コンビニアイス
佑太は夜空の下で夢中になって走った。剛史と蓮はよくやっていてくれているらしく、佑太の耳には自分と手の先にいる少女の荒い息と足音しか聞こえなかった。そして近くの公園まで来たところで二人してベンチに倒れこんだ。
「はぁ、はぁ・・・」
お互いにまともに顔すら見ることができないでいた。
「だ、大丈夫だった?」
「あ、はい・・ありがとうございます。」
綺麗な声だった。特に何かを話したいという風でもなさそうだったのでそれ以上は聞かないでおこうと思った。
「さっき不良たちに飛び込んで行ったのは俺の友達でね、かなり強いから安心して。」
剛史は言うまでもないが、蓮も喧嘩が強かった。あいつらのことだから、任せておいても大丈夫だろう。
少しの間、空を見上げていた。少女はいつのまにか背筋を張った綺麗な姿勢でベンチに座っていた。しかし、電灯が近くに無いからかあまり顔がよく見えなかった。息も落ち着いてきて、佑太は剛史達の様子を見に行こうと思った。
「あの、私の家はこの近くなのであとは自分で帰れます。」
少女が不意に言った。佑太もコンビニへ引き返そうと思った。
「そっか、じゃあ気をつけてね。」
しかし、さらりと別れの会話をしたにも関わらず、少女はその場に立ち尽くす。
「まだなにか?」
佑太が聞くと、
「あの今度お礼をしたいんですけど、連絡先を教えてもらってもいいですか?」
そんなことか。
「もちろんいいよ。」
携帯でお互いのメールアドレスを交換した。
「それじゃあまたね。」
佑太と少女は違う方向へ向かい、公園を後にした。
目が暗闇に慣れてきたころ、不意に24時間営業の神々しいまでの看板が目に飛び込んできた。近づいていくとあの二人が駐車場の隅でアイスを食べている。
「助かったよ。御苦労さま。」
「今日はクールダウンまだだったかちょうどよかったぜ」
剛史が白い歯をこちらへ見せつけた。
「僕も久しぶりに運動できてよかったよ。」
蓮もまったく疲れた様子はない。
「それよりさっきの女の子大丈夫だった?」
「ああ、家の近くの公園で別れてきた。」
あの様子じゃもう家に着いてる頃だろう。
「それだけか?」
剛史が残念そうな声をあげる。それ以上のことでも期待してたのか。
「しかたないよ、佑太は奥手だからね」
「いやいや、そんなことはないだろ。一応メアドは交換したし!」
二人は軽く笑った。彼らには敵わない。
コンビニでアイスを食べてから、帰路に着く。
「やばい、ノートまだ写してねえよ。」
剛史がカギを奪って先に走って行った。蓮は隣で誰かと電話をしている。話の内容からして女だろう。佑太はひとり空を見上げる。満天の夜空はとても広大で、すべてを吸い込んでしまいそうだ。少し、さっきの少女のことを思った。しかし、コンビニで不良集団に絡まれるとはついていない。そんなことを考えていると、ふと一つ思い出した。
「そうだ、名前聞くの忘れてた。」
やはり自分は奥手だったのかもしれないな。長い夜はこうして更けていった。