徹底的に根絶やしにしてやる
「――やるわ」
東野葉月は開口一番に、そう即答した。
「あの子の……光一の命を奪った連中は、わたしが一匹残らず、完膚なきまで、徹底的に根絶やしにしてやる」
※
葉月がコールドスリープから目覚めさせられたのは、レイルバインの未帰還事故から数日が経過した後のことだった。
「おはよ、葉月さん」
「……あなたは?」
覚醒してすぐ、状況を把握するより前に見知らぬ相手から自分の名を呼ばれ、葉月は端的に誰何する。
声の主――葉月とほぼ同じ年頃に見えるショートカットの少女は、先の挨拶同様、気さくな感じで名乗った。
「あたしはシーラ。あなたのことは光一から少しだけ話を聞いてるわ」
「光一?」
聞き捨てならない単語に、葉月は自身が横たわっていたカプセルから身を乗り出してシーラに詰問する。
「あの子もここにいるの?」
「顔近っ!?」
鼻先が触れそうなぐらい詰め寄ってきた葉月に思いっきり仰け反ったシーラは、逃げるように後退りつつ、目を泳がせて言葉を濁す。
「いると言うか、いたって言うか……」
「……どういうこと?」
矢庭に剣呑な雰囲気になる葉月に、シーラは顔の前であわあわと両手を振ると、
「まっ、まずはこれを観てくれないかしら? その後に色々補足説明させてもらうから」
そう言って、二人の間に一枚のホログラムディスプレイを表示させ、それを葉月の前に押し付けるようにしてぐいっと差し出してきた。
「…………」
頑なに目を合わせようとしないシーラの顔を、しばらくの間じっと睨みつけていた葉月だったが、やがて彼女は諦めたように嘆息し、ホログラムディスプレイ上の再生マークにそっと触れる。
葉月が知る由もないが、その映像は、セシルがアルバートの指示で残した、彼が光一に現状説明と協力依頼を行った際の一部始終の記録だった。
地球に何が起こり、人類がどうなり、現状を打開するためにシーラたちが何かしていること。
そして、当初光一は彼らへの協力を拒否していたが、半ば自分を盾に取られる形で前言撤回し、やむなく指示に従ったことを、葉月は映像記録を通じて概ね理解した。
シーラからの補足説明はまだ受けていないが、彼女が何をそんなに言いにくそうにしているのかも、何となく察する。
光一の身に、何かあったのだ。
それも、どう言い繕ったところで、何の慰めにもならないほどの。
(わたしのせいで、あの子は……)
泣けばいいのか、それとも、怒ればいいのか。
状況と感情、そのどちらもまだ整理できていない葉月にとって、たった今伝えられたばかりの事実は、どこか他人事で、単なる情報の羅列でしかなかった。
でも、今はそんなことはどうでもいい。
感情はその内追い付いてくる。
それよりも。
(わたしが今なすべきことは決まった)
ホログラムディスプレイを閉じた葉月は、いよいよ映像が終わったことで、どう切り出したものかと固唾を呑んでいるシーラをすっと見据え――
※
――そして、先の宣言に至る。
まだ説明途中にもかかわらず飛び出した葉月の申告に、シーラは驚きと安堵が綯い交ぜになったような複雑な表情を浮かべていた。
「……今の情報だけで全部分かったってこと? 流石と言うかなんて言うか、そういうとこ、光一によく似てるわね」
「簡単な推測よ。さっきの映像を踏まえた上で、わたしが起こされた理由を考えたら、あの子に何かあったってことぐらい、容易に想像が付くってだけの話。ここにいないって言うなら尚更ね」
達観しているのか、将又やせ我慢なのか。
傍目には判断がつかない葉月のポーカーフェイスにやや鼻白みつつ、シーラは仕切り直すように礼を述べる。
「何だか一足飛びに話が進んじゃったけど、まずは協力に感謝するわ、葉月さん」
「別にあなたのためじゃない」
「分かってる。それでも、あたし一人じゃ姉様の仇は討てないから……。あなたが、自分から戦う意志を示してくれたことが、本当にありがたいの」
どこか自虐的にシーラははにかむ。戦いを望まぬ光一に協力を強いた結果、その代償として彼のその後の人生をふいにしてしまったことに対し、彼女なりに罪悪感のようなものがあるのかもしれない。
そんなことを葉月が憶測で考えていると、真顔に戻ってシーラは続ける。
「正確には、姉様と光一は戦って死んだわけじゃないの」
「え?」
「二人が参加した、第一の次元断層オーランドの攻略作戦はつつがなく完了し、青の障壁も無事消滅。あとはここ、ラストパラダイスに帰還して終わり――ってところで、あの不幸な事故は起きたわ」
「不幸な事故?」
鸚鵡返しした葉月に、シーラは頷く。
「オーランドから戻った姉様たちは、未知のウイルスに汚染されていたらしいの。生身の光一、レプリノイドの姉様、二人が乗っていたレイルバイン諸共ね。ラストパラダイスへの汚染被害拡大を恐れた博士は、これを未然に防ぐべく、戦いを終えて帰ってきたばかり姉様たちに対し、苦渋の決断を下したわ」
「……追放したのね、あの子たちを」
冷たい声音で吐き捨てるように言った葉月に、シーラは重々しく首肯する。
「その後、姉様たちはレイルバインを自爆させ、機体の残骸は第二の次元断層に墜落した、って博士からは聞いてる」
「……最後の話、それ本当なの?」
シーラが語った内容に形容しがたい違和感を覚え、思わず葉月はそう聞き返していた。
かく言うシーラも、自らの発言にあまり自信を持てない様子で、
「え、ええ。その当時、あたしとレイチェルはリフレッシャーでメンテ中だったから、直接立ち会ったわけじゃないけど……」
「……そう」
歯切れは悪いものの、彼女は嘘を付いていないと葉月は思った。実際にその場に遭遇したわけじゃないから、純粋に確信を持てないだけだろう。
(わたしには、あの子が自分から命を絶つとは思えない)
たとえ八方塞がりの状況だったとしても、最後の最後まで抗い、悪態の一つでも残して死んでいくのが、葉月の知る双子の弟の生き様だった。
それが、安易に自爆装置で自害を図るだなんて。
(シーラはともかく、その博士とかいうチョビ髭、絶対何か隠してる)
映像でしか見たことのないアルバートに対し、葉月が加速度的に警戒心を高めていると、気を取り直すようにシーラが話を次に進める。
「それじゃあ葉月さん。早速で悪いんだけど、今からシミュレーターのあるトレーニングスペースに案内するわ。姉様が光一のサポートに付いたように、あなたのバディはあたしが担当するから、今後ともよろしくね♪」
「ええ。あと、わたしのことは葉月って呼び捨てにしてもらって構わない。わたしもシーラって呼ばせてもらう」
「OK、葉月」
言葉と共に差し出されたシーラの手を、葉月はしっかと握って立ち上がる。
(訓練か……たるいわね。そんな悠長なことしてる場合じゃないってのに)
面倒事はさっさと終わらせて光一の敵討ちに向かわないと。
裏ではそんなことを考えながら、葉月はシーラと共に人工冬眠施設を後にした――




