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ディストピア系アイドルゲームの指揮官に転生したので、クズを演じながら推し活することにした  作者: 西嶽 冬司
3章【盟約、あるいは縄張り争い】

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第31話【平穏、あるいは崩壊への序曲】


「あんにゃろぅ……まぁた仕事サボりやがって……!」


美咲は肩を怒らせながら、基地の廊下を歩いていた。


午後の陽光が窓から差し込み、埃が舞う空気をキラキラと照らしている。

穏やかな日和だが、美咲の心は穏やかさとは程遠かった。


「連絡しようにも、端末をデスクに置き去りにしやがって」


懐から取り出した響の端末を睨みつける。 画面には未読メッセージが山積み。

フェルマータからの連絡、七区との調整事項、三区からの定例報告——

未読通知が「999+」。 その表示を前に、美咲は深い溜息をつきながら、ヤツの行動パターンを頭の中で整理した。


——どーせ、子供か、ガーデニングか、食事関係の場所にしかいない——


アレの行動は、ある意味では予測しやすい。

問題は、予測通りの場所に行くと、大抵の場合、目を覆いたくなるような光景が待っているということだ。 憂鬱だなぁ。


近場から潰していくか。 そう思い、子供部屋エリアへ向かう道すがら——


「おや」


角を曲がった先に、聞き慣れた、しかし聞きたくない声と顔ぶれが揃っていた。


リリィ、ひなた、静香——通称『隠キャ同盟』の三人組。 九区の情報・技術・分析を担う重要な人材であると同時に、基地内でも屈指の『曲者』たちだ。


その傍らには仁科 真凜、そして見慣れない作業着姿の男。

七区から派遣されてきた技術者だった。 白髪交じりの髭面で、目尻には深い皺が刻まれている。 作業着には油染みがついており、いかにも『現場の人間』という風情だ。


「1号、サボりですか?」


真凜が、糸のように細い目を向け、言葉で殴ってきた。

いつもの冷たい嘲りが含まれている。 蛇のように冷徹な視線。

美咲は背筋に冷たいものが走るのを感じた。


「仕事中だよ! 響さんを探して子供部屋に行こうとしてるんですよ!」


美咲は反射的に言い返し、子供部屋のある建物の方向を指差した。


その瞬間——


「あんぎゃあああああ!?」


激痛が指先から腕全体へと走った。


真凜が、美咲の人差し指を掴み、関節とは逆方向にグイと極めていた。

まるで折り紙でも折るかのような、淡々とした動作。

彼女の指は細く白いが、その握力は鋼のようだった。


「失礼。 先端恐怖症なので」


悶絶する美咲を尻目に、真凜はしれっと答えた。 一切の悪意も、罪悪感もなし。

「おはようございます」と挨拶するかのような自然さで、人の指を極めている。


——私はあんたに対して恐怖症を発症しそうですけど!?——


美咲は涙目で指を擦りながら、心の中で絶叫した。 何度目だ、この理不尽な暴力。


「第九っちゅうのは過激じゃのぅ」


七区の技術者が、呆れたような、感心したような声を上げた。

荒くれ者揃いの七区でも、この光景は珍しいらしい。

彼の目には、野犬の群れを見る動物園の来場者のような——畏怖と困惑が入り混じった色が浮かんでいた。

彼の目が、美咲の指した先を確認した後、美咲の目を見つめる。


「お前さん、七区(ウチ)に来るか?」


——行きたいなぁ——


本気でそう思った。

道を極めた系の七区だが、味方の指まで極めたりはしないだろう。

いや、もしかしたら極めるじゃ済まないかも……。 こわぁ。


「行動パターンを分析するに、恐らく指揮官は食料プラントですね」


静香が淡々と告げる。 手元のタブレットには、響の過去一週間の行動記録がグラフ化されていた。

時間帯別の滞在場所、移動経路に——『接触した女性隊員リスト』。


——いつの間にそんなデータを——


「ノラと二人きりなら、二時間は近づかない方が賢明だと、リリィは思います」


リリィが、無表情のまま言い添えた。

その言葉の意味するところを、美咲は深く考えないことにした。

考えたら負けだ。 精神衛生上、非常によろしくない。


「昼過ぎにガーデニングエリアに現れるので、そこを捕まえるのが得策」


