第2話「腹ペコ社畜、ギルドへ行く」
──神様の手違いで最強になった俺、異世界でも社畜気質が抜けない件──
草原を歩く。
腹は鳴る。
太陽は二つ。
……そして俺の財布はゼロ。
「神様、スタート資金“小”って言ってたけど、“無”の間違いじゃね?」
ポケットを探っても、小銭どころかポテトチップのかけらすら出てこない。
異世界初日、すでにピンチ。
そんな中、遠くに城壁の街が見えた。
高い塔、旗、行き交う馬車。
まるでファンタジーの教科書みたいな光景に、思わず見とれる。
「……ここが、俺の新しい職場――じゃなくて、人生のスタート地点か。」
職場って言っちゃった。
社畜の習性、根深すぎる。
街の門に近づくと、警備兵が声をかけてきた。
「おい、そこの兄ちゃん。身分証は?」
「え、あ……転職活動中です」
「……は?」
やばい。初手から文化の違い。
慌てて神様にもらった“光る神紋”を見せると、兵士は目を丸くした。
「こ、これは……加護持ち!? 本当に?」
「多分……そうです。手違いで。」
「て、手違い?」
説明が長くなりそうなので、笑ってごまかした。
門を抜けると、街の喧騒と香ばしい匂いが押し寄せてくる。
屋台の串焼き、パン、スープ……全部うまそうだ。
腹が限界を訴える。
「ぐぅぅぅぅ……」
「お兄さん、お腹すいてる?」
声をかけてきたのは、茶髪の小柄な少女だった。
リスみたいな瞳がキラキラしてる。
「はい、すいてます(即答)」
「じゃあ、ギルド行きなよ! 登録したらお金もらえるよ!」
「……マジで!?」
少女の案内でたどり着いた建物は、でっかい酒場みたいな雰囲気。
扉には大きく「冒険者ギルド」と書かれている。
⸻
ギルド内
酒の匂い、笑い声、武器の音。
まさに“働く場所”の香りがする。
受付に行くと、赤髪の女性職員がにこやかに迎えてくれた。
「新規登録ですね。お名前をどうぞ。」
「黒川真一です。転生組です。」
「て、転生……?」
一瞬固まったが、すぐに笑顔に戻る。
この人、プロだ。
「それでは、得意な武器や魔法を教えてください。」
「全部使えます。」
「……ぜ、全部?」
受付嬢が書類を落とした。
周囲の冒険者たちがざわつく。
「全部って……属性制限ないのか?」
「嘘だろ、全魔法使いとか聞いたことねぇぞ!」
やばい。異世界でも目立ってる。
こういうの一番苦手なんだよな……。
「えっと、手違いで、そうなりました。」
「手違い!?」
※今後、この言葉は俺の口癖になる。
⸻
登録完了
スタンプが押され、木製のカードを渡される。
「これが冒険者カードです。初仕事はこちらを。」
差し出された紙には、
『草原ウルン3体討伐 報酬:5枚銀貨』の文字。
「おお、ついに初任務か……!」
「ウルンは弱いですが、油断しないでくださいね。」
「はいっ、報・連・相は基本です!」
「ほうれん……?」
説明しかけてやめた。
異世界に“報連相”文化は、まだ根づいていない。
⸻
草原再び
数時間後、草原。
風が気持ちいい。だが腹は減ってる。
「ウルンってどんな見た目だっけ?」
足元で、もふもふした生き物が首をかしげた。
丸くて小さいウサギ……のような何か。
「ぷい?」
「お、かわい──」
ガブッ!
「いってぇぇ!!?」
丸い見た目に反して、牙が鋭い。
こいつがウルンか!
「まさかのウサギ系モンスター!?」
あわてて魔法を放つ。
「ファイア! ……あ、燃やしすぎた!!」
ウルンが黒こげになり、報酬対象の素材が台無し。
「やっべ……単価が……!」
社畜の習性がまた出た。
二体目、風魔法で吹き飛ばしすぎて彼方へ。
三体目、氷魔法で凍らせすぎて粉砕。
結果、収穫ゼロ。
「なんでだよ……チートなのに……成果ゼロとか俺らしいわ」
そんな中、遠くの丘で見慣れない影が動いた。
鎧を着た大きな獣人。
背には巨大な剣。明らかにただ者じゃない。
「……おい、あれ見ろ!」
「またウルンを焼きすぎた奴がいるぞ!」
……噂されてる。早い。
異世界の情報拡散速度、やばい。
俺は慌ててその場を離れた。
「……とりあえず今日は報告だけしよう」
報告、大事。社畜の基本だ。
でも腹も限界。
露店で串焼きを買って、空を見上げた。
二つの太陽が沈みかけていた。
「……なんだろう。会社帰りみたいだな。」
でも、前より胸が少し軽い。
この世界では、もう誰かのためだけじゃなく、自分のために動ける。
そう思った瞬間、
遠くで爆音が響いた。
ドォォォン!!
空に黒い影。
巨大なドラゴンが、街の上を飛んでいた。
「……あれ、明らかにチュートリアルの範囲外じゃない?」
嫌な予感しかしない。
──俺の異世界“残業”は、まだ始まったばかりだ。
⸻
✅次回予告
第3話「ドラゴン、納期を守らない」
初仕事で黒焦げウルン、そして唐突なドラゴン出現。
チート社畜の“残業バトル”が開幕する──!




