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ディストピア系アイドルゲームの指揮官に転生したので、クズを演じながら推し活することにした  作者: 西嶽 冬司
序章【共犯者、あるいは被害者の苦悩】

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第6話【カナリアの合コン、あるいは強制給餌】


「——あ、もしもし? 今夜空いてる?

 いい『店』用意したんだよねぇ。 どう? 19時。

 オーケー、じゃあ後で」


基地の廊下。

響がスマホを耳に当て、ニヤニヤと話をしている。

それを目撃した美咲は深く、それはもう深く溜息をついた。


「……懲りないですね、あの種馬」


カレンとの歪だが確かな愛を見せつけられたばかりだというのに。

舌の根も乾かぬうちに、もう次の女を誘っている。

やはりクズ。 圧倒的クズ。


「あ、美咲ちゃん。 ちょうどいいところに」


響が電話を切ると、手招きをしてきた。

その傍らには、真凜と万里の姿もある。


「これより『カナリア救出作戦』を開始する」


響が芝居がかった口調で宣言した。


「対象は『オーグリー』のトップ、霧島 静香。

 現在、過労と栄養失調で死にかけているとの情報が入った。

 よって、強制連行して飯を食わす」


「……は?」


美咲が呆気にとられていると、真凜が相変わらずの目つきで補足した。


「彼女のデータ処理能力は組織にとって不可欠。

 ですが、直近のレポートに疲労起因と思われるラグが確認されました。

 非効率の極みですね。 強制的なメンテナンスが必要です」


「栄養失調?」


万里から放たれる圧が、ズズズと重くなる。


「許さん」


万里がボキボキと拳を鳴らした。

食をないがしろにする者は、誰であろうと許さない。

それが『第九のオカン』こと鏑木万里の流儀らしい。


「というわけで美咲ちゃん。 君も同行してくれ。

 女性陣が多い方が、向こうの警戒心も薄れるからな」


「え、私もですか? いや、お邪魔じゃ……」


「いいからいいから。 人数合わせも兼ねてるんだ」


また巻き込まれた。

美咲は天を仰いだが、飢えた野犬の群れに逆らえるはずもなかった。




***




響が向かったのは、基地の通信施設があった区画。

バカみたいにでかい鉄塔と、小さな箱状の建物——

『ネスト』と呼ばれる、オーグリーの拠点だ。


中へ入ると、ガンガンに冷房の効いた部屋に、サーバーが群生していた。


「さむぅ。 めちゃくちゃ冷房効きすぎですよここ」


ただでさえ物資が少ないと言うのに、どんな贅沢をしているんだ。

美咲の中で静香のイメージが、扇子を片手に高笑いをする人物で固まっていく。


「仕方ない。 『ネスト』じゃ人間よりサーバーが優先なんだ。

 ここが死ねば、俺たちは目と耳と鼻を失うようなもんだからな」


するするとサーバーの間を縫っていく響。

すれ違う隊員への挨拶も欠かさない。 もちろんセクハラも。


奥へ進み、さらに地下への階段を降っていく。 ダンジョンかな?

やがて目の前には重厚な扉。

響がIDカードをかざすと、空気の抜ける音と共に扉が開いた。


「うわっ……暗っ」


美咲は思わず身体をさすった。 寒い上に暗い。

部屋の温度計は15度を示していた。 水風呂レベルじゃん!