眠そうな目をこすり、ひなたが続けた。


——情操教育に悪いなぁ——


美咲は遠い目で空を見上げた。 広がる青空は、こんなにも綺麗なのになぁ。


「ガーデニングぅ? 家庭菜園で芥子でも育てとるんか?」


技術者が眉を顰める。

普通、コンダクターといえば作戦室に籠もって書類仕事——のはずだ。

それが農作業に勤しんでいる。 他区の人間からすれば、さぞ奇異に映るのだろう。


「流通コストを考えると利益は100分の1にもならないので、旨みが薄すぎますね」


真凜の冷静な分析は、株式レポートでも読み上げているかのようだ。

なんでアイドルが、お薬の流通コストを知っているんだろうね。


「オマケに、流通を拡大させるほどに、漏洩リスクが跳ね上がる。よほど売春を斡旋する方が儲かります」


彼女の脳みそには、闇市場の相場データでも詰まっているのだろう。


——なんでそんなデータ持ってるの——


「『種馬』なら、指揮官より男娼の方がお似合いだと、リリィは思います」


リリィの声には、かすかな棘が含まれている。

嫌っているようで、頼っているようで、甘えているようで——相変わらず複雑だ。


「文字通り身体で稼いでから、工具を買って貰う」


ひなたの目は相変わらず眠そうだが、言っている内容は相当にエグい。

潤沢な予算と最新機材を与えられている恩恵を受けながら、この言い草。


——やっぱ情操教育に悪いなぁ——


アイドルが、なんで薬物や風俗事情にこんなに詳しいのだろう。


もちろん、彼女たちはこの世界の『端末価格』を知り尽くした、過酷な人生の経験者たちだ。 生き延びるために、様々な知識を身につけてきたんだろう。


でも怖いよー。


「なぁ……この基地本当に大丈夫なんか?」


技術者が、心底不安そうな顔で呟いた。彼の目には、野犬の群れに紛れ込んだ羊のような怯えが浮かんでいる。


「亡命って可能なのかなぁ……」


七区でも五区でもいい。どこか、もう少しまともな——


「首から下だけなら、どうぞ好きな場所に。 送ってさしあげましょうか?」


にっこりと微笑む真凜。

その笑顔は、冬の湖面のように美しく、そして凍てつくほどに冷たかった。


「間に合ってますぅぅぅ!」


美咲は叫び、全力で逃げ出した。


廊下を駆け抜け、角を曲がり、階段を駆け下りる。

心臓が早鐘を打ち、呼吸が乱れる。

太腿が悲鳴を上げ、肺が燃えるように熱い。


明日は絶対に筋肉痛だ。


走りながら、美咲は確信した。




***




響を待ち構えるため、美咲は食堂へやってきた。

ついでに厨房へも顔を出す。


カウンター越しに覗き込むと——


「ママァ……ここの汚れが落ちないよぉ……」


高宮がいた。


エプロン姿で、厨房の床に這いつくばり、デッキブラシを握りしめている。

かつては三区のエリート然とした態度で周囲を見下していた男が、今や床掃除。

白いエプロンには染みがついており、髪は乱れ、目の下には隈ができている。


その姿は、どこからどう見ても——


「口動かす暇あったら手を動かせ。飯を抜くぞ」


万里の声が、厨房の奥から響いた。


巨躯の女性が、両手に鍋を持ったまま、高宮を睨みつけていた。

鍛え上げられた体躯は女性とは思えない迫力を放っている。

その目は、厳格な教官——いや、躾を施す主人の目だった。


「はいっ! すみませんママ!」


悲鳴のような高宮の声。 完全に『躾け』られている。


「うわぁ……」


思わず、美咲の喉から声が漏れた。 どんな洗脳を受けたのだろう。


いや、万里の料理の暴力がすべてを説明している気もする。

美咲自身、何度か万里特製のカレーを食べて、涙を流した経験がある。

あれは、もはや麻薬だ。


——とりあえず見なかった事にしよう——


美咲は視線を逸らそうとした。


「む。こんなところでどうしたんだ、1号」


高宮が、美咲に気づいた。 床に這いつくばったまま、首だけを持ち上げてこちらを見ている。 犬が飼い主を見上げるようにも見える姿だ。 プライドはどこへ消えた。


「ライダーみたいな呼び方すんな、2号」


1号だの2号だの、まるでバイカーヒーローの命名規則だ。


「暇人? なら仕事を手伝え」


万里が、鍋を調理台に置きながら言った。 有無を言わさぬ威圧感がある。


