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フォーフーム戦機  作者: 女又心
第二章 碧海のインザクア

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インザクア攻略戦

「アライバルアットインザクア。ユーハブコントロール」


「アイハブコントロール」


 インザクアへの次元断層突入(ダイブ)が完了し、ギルクラスターの機体制御がシーラから葉月へと移る。


 茫洋たる碧の水中世界に海面や海底は存在せず、それどころか、水自体が淡く発光している影響で内部の透明度が低いため、物の輪郭も定かではない。気を付けないと、すぐに上下感覚が狂い、大海を彷徨(さまよ)う迷子になってしまう。


 そのような中で頼りになるのが、核の位置を検知する特殊センサーの反応だ。


「270度の方向、ここよりも深い深度にコアの反応有り。敵機や障害物を警戒しつつ、慎重に潜行を開始して」


「了解」


 速攻が出来ない関係上、インザクアの攻略は必然的に長期戦となる。詳細不明のコアが後に控えていることもあり、いかにそこまで乗り手の体力や精神力を温存できるかに作戦の成否がかかっている。無論、機体の余力は言うまでもない。


 真の敵はインザクアそのものよりも、自分自身の忍耐力との戦いだと言っても過言ではなかった。


 道中、下方に動体反応を捉え、葉月は機体の潜行を停止する。


「ここはセオリー通り、しばらく待ってやり過ごす?」


「そうね……」


 葉月の問いかけに、シーラは索敵しながら数秒ほど黙考する。


 インザクアではオーランドのように、撃墜した敵機がコアで復活する、ということはない。力場に働く理が異なるからだ。常時機体に()しかかる水圧が、無限増殖する敵機に差し替わったと考えれば分かり易いかもしれない。


「……周囲に群れと思しき反応はない。対象は小型で小回りも利くし、増援を呼ばれでもしたら厄介よ。ここはハープーンで排除しておきましょう」


「おっけ」


 葉月はスクリュースラスターの脇に取り付けられた(もり)の柄を機体の手に取らせ、高周波を発する穂先を下向きに構えながら潜行を再開する。


 徐々に徐々に下降しつつ、先程発見した敵影の直上に来たところで、素早い一突きを繰り出す。


 結果的に、こちらの存在を気取られる前に対象を両断、無力化に成功した。


 魚型偵察機の残骸の傍を通り抜け、ギルクラスターは更に水中を沈降していく。


 その後、何度か同個体の群れに遭遇しかけたが、これを無難にやり過ごしつつコアに向かって進んでいると、ソナーをチェックしていたシーラが何かに気付いたように短く声を漏らした。


「……この先に、何らかの静止物体があるみたいね。大きさも手頃みたいだし、ちょうどいいわ。これを隠れ蓑にして進行速度アップを図りましょう」


「了解。トラップの可能性も考慮して対応するよ」


 周囲に他の敵反応がないことを確認後、葉月は件の物体に接近しつつ、機体の左掌底部に内蔵された電磁ネットを対象に向けて放った。


 10メートル近い岩塊を捕縛するように強靭な投網が絡み付く。


 ただの浮岩ならそれでよし。


 もしも敵なら――



 次の瞬間、ギルクラスターは物凄い力で下方に引きずり込まれた。



 岩塊下部から複数本の何かが()え、それが巻き付いた電磁ネットを引き剥がそうと激しく藻掻いているのだ。


「電撃!」


 葉月は引っ張られる機体を制御しつつ、電磁ネットに強力な電流を(ほとばし)らせる。


 もろにショックを受け、一時的に動きや力が弱まる触手状の生物兵器。


 敵がまともに身動き取れない隙を()き、葉月は即座にギルクラスターを岩塊の真下に位置取らせた。


「砕けろッ!」


 葉月は触手の根元目掛け、膝装甲内に装填された全領域対応の万能トーピードを発射する。


 魚雷の直撃を受け事切れる軟体生物兵器。一瞬前まで猛威を振るっていた複数の触手は、本体を失ったことで力無くバラバラに四散した。


「ふう、制圧完了っと」


「鮮やかなお手並みね、葉月」


 感嘆するシーラに軽く手を挙げて応じながら、葉月は敵が潜伏していた岩塊が再利用可能かどうか点検を始める。


 機体を隠すのに十分な大きさが残っていることを確認しつつ、葉月はふと思ったことをシーラに聞いてみた。


「シミュレーターでも気になってたんだけど、結局今の敵のモデルって何? タコ? イカ? まさかのオウムガイとか?」


「ヤドカリ頭足類とかでいいんじゃない? 特に深い意味なんてないわよ、きっと」


「ふーん」


 シーラの適当な回答に気のない相槌を返しつつ、葉月は岩塊の物陰に機体を隠し、擬装しながら目的地へ向かって速度を上げていく。


(……なんだかな)


 あまりにも順調な滑り出し。


 これを幸先が良いと思えるほど、葉月は能天気ではなかった。


「……ねえ、シーラ」


「何?」


「敵の配置、妙に(ぬる)くない? これじゃ、シミュレーターの初級ミッションとてんで大差ないよ」


「……あんたもそう思う?」


 シーラもまた葉月と同様の引っ掛かりを感じていたらしい。


 機体の足を止め、二人は現状の討議に入る。


「シミュレーターじゃ、敵が手薄なルートに誘い込まれて気付けば包囲、なんてパターンがあったけど、これはちょっと毛色が違うよね?」


「そうね。そうした作為的なものは感じない……と言うより、侵入者に対する警戒そのものが薄い、って表現した方が妥当かも」


 シミュレーターの調整担当者であるシーラが、現況の不自然さを理知的に分析する。


「……まさかとは思うけど、今のインザクアは、侵入者であるあたしたちをコアに招き入れようとしているのかもしれない」


「何のために?」


「それが分かれば苦労しないわよ。一つ言えるとすれば、この変事に繋がる直接のきっかけは先日のオーランド消失にある、ってことぐらいね」


「とどのつまり、核の元に辿り着けば何か分かるかもしれないし、それまでは何も分からないも同然、ってことか」


「ま、そーゆーことね。当面の作戦目的に変更はナッシングよ」


 シーラの気楽な物言いが今は助かる。判断材料が不足している以上、あれこれ考えても詮方ないことに時間を費やしたところで、何か前向きな結果が生ずるわけでもなかった。


 ギルクラスターを再出発させた葉月は、一路コアの反応に向かって機体を進ませる。


 そして、警備兵器がほとんど見当たらない穴だらけの警戒網を抜けた先に、いよいよそれは姿を現す。

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