第九部隊のあの騒がしい空間とは対照的な、静寂と冷気が支配する部屋。

壁一面を埋め尽くす無数のモニター。流れる数値と波形。


その極寒の中心。

1人の女性がブランケットをミノムシのように被り、青白い顔で座っていた。


「ちょりっすー。

 邪魔するよー、しずかちゃぁん」


「……煩いです、コンダクター。 邪魔するなら帰ってください」


彼女が『オーグリー』の『カナリア』——霧島 静香。

黒髪を後ろで束ね、分厚い眼鏡をかけた地味な女性。

その声には覚えがあった。


『——W2発生予兆確認。 地点、第九地区居住区Dブロック』


——そうだ。 ヴォイドハウリングの予兆警報。 あの時の声だ——


彼女のデスク周りには、飲み干された栄養ゼリーのパック。

そして、薬の空き瓶が墓標のように積み上がっている。


生活がない。あるのは稼働だけの空間。


彼女は挨拶もそこそこに、手元のボトルから錠剤を数粒取り出す。

それを、ラムネ菓子のようにボリボリと齧った。


「えっ、それ……」


「頭痛薬。 業務用」


万里が代わりに答える。


「静香ちゃんはね、これがないと生きていけない体なんだよ。

 なにせ24時間365日、世界の悲鳴を聞き続けてるからね」


「……それが仕事ですから」


静香は淡々と答え、またモニターに向き直った。

その背中はあまりに小さく、そして脆く見えた。


「ねぇ、響さん」


美咲は小声で尋ねた。


「そういえば、どうして彼女たちは『カナリア』って呼ばれてるんですか?」


「ん? ああ、大昔の炭鉱の話さ」


響はモニターの光に照らされた静香を見つめながら、冷ややかに言った。


「昔の炭鉱夫は、カナリアを入れた籠を持って坑道に入ったんだ。

 人間より有毒ガスに敏感だからね。

 カナリアが死んでさえずるのをやめたら、人間は危険を察知して逃げれる」


「……!」


「真っ先に危険を察知して、真っ先に死ぬ生体センサー。

 皮肉にしても最悪のネーミングだろ?」


美咲は息を呑んだ。

この静かな部屋は、観測所なんて生易しいものじゃない。

彼女の命を削って、世界の破滅を先読みするための——処刑台だ。


「で? 今日は何の用ですか。

 第九の予算申請の手伝いなら却下しましたけど。

 『農業用プラント拡張』? ふざけてるんですか?