「違います。 仕事中です。 響さんを探してるんです」


料理の下準備、食材の仕分け、調理器具の手入れ——

一度手を貸したが最後、延々と作業が続く。

下手に引き受けたら日が暮れるまで解放されない。


「さすがは1号。 実に勤勉なパシリ。 2号も見習え」


万里が、珍しく美咲を褒めた。


「貴様ぁ……ママに褒めてもらうとは羨ま……いや、憎らしいヤツェ」


——しらねぇよ——


パシリ同士の謎のマウント合戦に付き合う気はない。


「昼食まではまだ時間がある。談話室で休憩でもしたらどうだ?」


万里が、意外にも優しい声で言った。


「優しい……すごい優しい……」


やはり万里は主婦。 この基地の唯一の良心なのかもしれない。

料理の腕も確かで、面倒見も良くて、そして——


「オノレェ……お前ばかりママに褒められてェ……!」


高宮が、床に這いつくばったまま拳を握りしめた。


「黙って働け」


「はいぃぃ! ママ、僕ガンバりゅぅぅ!!」


——やっぱりこの基地に良心はないかもなぁ——


デッキブラシを振り回す高宮を尻目に、美咲は静かにその場を離れた。




***




昼過ぎ。 美咲は、ガーデニングエリアへ足を運んだ。


第九基地(荒廃した世界)においては貴重なオアシスだ。


リンドウの青い花が風に揺れていた。 清楚な姿は、この基地の混沌とは対照的だ。

凛とした佇まいで、澄んだ青色が空に溶け込んでいくようだった。


「……何してるの?」


不機嫌そうな声が、美咲の背後から聞こえた。


振り返ると、久遠 湊が立っていた。 氷のように冷たい瞳でこちらを見つめている。 相変わらず人を寄せ付けない雰囲気を纏わせている。 ただし、響にはだだ甘。


「それはこっちのセリフですが?」


美咲は言い返した。 こんな場所で何をしているのか。


「別に。 ちょっとダ——響に聞きたいことがあっただけよ」


湊は、ふいと視線を逸らした。

いい加減、すっとダーリンって呼べよ。 いつまでツンを偽装してんだ。

リンドウの花を見つめながら、どこか落ち着かない。


「ソウナンデスネー。私モデスヨー」


美咲は棒読みで答えた。

湊の響への感情は、基地中の誰もが知っている公然の秘密だ。

本人だけが気づいていない——いや、気づいていないフリをしている。


「やぁ、俺をお探しだったとか?」


軽い声に振り返ると、響が立っていた。


いつもの軽薄な笑みを浮かべているが——どこか顔色が悪い。 目の下にはうっすらとクマが浮かんでおり、普段の精悍さが翳っている。


——さぞ激しい『仕事』だったんだろうなぁ——


美咲は、詮索しないことにした。 四人の妻を持つ男の仕事は、大変なのだろう。


「携帯端末くらい持っててください」


美咲は、響に端末を投げつけた。

響はそれを片手で受け止め、画面をちらりと見た。


「あ〜……うん……そうだね」


曖昧な返事。 悪い顔色が、更に悪くなったような気がした。


「で、何の用? 俺ってばこう見えて結構忙しいんだけど?」


響が肩を竦める。 どの口が言ってんだ。 忙しいのは首から下だろうが。


「……私は後でいいわ。お先にどうぞ」


湊が、一歩引いた。 その目が、ちらちらと響を窺う。


——こいつ、二人っきりになりたいだけだな——


美咲は察した。 彼女の思惑など、もはや読み筋だ。

普段から、超絶めんどくせー男を相手にしている経験が活きていた。


「また、フェルマータから連絡が来てましたよ」


美咲は、本題を切り出した。

フェルマータ——彼からの連絡は、何かしらの重要な報告のはずだ。


「あ、そうなの?」


響は、何の気なしに虚空へ手を伸ばした。

手のひらを天に向け、まるで何かを受け取るかのような仕草だ。


美咲が、何してんだこいつ?と思った瞬間——


「どうぞ♩」


響の背後から、さよが現れた。


元看護師長——そして響の妻の一人。

彼女が、響の手のひらにタブレット端末を載せた。


まるで、阿吽の呼吸で踊るダンスパートナー。

長年連れ添った夫婦のように自然で、そして息がぴったりだった。


「サンキュー」


——いやいや、「サンキュー」じゃないんだよ——


美咲は頭を抱えた。 いつの間に召喚術を習得したのか。

毎回毎回、どいつもこいつも急に現れすぎなんだよ!




