかった言葉を何とか呑み込み、にこりと作り笑いを浮かべてみせる。
「……訓練を始める前に、まずは居住スペースの案内をしますね」