 トマトを作る予算があったらセンサーを買ってください」


静香が冷たく言い放つ。

あ、やっぱりトマト予算だったんだ。


「つれないなぁ。 まあ仕事の話は後だ。

 ほら、行くぞ静香。 今日は合コンだ」


「……は?」


静香の手が止まる。

眼鏡の奥の瞳が、ゴミを見るような目で響を射抜いた。


「忙しいんですけど。 W2の予兆ノイズも観測されてますし、データの解析も——」


静香は震える手でボトルから錠剤を出し、水もなしに噛み砕いた。

ガリ、ガリ、という乾いた音が、寒々しい部屋に響く。


見てられない。 思わず美咲が顔をしかめた。


「問答無用。 係員、確保しろ」


響が指を鳴らす。

真凜の手が、躊躇なくパソコンの電源ケーブルに伸びた。


「あっ! まだ保存して……!」


「クラウド同期確認済み。 連続稼働18時間超過」


ブツン。

モニターの光が消え、部屋がさらに暗くなる。


「これ以上の作業は、ただの自傷行為です」


静香が悲鳴を上げる暇もなく、今度は万里が動いた。

抗議しようと立ち上がった静香を、無言で米俵のようにひょいと担ぎ上げる。


「ちょ、離して! 重力加速度が……!」


ジタバタと暴れる静香。

しかし、万里はそのあまりの軽さに眉をひそめた。


「枯れ枝」


その一言に、静香が「うぐっ」と黙る。

あまりに的確な表現だったんだろう。

力なく萎びれる姿は、まさに枯れ枝と言う風情だった。


「よし、撤収! ターゲット確保!」


「訴えますよ! パワハラです! セクハラです! 誘拐です!」


静香の抗議も虚しく、一行は『ネスト』を後にした。

誘拐だ。 これ完全に誘拐の現場だ。


美咲は遠い目をして、その後ろ姿を見送る。

その傍には「いってらっしゃーい」と見送るオーグリーの面々がいた。

いや助けんのかい。




***




連れてこられたのは、基地の片隅にある使用されていない倉庫。

そこには既に『レティエ』——技術開発部の若手エンジニアたちが待機していた。


そして重厚な防音扉を開けた瞬間——

暴力的なまでの香りが、鼻腔を蹂躙した。


醤油の焦げる香ばしさ。

ニンニクとショウガが油で踊る刺激臭。

そして、甘く煮付けられた出汁の香り。


「なっ……!?」


静香が目を見開き、エンジニアたちが喉を鳴らす音が聞こえる。 私もだけど。

今の時代、食事とは無機質な摂取だ。

匂いなど、合成香料の嘘くさいフルーツ臭くらいしかない。


だが、これは違う。

脳の奥底に眠る、生物としての本能を直接殴りつけてくる命の匂いだ。


「へへっ、いい匂いだろ?

 換気扇のフィルターは特注だ。外には漏らさねぇよ」


響が悪魔のように笑う。 殴りてぇ。

騙された。 これは合コンなんかではない。


食欲という名の、抗えない本能への洗脳実験だ。


「ここ、お店じゃ……」


「こんなご時世に、まともな居酒屋なんてあるわけないだろ。

 俺のプライベートキッチン『スナック響』へようこそ」


響がエプロンを締めながらニヤリと笑う。


赤提灯がぶら下がり、ビールケースを積み上げたテーブルが並んでいる。

その上には、見たこともないほど色鮮やかな料理が並べられていた。

新鮮な野菜のバーニャカウダ、鶏肉の唐揚げ、透き通った刺身。


「こ、これ……本物?」


美咲は目を疑った。

配給される食事といえば、栄養調整されたペーストか、謎のブロック肉が常識だ。

万里の料理を味わったことのある美咲だったが、それでもこれほどの衝撃ではなかった。

しかも目の前のこの胡散臭い男が作ったなど、にわかには信じられない。


「俺に言わせりゃ、昆虫食を平気で食えるお前らの方がおかしいんだよ」


響がフライパンを振りながら吐き捨てる。


「コオロギの粉末を練り込んだブロック? 笑わせるな。 狂ってるだろ!

 アレはな、口の中の水分を全て奪う『虚無の泥』だ。

 そんな泥を、あろうことかリリィが「栄養効率がいいから」って無表情で齧ってたんだぞ?」


響の手が震える。 トラウマを想起したように。


「推しの可愛い口元に、泥がついてるんだぞ!?

 それはもうバグだろ!! 運営の悪ふざけだろ!! 即時メンテ案件だろ!!」


「……コオロギレンガ、高タンパクなんですよ?」


エンジニアの一人がボソッと言うと、響は包丁をダンッとまな板に突き立てた。


「シャラップ! 栄養価の問題じゃねぇ! 『キャラ付け』の問題だ!

 美少女が虫を食うな! 解釈違いで死ぬぞ俺が!

 だから俺は、千紗のために磨いた腕をフル活用しつつ、ついでにリリィのパパ活をしてんのさ」


「パ、パパ活……」


「美味しいご飯を食べさせてくれるパパ、最高だろ?」


響は手際よく、彩り野菜と鶏肉の黒酢あんかけを盛り付けていく。

立ち上る湯気。甘酸っぱい香り。


その味は——衝撃的だった。


素材の味がする。 命の味がする。


「……おいしい」


それは、さっき見た頭痛薬とゼリーだけの世界とは対極にある、命の塊。


「リリィだけじゃない。

 凝り性の湊だって、カフェインぶち込んだ合成泥水なんて飲むわけないだろ!?

 せめて有機栽培のたんぽぽコーヒーじゃなきゃ解釈に合わない!

 砂糖だって合成甘味料でなく、せめて甜菜かビートだろうが!

 それに搾りかすは家畜飼料にも使えて一石二鳥!