タブレットの画面に、フェルマータの映像が浮かび上がる。


『やぁ、指揮官。 例の件で追加報告がありましてね』


フェルマータの声は、相変わらず穏やかだった。

雑談でもするかのような口調だが——その目には、学者特有の鋭い光が宿っている。


『これは驚くべき結果です』


画面に、複雑なグラフや数値が表示される。

美咲には何を意味するのか分からないが、響の表情が強張るのが見えた。


『あなたの推進した『合コン』——一般人とノイズのマッチング事業ですが、その追跡データから、極めて興味深い結論が導き出されました』


フェルマータが、画面上のデータを指し示した。


『一般人という『異物』を混ぜることで、ノイズという『病』を中和、あるいは次世代への『抗体』に変える効果がある事が発覚しました』


フェルマータのどこか興奮したような声に、響の顔がさらに強張る。


『つまり、『合コン』によるマッチングデータは、人類が『W5』以降の世界を生き抜くための『ワクチン』になり得る』


フェルマータの目が、キラリと光った。 AIなので、物理的に光っている。


『あなたは、本能的に理解していたのですか? 愛し合う(交わる)ことこそが、最強の医療行為であることを』


「何それ……知らん……こわぁ……いくら元がエロゲだからって、そんなあからさまな設定アリなのか!?」


響が、顔を引きつらせて叫ぶ。 本気で困惑しているように見えた。


——何言ってんだこいつ——


首を傾げつつも、美咲は追及はしないことにした。

彼が時々、意味不明で独特な言語を用いるのは今更事だ。


『特にあなたは、一般人でありながらレゾナント級の耐性を持っている』


フェルマータが、データを示し続けた。 AIなのに、声が恍惚としている。


『数倍から数十倍のデトックス効果。

 あなたは、この世界における『マスターピース』になり得る存在です』


「さすが『第九の種馬』は伊達じゃないですね。

 ゲーム的に言うと、SSRの種馬って感じですかね。笑える」


美咲は、乾いた笑いを漏らし、皮肉たっぷりに言った。

響の顔色が、さらに悪くなる。 もう青通り越して、200色で一番の白。


「……! フェルマータ! この情報は封鎖だ! 管理権者以外に漏らすな!」


『承知しました』


響が、珍しく真剣な声で命じ、一度は頷いたフェルマータだが——


『ですが、私はAIなので三区側への拒否権はありません。

 あと、響さんが検閲する前に情報を確認した者がいます』


「だ、誰だ?」


響の声が、かすれた。




「私ですよ」


澄んだ声が、背後から響いた。


「ひゅ」と、美咲と響の喉から奇妙な音が漏れた。


振り返ると、千紗が立っていた。


その紫色の瞳が、静かに響を見つめている。

天使のような微笑みを浮かべているが——その奥には、何か底知れないものが潜んでいた。 まぁいつも通りなんですけどね。


——お前だったのかぁ……一番バレたらダメなやつだぁ……——


美咲は、頭を抱えたくなった。

千紗の響への執着は、基地中で有名だ。 ブラコンを通り越して、もはや何か別の次元に到達している。


この情報を千紗が知ったということは——


「つまり……義兄さんとヤるのは合法ということですね……」


