第31話 お昼休みのデート
お昼休みになると超笑顔のブルが教室の中に入ってきた。
キャーキャー騒がれているのが聞こえてないかのように一直線に私の前まで歩いてきた。
「ビー!食堂いこう?」
待ちきれんばかりに急いで私の手をとったので「ええ」と返事をしたんだけど
「あっあの…わたしも…一緒に」
とエマが声をかけてきたので、足を止めた。
「あっエマも…いく?」
「いかない!」
私がオッケーしようとしたのに、ブルが食い気味に断った。
シュンとしたエマにブルはコソッと耳打ちした
「さっきから、熱い視線で君のことを見ているお二方がいるよ。彼らと行ってあげたらどうかな」
と、なにやら提案をしていたので、熱い視線を辿ってみると殿下と聖騎士がエマを誘いたそうにじっと見ていた。
「えっ殿下…?」
戸惑うエマに
「不敬罪になってもいけないし、僕が代わりに言ってあげるね」
「あっ…えっ」
「聖騎士様、聖女様が一人で食堂に行くのが不安みたいです」
「そんな…あの…」
不安そうに自分を見上げるエマを、ブルは無視して私の手を引っ張った。
これはさすがに…
「ブル、だめよ。めちゃくちゃすぎる…」
「感謝します、ブルシエル様。実は私と殿下も、たまには他の誰かと一緒に食事をしたいと思っていたんです。」
このチャンスを逃さんとばかりに聖騎士が乗り出してきた上に
「もしよければエスコートさせてもらってもいいかな」
と殿下までかぶせてきたので、もう任すことにした。なにこの茶番。食堂にエスコートって…
まあ殿下が召し上がるものは最高級の料理だしいいんだけどさ…
「エマ、また今度一緒に食べましょうね」
頭ポンポンすると、エマは恥ずかしそうに
「はい…」
と頷いた。めっちゃ可愛い。
ブルは舌打ちすると不機嫌に私の手を引っ張って教室を出た。
《まったく!油断も隙もない!》
「ちょっと、舌打ちした?」
「うん」
「どうして?」
「あの聖女、ビーを狙ってるから」
「狙っ…?」
なんか激しい勘違いをしてない?
「食堂は、こっちね」
案内するという約束は、ちゃんと果たしてくれるようで食堂に着いてからもオススメのメニューを教えてくれて、選ぶ時間がとても楽しかった。
食堂なんて表現してはいけないレベルのレストランだった。
そりゃそうよね、貴族はもちろんのこと殿下まで食事をするところなんだから…
「僕も同じ魚メインのBセットにするね」
ブルの嬉しそうな顔を見るのはやっぱり、私も嬉しいな。
ブルはウエイトレスに注文すると、運ばれてきた水を飲んだ。
ごくりと喉仏が動くのがなんともエロかった。
「聞きたいんだけど…ビーって女性にも恋ができる?」
突然変なことを聞くので、飲んでいた水を吹き出しそうになった。
「できない」
とはっきり言うと安心したように笑った。
「あのさ、さっきエマが私を狙ってるって言ったけど、違うからね?友達だからね?エマはヒロインなんだからたくさんの男の人から告白されるんだから」
「ああ…ヒロインといっていたね。」
向かい合わずに、隣に座っているブルはグラスを置くと手を伸ばして私の膝の上に置いた。
「!?」
ススっと手が膝小僧から太ももまで上がってくる。
「これから、男としてかっこいいと思ってもらえるようがんばるって言ったよね」
コクっと私は頷いた。
がんばる方向…こっち?
「はあ…早く二人になりたいな」
吐息が!耳に!
「お昼一緒に食べられるのは、デートみたいで楽しみだと思ってたんだけど、こんなにいっぱい人がいて、みんなビーのことやらしい目で見てて嫌になる」
いや、それはブルの方でしょう。
あなたがモテているのよ。
「あそこにいるあいつも…あいつも、邪魔だな。いかがわしい目で見るなんて消してやりたい」
ブルが言ったらシャレにならない。
ここにいる誰一人、ブルに魔法で叶う人はいないんだから。
「あのさ、先に予言しておくけど、催淫イベントがこの後あるからね」
「さい…?」
「なんか性欲が高まるのよ…魔法と科学の実験をするんだけど、失敗する生徒がいてね。調合を間違えちゃうの」
「…」
ブルはこの予言の内容をうまく飲み込めていないようだった。そりゃそうよね。
「何が言いたかったかというと、さっき消したいとか言ってたけど、催淫イベントが起きて誰かが私を性欲の対象としても、怒らないようにね」
「えっ!?だめだよ!無理だよ!」
「大丈夫よ、私は逃げ切るから。抱かれたりしないって約束するから。安心して」
ブルは絶望的な目をしていたけど、起こるもんは仕方ない。それに前世で媚薬を経験してないから、正直興味があるし。
もし我慢できなくなったら一人でなんとかすればいいし。
「これから体調不良ということにして、早退するフリをしてビーの教室に透明になって張り込む」
とか
「逆にビーを早退させて回避すればいいか」
とか勝手に先走っていたが
「私には予言の能力がないんでしょう?だったら安心して大丈夫じゃない」
と話を終わらせて、食事に集中することにした。
オススメされたお魚コースはそれはそれは美味しくて、毎日の定番にしようと思った。




