表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/4

ふとみれば夜空

坂をだらだらと一台の自転車が登りながら佑太はやっとのことで帰宅する。

ドアの鍵を開け、窓を開け鞄を机に置いて一段落する。

なんだか、今日は一段と疲れた気がする。彼女達ははたして反省したのだろうか。いや、してないだろうな。



ほんの一時間前のことだとは思えなかった。


彼女達の暴言を咎めようと佑太は彼女達に歩み寄る。

「お前ら、ちょっと言い過ぎだろ。おじさんに謝れよ。」

突然目の前に現れた青年に茫然とし、彼女達は一瞬黙り込む。

「人に言っていい事と悪い事ってのがあるっていうことぐらいわかるだろ。」

意外にもその一団は何も言い返してこない。ただただ暴言を吐いた彼女の事を見つめるだけである。これはきちんと話せば反省しそうな軽い不良気取りの連中だな。

そう確信しかかった時だった。

先程の暴言を吐いていた少女が立ち上がり、佑太に向かって毒づいた。

「何説教してんだよっ!!!!」

そう言って彼女は軽く勢いをつける。

そして突然、立ちつくす佑太の頬にいきなり右ストレートをねじこむ。

「うぉっ。」

油断していてストレートをモロにくらった佑太はそのまま倒れ込む。

「なんだ、なんだ。」

イヤホンを外して俊太が駆け寄る。周りの乗客も異常に気付いたらしく、目を向けてくる。

「行こーぜ。」

殴った本人はまるで周りの目を気にしないで悠々と繁華街のある駅で仲間を引き連れ、降りて行った。

「…ぉぃ、…待て。」

いきなり殴られたせいか、追い掛けようにも上手く立ち上がることすらできない。

「おい、大丈夫かよ。なんでまたあんな奴にちょっかい出しに行ったんだよ。」

俊太が心配そうに声をかけてくる。

「ちょっかいじゃねーよ。ってかお前、あいつの事知ってるのか。」

「藤堂美香だよ。お前知らないの。」

「知らないな。有名人なのか。」

聞いた事もない名前だった。

「普通科の奴なら誰だって知ってる不良だよ。この辺りじゃ敵なしらしいぜ。」

それはまた、とんでもない奴を説き伏せようとしたものだ。今更ながらに自分の正義感が恐ろしい相手に働いてしまったことに恐怖を覚えた。


そんな一件のすぐ後であったので、勉強が手に付くはずもなく、片付けもやる気が怒らなかった。テレビのコメンテーターが未成年の犯罪についての意見を述べているのが、なんだか軽快なリズムのように聞こえてくる。

―それではコマーシャルで~す。

女子アナの大人っぽい声を聞いたところで、佑太はそっと瞼を閉じた。


ふと目を覚ます。 気付けば11時前だった。剛史達がくるまで時間がない事に気付き、急いで片付けにとりかかる。

しかし、間に合うわけもなく、5分ほど経つと、インターホンが来客を告げるチャイムを鳴らす。

「開いてるよ。」

しばらくすると、エナメルバックに野球帽といった身なりの剛史と、両手にお菓子やらジュースを袋いっぱいに持った蓮が現れた。「相変わらず散らかってるね。おばさんが帰ってきたら怒られるよ。」

佑太の母は現在、父の赴任先である北海道で暮らしている。二年前までは、母と佑太の二人暮らしをしていたのだが、佑太の中学卒業を期に引っ越すことになっていた。しかし、佑太の強い思いと、剛史たちの願いから、佑太だけがこの町に残る事になり、以前に住んでいた家は売り払い現在は佑太一人でアパートに住んでいるのだ。

「まぁ、正月までは大丈夫だろ。」

北海道はそんなに近い場所でもないので、母が帰ってくることはあまり無く、去年も正月に一度帰ってきただけだった。

「とりあえず、ノートはそこにあるから。」

「了解したぜ。」

よほど、期限が迫っているのかして、剛史はすぐにノートを写しにかかる。

「程よく間違えないと、写したってばれちゃうよ。剛史は馬鹿なんだからさ。」

蓮が暇をもてあまして、コーラをグラスに注ぎながら、剛史に華麗に鋭い言葉を浴びせる。

「お前も佑太から見りゃ変わらねーだろーが、馬鹿!」

「剛史、人に言っていい事と悪い事があるくらいわかるよね。この馬鹿野郎っ!」

「何だとこの大馬鹿野郎」

そして、二人して小学生のように睨み合う。

こうなったらもう止められないのが彼らの喧嘩だ。

「ちゃっちゃと済ませて、宿題やらないとやばいんじゃねえのか。」

一応、剛史には警告するのだが、

「いいか、佑太、男には引いちゃいけない時ってのがあるんだぜ。」

いや、今は絶対にその引き時には当てはまらないと思うんだが…

「お前らもう知らないぞ。あとは勝手にやっててくれ。俺、コンビニ行ってくるから。」

そう言って佑太はかばんから財布を持って、家を後にする。

30分もすれば落ち着いてるだろうと考えながら、歩いて5分のところにあるコンビニに向かって行く。

「さすがに深夜だと人通りも少ないな。」

なんとなく呟く。誰も聞いてはいないだろう。

歩いているとすぐにコンビニの看板は見えてきた。しかし、佑太はコンビニの駐車場の前でふと立ち止まる。

今、誰かの悲鳴が聞こえた気がしたのだ。

周りを見渡してみると、駐車場のすみに何やらにぎやかな一団が溜まっていた。

その中心で一人の男が、制服姿の女性の腕を強引に掴んで何か大きな声を出していた。

「おい……約束と違うだろ…………にしろよな。」

腕を掴まれてる女の方も負けじと何かを叫んでいる。

これはまずいな…さすがに十人弱相手に太刀打ちできる訳がないことはいやでも理解できる。しかし、この状況は放ってはおけない。

さっきの剛史じゃないが、やはり引いてはいけない場面だと佑太は思った。

意を決して佑太はその一団に歩み寄る。

外側の取り巻きでタバコを吸っていた一人の男が佑太に気付く、

「なんだお前。」

その声で一団は一斉に佑太の方を見る。

「お前、何してんだよ。」

女の腕をつかんでいる男がいかつい形相で睨みつけてくる。

「男が群がって女の子をいじめちゃまずいだろ。早く離してやれよ。」

「はぁ!?悪いのはこっちだっつーの。」

強情な奴だな。

「事情は知らねえけど、とにかく一人に何人もでいじめに掛かるってのはおかしいだろ。」

「お前が知らないだけで・・」

男が佑太との会話に集中しかかって女の腕を放した時だった。

「走れ、佑太!!」

後方から剛史の声が聞こえた。

次の瞬間、蓮と剛史と思われる二人の人影が不良集団の中に飛び込んでいったのだ。

もちろんこうなったら佑太の仕事はひとつだ。

佑太は呆然と立ち尽くす女の子の手をとる。

「早くここから逃げよう。」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