 あ、因みに今食べてた鶏はそうやって育てたんだぜ?」


ウルセェ。 別に聞いてないんだよ。 味に集中させてよ。


——作り手の話が一番の雑味ってどうなの?——


「推しに合成肉なんか食わせられるかよ。

 筋肉と骨と羽毛のある、生きた命を締めてこそ『肉』だろうが」


差し出されたのは、狂気じみたこだわりの上に成り立つ、極上の唐揚げ。

美咲は覚悟を決めて齧り付いた。


悔しいけれど、涙が出るほど美味しかった。


一方、真凜はエンジニアの一人と熱く語り合っていた。


「その回路設計は美しくないですね。

 ここをバイパスすれば、音響収束率が向上します」


真凜が割り箸で空中に図面を描くように指摘する。


「す、すげぇ……! 君、わかってるねぇ!

 そうなんだよ、上司が『安全マージンを取れ』ってうるさくてさぁ!」


「同意します。 非効率な安全策は、前線の死因第1位です。

 その上司、更迭すべきでは?」


「だよねぇ!?」


過激な思想で意気投合している。 だよねぇじゃないだろ。

やはり類は友を呼ぶのだろうか。


そして、万里は——

無言で、静香の皿に料理を盛り続けていた。


バーニャカウダ、唐揚げ、刺身、サラダ。

静香の小皿が、物理的に限界を迎えている。


「あ、あの、万里さん?

 そ、そんなに食べられません……胃が受け付けないというか……」


静香が助けを求めるように万里を見る。

しかし、万里は動じない。

じっと静香を見下ろすその目には、深い慈愛と、絶対に逃さないという鋼の意志が宿っていた。


「たくさん食え。 精一杯生きるために」


その言葉の響きに、静香が息を呑む。

過去に飢餓やサバイバルを知る者特有の、命への執着がこもった言葉。

静香は観念したように、震える手で野菜スティックを口に運んだ。

ポリ、と小さな音がする。


「よし」


万里が小さく頷き、すかさず次の唐揚げを追加する。 わんこそばかな?


