ごめんなさいは?
「ギルクラスターってさ、他の二機に比べると何か地味って言うか、ちょっとダサいよね」
出撃前。
格納庫でゼリー飲料を口にしながら、これから搭乗することになる自機を見上げて葉月が身も蓋もない所感を口にする。
件のギルクラスターは、全体的に緑を基調とした機体色をしていた。頭部と胸部は青緑、他は濃緑で塗り分けられている。
丸みを帯びたゴーグルのようなバイザーはピンクで、機体各部に赤のマーキングが施されているとはいえ、確かに視覚的な華やかさには乏しい機体と言えた。
デザイン的にもどこか野暮ったい印象を受けなくもない。蛇腹型の皮膜でコーティングされた関節部や、角部の少ない曲面や平面で構成された装甲は、防水や耐圧を考慮した設計と思われるが、ぱっと見の格好良さには繋がっていなかった。
他にも、チークガードの代わりに据え付けられているソナーモジュールがシュノーケルっぽかったり、背部のスクリュースラスターが酸素ボンベを背負っているようにも見えることから、どことなくダイバーを連想させる姿に引きずられて、見る者はそのようなマイナスイメージを抱くのかもしれない。
先日取り付けられたばかりだという昇降リフトの操作パネルをいじりながら、シーラが呆れる。
「何言ってんの。隠密行動を主とする機体の外見が派手で目立つようじゃ、それこそ本末転倒でしょうが」
「それはそうかもしれないけど、乗り手のモチベーション的に、何かこう、ね」
「……あんた、意外とそういうとこ気にするのね」
「そう? 普通でしょ?」
そんな他愛のないやり取りをしている内に、昇降リフトが最下部まで到着する。
満を持してリフトに乗ろうとした葉月たちを、格納庫にやってきたばかりのレイチェルが呼び止めた。
「シーラお姉様! 葉月さん!」
出入口の方からとことこと駆けてくる彼女を見守りながら、葉月はシーラの横っ腹を肘で突く。
「そう言えば、あの後レイチェルにはちゃんと謝ったの?」
「……まだです」
「はあ……何やってんのよ、もう」
意気地のない相方をもどかしく思った葉月は、シーラの背中をそっと後押しした。おっとっととつんのめるように体制を崩した彼女の前にレイチェルがちょうど辿り着き、何の心づもりもないまま妹を前にしたシーラは、わたわたと謎の挙動不審を披露することになる。
「どどど、どうかした、レイチェル?」
「えと、その……あれから、オーランドの一件で得られた教訓を基に、バリアフィールドの防御アルゴリズムをわたしなりに強化してみました。既存データからは、博士の言うウイルス汚染が本当にあったかどうか特定できなかったので、結局のところ気休めかもしれないですが……それでも、何の対策もできないまま作戦に臨むよりはいいと思って……」
「あ、ありがと……。わざわざそれを伝えにきてくれたの?」
「あ、いや、そうじゃなくて……」
一瞬、もごもごと言葉を詰まらせたレイチェルは、やがて目をぎゅっと閉じ、間もなくそれを開いてシーラを真っ直ぐに見つめた。
「……必ず、無事に帰ってきてね?」
何時になく切実なレイチェルのお願いに、シーラは息を呑み、そして、こくりと頷く。
「……もちろんよ。それじゃ、行って――」
「違うでしょ。ごめんなさいは?」
肝心なことを告げずに何食わぬ顔でリフトに引き返そうとしたシーラを、痺れを切らした葉月が尻相撲の要領でぼいんと押し返す。
「ちょっ!? 何すんのよ!?」
「この期に及んでそれは、流石に往生際が悪いと思うよ、お姉ちゃん?」
腕を組んで仁王立ちする葉月に道を塞がれ、シーラはぐっと呻くと、観念した様子でレイチェルを振り返った。
「……ここ最近、きつい言い方ばっかして、ごめん」
「えっ?」
信じられないものを見たとでもいう風にレイチェルが瞠目する。
そんな妹を置いて早足でリフトに乗り込むシーラに、葉月は一言労った。
「はい、よくできました」
「……何かムカつく」
照れ臭そうに顔を真っ赤にして奥に引っ込んでしまったシーラに、葉月が忍び笑いを漏らしていると、どこか嬉しそうにレイチェルが声をかけてきた。
「葉月さんも、気を付けて」
「うん、行ってくるよ」
見送りのレイチェルを残し、リフトが上昇を始める。
彼女に片手を振っていた葉月は、そのままうんと伸びをし、まだ恥ずかしそうにしているシーラの背中をポンと叩く。
「さて、後顧の憂いも断ったことだし、張り切って行きますか、相棒」
「……ええ、そうね。この行き場のない激情でインザクアを木っ端微塵にしてくれるわ」
「平常心だよ、シーラ。勇み足踏んで即お陀仏とか勘弁だからね?」
「あ・ん・た・が・そ・れ・を・言・う・な」
むきーっと両手を挙げて葉月に覆い被さるシーラ。きゃっきゃとじゃれ合う二人を乗せたリフトが最上部に到達すると、彼女たちの搭乗を迎え入れるかのように、ギルクラスターのコックピットがハッチを開いて待ち構えていた。




