アウトロー・アーティフィサー 〜魔道具市場を凌駕する〜
私は魔道具職人の家系に生まれた。
この世界において、魔道具を入手する手段は極めて限られている。
我が一族の手によって製造されるか、あるいは命を懸けて前人未到のダンジョンを攻略するか――その二つに一つだ。
市場を独占する両親の権勢は凄まじく、富と名声は我が家に集中していた。
しかし、独占は常に憎悪の火種となる。
13歳になったある夜、その火種はついに爆発した。
我が一族の独占に反感を抱いた冒険者たちが、徒党を組んで屋敷に攻め込んできたのだ。
窓の外を見れば、屈強な警備隊をも容易く突き飛ばし、猛然と正門を突破する暴徒たちの姿があった。
怒号と破壊音が夜の静寂を切り裂き、平穏は一瞬で崩れ去る。
「行きなさい、何があっても振り返るんじゃないわよ!」
両親は私を守るため、迷うことなく裏口から外へと突き出した。
背後で閉ざされた扉の音を最後に、私はたった一人、凍てつく闇の中へと駆け出した。
*
「……はぁっ」
凍える指先に、微かな吐息を吹きかける。
屋敷を追われて一週間。
かつては魔道具の柔らかな光に包まれていた夜が、今はこれほどまでに冷たく、恐ろしい。
(パパ、ママ……いつ、迎えに来てくれるの……?)
すっかり汚れきった服の袖を握りしめる。
市場の喧騒に紛れ、屋台の隙を突いては一切れのパンを盗む。
そんな惨めな日々が続いていた。
空腹は容赦なく思考を奪い、指先は時折、自分のものではないかのように激しく震える。
だが、私を震わせているのは寒さや飢えだけではない。魔法が当然のように存在するこの世界で、私には魔力が一切備わっていなかった。
そもそも、魔道具職人とは生まれながらに魔力を持たない人種なのだ。
魔法を使えないからこそ、その代替品となる道具を、血を吐くような研鑽の末に作り上げてきた。
両親の愛と権勢という後ろ盾を失った今、魔力ゼロの子供が独りで生き残るのは、あまりにも過酷な現実だった。
「大丈夫……きっと、迎えに来てくれる」
震える声を押し殺し、私は自分に言い聞かせる。
あの日、私を逃がしてくれた両親が、いつか必ず見つけ出してくれるはずだと。
だが、幼い私はまだ知らない。魔力を持たぬ者が、暴力の化身である冒険者たちに抗う術などなかったことを。
守るべき私を逃がした後、両親が無惨な結末を迎えていたことなど、今の私には知る由もなかった。
*さらに、一週間後*
あまりにも遅すぎる迎えに、私は一縷の望みを抱いて屋敷へと戻ることにした。
かつては重厚で誇らしかった正面扉。
それを押し開けた瞬間、鼻を突いたのは――ひどく鼻を刺す異臭だった。饐えた空気の中に、混じりけのない鉄の匂いが漂っている。
「……誰も、いないの?」
返ってくるのは不気味な静寂だけだった。
家を彩っていた自慢の魔道具たちは一つ残らず略奪され、主を失った廊下は、窓から差し込む冬の光を頼りに進むほかないほど暗く沈んでいる。
奥へ進むほどに、喉を焼くような異臭は強くなっていく。
そして、客間へと続く扉を抜けたとき――。
「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
喉が張り裂けるほどの悲鳴が、廃墟と化した屋敷に響き渡った。
そこにあったのは、見るも無惨に原型を失った、かつての愛しい両親の姿だった。
魔力を持たぬ者が、暴力に屈した果ての無惨な結末。
私の世界は、血の匂いとともに完全に崩壊した。
*一年後*
一年前のあの日、私は「リカ」という名を捨てた。
過去を葬り、この世界に復讐するためだ。
今は王国の端で便利屋として店を構えている。
名をリーファとして。
この街の住民権を得るためだ。
午後は毎日、ダンジョンへ潜る。
目的は、この世界の魔道具をすべて自分の手に集めるためだ。
市場を独占したから殺されたというのなら、その理不尽に対抗してやる。
先祖たちが築き上げた誇りを取り戻すために。
裏の世界で「アフール」として名を馳せている。
王国でも片手に数えられるほどのSS級冒険者。
それが私のもう一つの顔だ。
魔力がゼロの私は、特製の棒に複雑な術式を組み込んだ杖(魔道具)を使い、魔法を放つ。
呪文を唱える必要がないその戦闘スタイルは、周囲から「無詠唱の極致」だと讃えられ、いつしか『無言の魔術師』という二つ名がついた。
声で正体がバレるのを避けたい私にとっては、好都合な誤解だ。
今日は新しく発見されたダンジョンへ向かい、誰よりも早く最深部へ一番乗りを果した。
19階層で目当ての魔道具を回収し、自作のマジックバッグに収める。すぐさま自作の転移陣を構築し、一瞬で便利屋の店奥へと戻った。
「これで、ダンジョン産は6個目か……。市場を完全に支配するには、まだまだ足りないな」
そんなある日、私の店を一人の老人が訪ねてきた。
かつて我が家で働いていた使用人だ。
私が10歳の頃、還暦を機に惜しまれつつも引退したはずの女性が、なぜか私の前に立っていた。
老人は私の瞳をじっと見つめると、すべてを悟ったかのように深く頭を下げた。
「……リカ様。やはり、あなた様でしたか」
かつての忠臣との予期せぬ再会。
彼は私の目的を知り、迷うことなく協力者となることを誓った。
孤独な復讐者だった私に、かつての家系の知恵と繋がりを持つ右腕が加わったのだ。
「リカ……いや、今の私はリーファだ」
奪われたものすべてを、この手に取り戻す。
魔力なき者の反逆が、ここから加速していく。
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