美咲は烏龍茶を啜りながら、そのカオスな光景を眺めていた。

その中で、響が外の喫煙所へ向かうのが見えた。

美咲もそっと席を立ち、後を追う。


夜風が涼しい。

響はドラム缶を加工した灰皿の前で、煙を空に吐き出していた。


「……カナリアの平均在職期間、知ってるか?」


響が中の方を顎でしゃくる。

万里が静香に、今度は煮物を勧めているのが見えた。

唐突な問いかけに、美咲は首を傾げる。


「3年から5年だ」


息が詰まった。 短すぎる。

それでは、まるで使い捨てだ。


「脳への負荷がデカすぎるんだ。

 常に頭痛と吐き気に苛まれ、精神が摩耗していく。

 歴代のカナリアたちは、みんな壊れた」


響はタバコの灰を落とす。


「頭痛を止めるために、自分の頭にドリルで穴を開けようとした奴もいたよ。

 『頭の中で蟲が鳴いてる』って叫んで、壁に頭を打ち付けて……」


静香が頭痛薬をラムネのように齧っていた理由。

それが、ただの疲れなんかじゃないことを理解した。

そして、『カナリア』という名前がどれほど残酷な意味を持つかも。


「いやぁ大変だったよ。

 だから、俺が『処理』したのさ」


処理。

その言葉の響きに、美咲の背筋が凍る。

意味を問いただそうとする美咲を遮るように、響は店の中を見つめた。


「万里が無理にでも食わせようとするのは、そういう奴らを見てきたからだ。

 生きるエネルギーを失って、枯れ木みたいに折れていった仲間をな」


響は短くなったタバコを踏み消した。


「あいつは、天涯孤独だ。

 災害で、親も兄弟も全部失った」


「……!」


「誰よりも怖がってるんだよ。 『家族』が減るのを。

 食卓を囲む人数が減る恐怖を、誰よりも知ってる」


だから、食わせるのだ。 命を繋ぐために。 二度と、誰も失わないために。

あの不器用さには、万里のこれまでの人生と、祈りのような願いが込められている。


「……なので俺たちは『霧島 静香』に戻れる時間を無理やりにでも作る。

 籠の中で歌うだけ歌わせて、喉が潰れたらポイじゃ、あまりに夢見が悪いだろ?」


「……だから、合コン?」


「おうよ。 ストレス発散には、男と酒と美味い飯が一番だろ?」


響はケラケラと笑い、中へと戻っていった。


美咲は夜空を見上げた。

胸焼けがするのは、きっと初めて食べた唐揚げの所為だけじゃないのだろう。




***




「——お疲れ様でした。 コンダクター」


帰り道。

満腹で苦しそうな、しかし最初よりずっと血色の良くなった静香が、響に小さなUSBメモリを渡した。


「……最低です。 明日の胃もたれが確定しました」


「胃腸薬なら常備しています。 計算通りです」


真凜が涼しい顔でフォローする。

万里は静香の頭を、大きな手でポンと撫でた。


「また、太りに来い」


「……善処します」


静香は少し顔を赤らめて俯いた。


「で、これは? デートのお誘い?

 部屋にならいつでもウェルカムだが?」


響がUSBを指差して笑う。


「今日の合コンの代金です。

 第九地区の未開発エリアの土壌データと、地下水脈のマップ。

 ……あと、農業用プラントの予算、通しておきましたから」


静香はツンとした顔で言い放った。


「万里さんの物理的な圧迫感の方が、サプリメントより生存本能を刺激するというデータが取れました。

 ……また、連れ出しなさい」


「おー! さすが静香ちゃん! 仕事が早い!」


「勘違いしないでください。

 美味しいトマトが食べたいだけです」


「……生存確認の要請ですね、承りました」


響はUSBをポケットにしまい、満足げに笑った。


「見たろ? これが俺の生存戦略。

 推しのためなら、ピエロにでも仲人にでもコックにでもなってやるよ」


Win-Winの関係。 いや、Win-Winだったかな?

響は彼女たちの心をケアし、彼女たちは響に権限とデータを与える。

それは、この荒廃した世界で生き残るための、彼らなりの『共犯関係』なのだ。


「……篠崎さん。 あの人たちも、うまくいくといいですね」


美咲の言葉に、響はキョトンとして、それからニカっと笑った。


「おう。 次の結婚式でスピーチするのは俺の予定だからな!」


響は夜空を見上げ、何やらブツブツと呟き始めた。

嫌な予感がする。 美咲が止める間もなく、響のスイッチが入った。


「静香のキャラデザ見たろ? クールで神経質な眼鏡っ娘。

 ああいうタイプには、犬みたいな大型ワンコ系男子だ。

 最初は静香を困らせるけど、その能天気さに毒気を抜かれていく……王道だ」


また始まった。

この男、息をするように他人の人生(妄想)をプロデュースし始める。


「……あ? 待てよ」


響の目から、ハイライトが消えた。 これやばい流れだ。


「序盤で静香に心労かけてんだな、そいつ。

 ——許せんなぁ」


カチャリ、と撃鉄を起こす音が静かな夜道に響いた。


「カーテンコールで空っぽな頭をかち割ってやるか」


——存在しない男に殺意を向けるな!!——


マッチポンプとかいうレベルじゃない。 独り相撲の末の辻斬りだ。


美咲は呆れ果てて、足早に歩き出した。

背後で響が「いやでも、ワンコ系じゃなくて年下生意気系という線も……いや、それだと静香の胃に穴が……」と真剣に悩んでいるのが聞こえる。


「……ほんと、どこまで手を広げれば気が済むんですか、この種馬」


「ん? なんか言った?」


「いえ。 早く帰って寝ましょう。 明日も早いんですから」


基地の夜は暗い。

けれど、ここには確かに、明日を生きようとする意志と、どうしようもない狂気の光が灯っていた。

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