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さよなら、ばいばい、また来世  作者: 黒井白


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4.さよなら、ばいばい、また来世

「停戦協定?」


 それは突然の知らせだった。

 婚姻政策によって長く続いた戦に終止符を打とうと決まった。

 それぞれ男女の子どもが生まれ、年のころも問題ない。

 故に、婚約を結び、相応の年齢となったら婚姻し互いの血を混ぜあう。

 それによって、互いの長所を混ぜあうことが肝要だ、と上層部は考えたようだった。


 そもそも何故二国が争っていたのか。

 最初のきっかけは小さな小競り合いからだった。

 どちらが先に手を出したのか、それは歴史学者にすら判別つかないほど小さな諍い。

 しかし、どちらも謝ることもなく引くに引けなくなった結果、大きな戦に発展していった。

 どちらも同じくらいの国力だったこともまた、戦が長引いた原因であろう。

 セノのいる国は決して戦ごとに強い国ではなかった。

 どちらかといえば農耕に日々いそしむ穏やかな気質を持った国民が多くを占めていた。

 だが、魔力を多く持つ国民が多く、それは戦場でも活躍するものだった。

 反対に、カノンのいる国は魔力は少ない国であった。

 その代り、鉄や鋼を多く産出し、武具の扱いに優れ、肉体も又戦うことに長けていた。

 最初はどちらもすぐに決着がつくと考えていた。

 セノの国は魔力に対する備えがない知識を持たぬ国に対応できるわけがないと考えて。

 カノンの国は大した武器も肉体も持たぬ軟弱な国に対処できるわけがないと考えて。

 しかし、その目論見はどちらも外れた。

 長引く戦に疲弊する民。

 どちらの国内でも戦に対する反対意見が上がるようになり始めた。

 昨今では戦に対する忌避感情の高まりも重なっていた。

 その結果、どちらの国でも時代が生まれたという慶事をもって戦を止めようと話が広がったのも当然のことだったのかもしれない。


 停戦が決まり、両国間で話し合いがもたれることになった。

 話し合いそのものに関してセノが関わることは何もない。そうした話し合いはセノ程度の下級貴族の戦士ではなく、もっと対外的な肩書が高いものが参加するものだった。

 しかし、話し合いの場に向かうための護衛は必要となる。

 セノを含めた此度の戦に参加した戦士たちが護衛につくことになった。

 例え停戦すると決まっても、敵国だった相手だ。

 何があるかわからない。

 そう警戒を怠らないまま向かった先で、セノは衝撃を受けた。

 相手国も当然のように護衛を連れてきている。

 その中に『彼』の姿があったのだ。


 今生こそ、と願った。

 今生こそ、彼の命を自分が取りたいと。

 今生こそ、彼の記憶に残りたいと。

 今生こそ……、彼と共に生きてみたい、と。


 まるでその願いをかなえようとするかのように、彼の姿がある。

 相手もセノの視線に気が付いたのだろう。

 まるで、彼の戦場時と同じように、彼の視線がセノへと向いた。


「ようやく、会えた」


 まるで、自分の心の声が漏れたのかと思った。

 しかし、その声は自分の声ではない。

 低く響く声は自分よりもはるかに深みのある声で、落ち着いた大人の声をしていた。

 一歩、一歩、確かめるように近づいてくる相手の姿から視線を外せず、周りの仲間たちが何か言っているようだったが耳がとらえることがない。

 ザッ、と靴が地面を擦る音で我に返った時には、既に相手は自分の目の前にいて、何故か、跪いていた。

 何故、どうして。

 脳内の混乱は収まる兆しもなく、ただ目の前の男の動きを見つめることしかできずにいた。


「俺はカノン。貴方の名前を聞かせてはくれないだろうか」


 周りの声が一切入ってこない。

 触れた指先からしびれような感覚が体中に広がり、二度とこの手を離してはいけない、と心の底から言葉が聞こえてくる。

 ぎゅう、と握り返した力に、男の頬が緩む。

 そうすると厳つく見えた男が途端に愛嬌があるように見えた。


「俺は、セノ。……俺は、ずっと貴方に会いたかったんだ」


 初めて言葉を交わした。

 初めて手が触れた。

 ただそれだけなのに、体の中が、心の中が満たされていく心地だった。

 周りの困惑など知らず、ただ二人は互いの姿を見つめ続けていた。


 その後の停戦に関わる協議はすんなりと進んだ。

 そもそも国内で戦に対する忌避感が高かった上に、協議の場で見せたセノとカノンの姿。そして、過去生から続く話を聞けばこれこそがお伽噺に出てくる『魂の片割れ』というものだろう、と認められたのだ。

 居なくとも生きていくことはできる。

 だが、見つけてしまえば相手に囚われてしまう。

 そんな存在なのだという。

 そして、セノとカノンの前例をもとに両国間で交流が深まっていくと、似たような話があちらこちらで湧き上がるようになったのだ。

 過去生の記憶が強いものほど、相手の魂を感じ取る力が強くなる。

 それはある種、呪いにも似た感覚だとセノは理解している。

 もし相手の記憶が薄ければ、自分だけが相手を思い続けることになってしまうのだ。

 その点、自分は恵まれていたのだろう。

 セノも、カノンも、過去生を含めて常に記憶はしっかりと残り続けていた。

 だからこそ、互いを求める力も強く執着(あい)も強くなり続けていたのだが。

 来世がどうなるかわからない。だが、今生の二人はこれから先、共に生きていくことが出来るのだ。


 停戦を果たしてから、彼らは戦場に出ることがなくなった。

 低位貴族の三男であったセノはその武功をもって王太子に重宝されていた。停戦後も近衛として引き続き傍に侍る予定だったが、褒賞として旅に出ることを認められたのだ。

 これまでの過去生では見ることがなかった世界を見てみたい、と初めて思ったのだ。

 そして、共としてかつては敵国の兵士であったカノンを連れていくことも認められた。

 この決定には両国の上層部の思惑があったことは否定できない。

 セノもカノンも、これまで戦に関わること以外に意識を向けることなく生きてきた。

 だが、此度の生で戦が止まったように、次の生で何が起きるかわからない。

 それならば新しいことを試してもいいのではないか、と考えたのだ。

 これから先何が起きる変わらない。

 それでも彼らは最後にはこういうのだろう。


「さよなら、ばいばい、また来世」


 と――。

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