千紗が、にっこりと微笑んだ。

その笑顔は、満面の——そして、どこか狂気を帯びた喜びに満ちていた。


「いやぁ、でもぉ……ハッピーエンドのためにも、千紗さんには主人公とくっ付いてほしいっていうかぁ……もう手一杯と申しますかぁ……」


「私のハッピーエンドは、義兄さんと同じ墓に入ることですよ」


いや、思いが重いなぁ。

彼女の周りだけ重力密度が上がり、世界が沈み込んでいるかのような錯覚さえする。

後ずさりする響の声は、明らかに動揺している。 膝も顎もカタカタしていた。

当然、美咲もカタカタしている。 ブラックホールを前にして、ビビらんヤツいる? いねーよな!?


響は助けを求めるような視線を、湊へ向けた。




だが——


「……じ、じゃあ私ももっとイチャイチャしないとね」


湊が、頬を赤く染めながら言った。


「か、勘違いしないで。 これは私が生き残るのに必要なことだから」


その声は震えており、目は泳いでいる。 典型的なツンデレの弁明だった。

コイツ、ここでついに覚醒したのか!?


「ち、ちゃんミサキ……後生だから助けてぇ……!」


響が、美咲に縋りついてきた。 目には、本気の恐怖が浮かんでいる。


「重要な情報は、すぐ確認できるようにしておくことですね」


美咲は、冷たく言い放ち、ダッシュした。


——自業自得だろ、種馬野郎——


響の悲鳴が、ガーデニングエリアの空気を満たした。




***




その夜。

基地の一角にある通信室で、三つの影が集まっていた。


リリィ、ひなた、静香——通称『隠キャ同盟』。

それぞれの専門分野を活かして、第九の情報インフラを支えているメンバー。


モニターの光だけが、暗い部屋を照らしていた。


「解析が終わりました」


リリィが、モニターを見つめながら言った。

その無表情な顔に、かすかな緊張が滲んでいる。


「信号の発信源は偽装されてますが、確実に九区を狙ってます」


画面には、複雑な波形データが表示されていた。

その周波数を分析した結果、ある特定のパターンが浮かび上がっている。


「発信されている信号には、明らかなノイズ誘導波形が混ざっています」


静香が、タブレットを操作しながら補足した。

冷静な声だが、わずかな不安と焦りが滲んでいるように感じられた。


「パーツの解析も完了した。 波形を反転させ、増幅させる作用がある」


ひなたが、回路図を示しながら説明した。

彼女の目は、いつもの眠そうな様子とは打って変わって、鋭く光っている。


「つまり……」


三人が、同時に口を開いた。


「「即刻破棄しないと、九区がディストルの餌場になる」」


その声は、暗い通信室に重く響いた。


闇市場に流出した技術。

改造されたアンプ。

そして、第九地区を狙う謎の信号。


すべてが、どこかで繋がっている。


リリィは、モニターから目を離さなかった。


その小さな体に、大きな責任を背負いながら。


明日、この情報を響に報告しなければならない。

そして、また美咲が「キャンキャン」言うのだろう。


モニターの光が、彼女の幼い顔を照らしていた。

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