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フォーフーム戦機  作者: 女又心
第二章 碧海のインザクア

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今日はこれ以上あなたと話したくない

 ――そんな彼女の目論見は、トレーニング開始早々暗礁に乗り上げていた。


「だぁかぁらぁ! 敵は倒すなって何度も言ってるでしょ! 見つからないようにうまくやり過ごすのよ!」


「見つかる前に(ほふ)れば、それ即ち見つかってないと同義でしょ? 第一、こんな雑魚に余計な時間をかけてる場合じゃ――」


「ああっ、もう! それじゃあ訓練にならないっつってんでしょ! この分からず屋!」


 シミュレーターの後席で地団駄を踏みながら(かしま)しく(わめ)き立てるシーラに、葉月は(わずら)わしそうに閉口してコンソールに突っ伏す。


「……このシミュレーター、欠陥品なんじゃない?」


「あーッ!? ()りにも選ってあたしのシミュレーターを馬鹿にしたわね!?」


 我がことのようにご立腹のシーラを、葉月はふっと鼻で笑う。


「ああ、なるほど、道理で」


「ちょっと!? それどーゆー意味よ!?」


 あくまで反省の色がない葉月に、シーラは荒々しくため息を吐く。


「と・に・か・くっ! 今のあんたは実技以前の問題よ。不要だって言うからレクチャーをすっ飛ばしたけど、やっぱり基本に戻って座学から受けなおしてもらうから」


「やれやれ……うんざりね」


「何か言った!?」


「別に」


 険悪な空気が臨界に達したシミュレーター筐体。そこから逃げ出すように降機した葉月たちを、外にいたレイチェルがびっくりした様子で出迎えた。


「も、もう訓練終わったんですか? ず、随分と早いですね」


「わたしの出来が悪いから一時中断だって。この後シーラ大先生からありがたい補習を受ける予定」


「そ、そうなんですか?」


「そういうあんたはここで何してんのよ、レイチェル」


 シーラにきつめの口調で(とが)められ、レイチェルはひっと肩をすくめる。


「えと、あの……食事の準備ができたので、葉月さんのご都合が良い時にでもご案内しようと思って……」


 シーラは怪訝そうに眉をひそめる。


「そんなの、博士が用意した経口食を渡せば事足りるでしょ?」


「で、でも……前に光一さんが、とても(わび)しそうにしていたので――」



「その話、詳しく聞いてもいい?」



 予備動作もなくぬっと顔を近付けてきた葉月に、レイチェルはひえっと小さく飛び退()く。


 視線を落とし、胸の前で両手をもじもじさせながら、レイチェルは少しずつ言葉を紡いでいった。


「……元々、ラストパラダイス(ここ)に人間の方の生活を想定した設備は用意されていなかったんです。長い間、わたしたちレプリノイドだけで運用されてきたこともあって……。それで先日、光一さんを目覚めさせる段階になって初めて、食事や排泄などの生理現象に思い至って、急いで準備したんですけど、やっぱり色々配慮が足りなかったみたいで、光一さんには何かとご不便をおかけしてしまったようで……」


「そうだったのね……。光一、可哀そうに」


 葉月が亡き弟を不憫に思っていると、シーラが不機嫌そうに横槍を入れる。


「何よそれくらい。昔の宇宙飛行士は、もっと過酷な環境に身を置いてたっていうじゃない。身体を拭くだけとか、歯磨きした後も吐き出さずに飲み込むとか。それに比べたら天国みたいなもんでしょ?」


 その無神経な物言いに、葉月はシーラをきっと睨む。


「……光一もわたしも、好き(この)んでこんな場所にいるんじゃないってこと、分かった上で物を言ってもらえるかな?」


「あーはいはい、あたしが悪ぅございましたー」


 露ほどもそう思っていない態度であしらわれ、かちんと来た様子の葉月の前に、レイチェルが慌てて身体を滑り込ませ、一触即発の状況を間一髪で食い止める。


 場を取り繕うように、レイチェルは口早に話を再開する。


「そっ、それでですね! ……光一さんには間に合わなかったし、今更ではあるのですが、わたしなりに調べて、食事の配給システムを作ってみたんです。あと、お風呂やトイレ、寝室についても――」


「あんた、ここ数日なんかやってると思ったら、まさかそんなもの作ってたの?」


 興奮して語るレイチェルを、シーラが横からぴしゃりと非難する。


「姉様はもういないのよ? 残ったあたしらが頑張んなきゃいけないって時に……」


 わなわなと身体を震わせたシーラは、衝動的にその手を振り上げる。


「そんなことしてる暇があったら、さっさと遅れてるヴァームラウスの調整作業を終わらせなさいよ! この鈍間(のろま)!」


「あうッ!?」



 シーラの手が、レイチェルに振り下ろされることはなかった。



「……あの子のささやかな望み、わざわざ叶えてくれたのね」


 シーラの手首を掴みつつ両者の間に割って入った葉月は、レイチェルに向かって柔らかく微笑んでみせる。


「ありがとう、レイチェル。光一に代わって礼を言うわ。用意してもらった食事、この後是非いただいてもいい?」


「……はっ、はい! もちろんです!」


 葉月はレイチェルに頷き返すと、掴んでいたシーラの手首をぱっと放し、彼女の顔も見ずに、次のように告げた。


「……悪いけど、今日はこれ以上あなたと話したくない。補習はまたの機会にさせてもらえる?」


「……そうね。全く同感だわ」


 特に反発することなく、シーラは葉月の要求を呑んだ。


 彼女は葉月たちに背を向けると、


「また明日、迎えに行くから。それまでに、お互い頭を冷やして、気持ちを切り替えましょう」


「ええ、分かってる」



「――ただ」



 足早に数歩ほど歩いたところでシーラは立ち止まり、振り向くことなく、


「……光一は、物の数時間で訓練の全行程をクリアしたわ。対するあんたは、一時間かけて、まだ初級すらクリアできてない。この厳然たる事実を、もっと自覚してほしいわね」


 そう言い残し、トレーニングスペースから去って行った。


「……最後まで減らず口の多い」


 シーラの後ろ姿を横目で見遣りつつ葉月は毒づく。そんな彼女をレイチェルがはらはらした様子で見ていることに気付き、葉月は苦笑いを浮かべた。


「……ごめん。お姉ちゃんのこと悪く言われたら気分悪いよね」


「い、いえ……」


 そう言って縮こまってしまったレイチェルに、葉月は柄にもなく愛想笑いを浮かべるほかなかった。

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