第1話 「死んだはずが、手違いでした」
──神様の手違いで最強になった俺、異世界でも社畜気質が抜けない件──
朝の雑踏を、俺はいつものように肩を落として歩いていた。
黒川真一、三十四歳。
独身。社畜。寝ぐせ芸人。
希望より、クマの方が濃い男だ。
「はぁ……今日も地獄の会議だよ」
電柱の時計は、始業ギリギリ。
スマホには上司からの無慈悲な通知が並ぶ。
『会議10分前に必ず来い』
『昨日の資料、まだ?』
『あとコーヒー買ってきて』
いやそれ業務外だろ。
でも“はい”としか返せないのが社畜の悲しい性だ。
俺は心の中で嘆息する。
(異世界とか……行けたらいいのにな)
そんな逃避をしながら横断歩道に差しかかった、その時だった。
「きゃっ!」
小さな悲鳴。
ランドセルを背負った子どもが転び、その前方──トラックが猛スピードで迫っていた。
視界が揺れ、思考が真っ白になる。
気づけば、俺の体は飛び出していた。
「危ない!!」
子どもを抱えて横へ飛び退き、俺の目に映ったのはトラックのヘッドライト。
クラクションが、世界を切り裂くように響いた。
──白い閃光。
※
「……ここ、どこだ?」
目を開けると、真っ白な空間。
雲みたいな床。視界いっぱいの光。
現実感が希薄すぎる。
そして、目の前にいたのは……
「よっ。起きた?」
爽やか系イケメン。
白い服、金の輪っか、コーヒー片手。
……こいつ、どう見ても神様だ。
「まずは……ごめん」
「はい?」
「いやー、完全に手違い。システムエラー。
君、本来ならあと二十年は生きる予定だったんだよね」
あっけらかんとした口調。
軽い。軽すぎる。
「……死因、あなたの手違いですか?」
「そう!」
笑顔で言うなや。
呆然とする俺に、神様はポンと手を叩いた。
「だからお詫びに転生!異世界!魔法アリ!モンスターもいるよ!」
……この神、切り替え早くない?
「いや、そもそも俺、生き返れたほうが──」
「無理。処理走っちゃったから」
ITかよ。
神様は書類をひっくり返しながら続ける。
「でも安心して。補償つけるから。
まず、全属性の魔法。火も水も光も闇もぜんぶ使える」
「全……?」
「ついでに神の加護もポン!」
頭に暖かい光が流れ込む。
すげぇ……現実味はないのに、力だけははっきり感じる。
「あと、言語理解。通貨、基礎魔法指導……あ、会社のメール自動返信はしといた」
「そこ気遣うのズレてません?」
「働いてたんだろ?責任感強いタイプでしょ。社畜気質、私は好きよ」
褒められてるのに胸が痛い。
神様はニッと笑った。
「さぁ、行ってこい。
今度の人生は、好きに生きていいんだ」
その言葉が、胸に刺さった。
(……好きに、生きる)
俺が最後に考えたのは、助けた子どもの顔だった。
「その子、無事ですよね?」
神様は優しく頷いた。
「当然。君のおかげだ」
肩の力が抜けた瞬間、光に包まれる。
「それじゃ……いってらっしゃい!最強社畜さん!」
いやその肩書き嫌なんだけど──
※
眩しい陽光と、草の匂い。
目を開けると、広大な草原が広がっていた。
空には太陽が二つ。
遠くには巨大な城壁都市。
「……マジで異世界だ」
手をかざす。
ふわりと火の玉が生まれた。
「おお……!」
次の瞬間、爆ぜた。
「熱っ!?」
慌てて水魔法──
バシャッ
「冷たい!?」
風魔法で乾かそうとしたら、突風で髪が爆発。
「なんで最大出力……!」
結果、へんてこなアホ毛が立った。
(……チートって万能じゃないのか?)
そのとき。
草陰からぷるぷるとした青いスライムが顔を出した。
「ぷるる」
「よし……まずは初仕事だ」
火、水、光、闇。
魔法が自然に組み合わさっていく。
スライムは爆ぜ、煙となって消えた。
「……やれた」
胸の奥が温かくなる。
(せっかくもらった新しい人生だ。
今度は、俺も……誰かを助けられる人間になりたい)
風が吹く。
どこか祝福のように。
「……よし、まずは冒険者登録だな」
だがその前に。
ぐぅぅぅぅ……
「腹、減った……」
異世界最初の敵は、空腹だった。
──俺の第二の人生が、ここから始まる。
⸻
✅次回予告
第2話「腹ペコ社畜、ギルドへ行く」
最強チート持ってるのに、まず食事と職探しから。
異世界でも、社会は厳しい──!




