幕間:失われた星々のsalon
(重厚な扉が開き、岡本太郎、丹下健三、豊臣秀吉、レオナルド・ダ・ヴィンチがやや疲れた、しかし高揚した面持ちで休憩室へと入ってくる。そこは、不思議な調和に満ちた空間だった。壁にはルネサンス期の精密なタペストリーが掛かっているかと思えば、その隣には力強い縄文土器が飾られている。モダンデザインのソファの傍らには、炭が静かに熾る上品な火鉢。中央のテーブルには、それぞれの時代や好みを反映した飲み物が用意されている。)
岡本太郎: 「(ソファにどっかりと腰を下ろし)けっ、疲れたぜ! 言いたいことの半分も言えやしねえ!」
丹下健三: 「(ふう、と息をつき、テーブルに置かれた上質な煎茶の湯呑みを手に取り)…白熱しましたな。少々、熱くなりすぎたかもしれません。」
豊臣秀吉: 「(部屋を興味深そうに見回し、用意された甘酒の器を手に取り)ふん、あの小娘、なかなか面白い場を用意するわい。この甘酒、上等な麹じゃな。気が利くわ。」(一口飲み、満足げに頷く)
レオナルド・ダ・ヴィンチ: 「(窓の外の(架空の)星空を眺めていたが、振り返り、赤ワインのグラスを手に取り)…しかし、興味深い対話でした。異なる時代の叡智が、こうして直接ぶつかり合うとは。」(ワインの香りを楽しみ、静かに口をつける)
岡本太郎: 「(テーブルの上の、透き通った液体が入った瓶を手に取り、グラスに注ぐ)おう、こりゃあ、らんびきか! わかってるじゃねえか!」(ぐいっと一気に飲み干す)「うまい、 やっぱこれだよな!」
丹下健三: 「(岡本を見て、やれやれというように微かに笑い)…岡本さん、あの頃(1970年)も、こうやって議論の後によく無茶な飲み方をされてましたな。」
岡本太郎: 「(ニヤリと笑い)うるせえやい、丹下君! あんただって、あのクソ難しい大屋根の計算で頭抱えてたじゃねえか! あの時ばかりは、俺も少しは心配してやったんだぞ?」
丹下健三: 「(少し驚いた表情を見せ、そして苦笑)…それは、初耳ですな。まあ、確かにあのプロジェクトは、私のキャリアの中でも最大の挑戦の一つでした。貴方の太陽の塔という、とてつもない存在と対峙しながらでしたからな、なおさら。」
岡本太郎: 「ふん。まあ、あんたのあのデカい屋根がなけりゃ、俺の塔もただの変なオブジェで終わってたかもしれんがな。」(ぼそりと言う)
丹下健三: 「…(静かにお茶をすする)」
豊臣秀吉: 「(甘酒をちびちびと味わいながら、レオナルドに)レオナルド殿。貴殿の描く絵は、実に本物そっくりじゃな。わしのお抱え絵師にも、見習わせたいくらいじゃ。して、あの奇妙な機械どもは、本当に動くのか?」
レオナルド・ダ・ヴィンチ: 「(微笑み)ありがとうございます、太閤殿下。絵は、自然を注意深く観察することから始まります。機械については…多くは構想の段階ですが、いつか実現する可能性を信じて描いたものです。殿下の築かれた大坂城もまた、当時の技術の粋を集めた、驚くべき『機械』と言えるかもしれませんな。」
豊臣秀吉: 「ほう! わしの城が機械とな? 面白いことを言う!(機嫌よく笑う)まあ、人を驚かせ、世を動かすための『仕掛け』という点では、似ておるのかもしれぬな!」
岡本太郎: 「(秀吉に)おい、古狸! あんた、さっきは偉そうなこと言ってたが、結局、派手なことが好きなだけじゃねえか! わしと同じだな!」
豊臣秀吉: 「(ムッとするが)…ふん。まあ、地味なことよりは、派手な方が性に合っておるわい。岡本殿の言う『爆発』とやらは、よくわからんが、人をアッと言わせたい気持ちは、わからんでもない。」
丹下健三: 「(レオナルドに)先生の『理想都市』の構想図を拝見したことがありますが、秩序と機能性、そして美しさが見事に調和している。私の目指す都市像とも、どこか通じるものを感じます。」
レオナルド・ダ・ヴィンチ: 「(穏やかに)丹下殿の都市への深い洞察、感服いたしました。人間がより良く生きるための『器』を創る…その責任の重さは、時代を超えて同じですな。我々は皆、何らかの形で、未来を『デザイン』しようとしているのかもしれません。」
岡本太郎: 「デザインねえ…俺はそんなカッコいいもんじゃねえな。ただ、腹の底から湧き上がってくるものを、形にせずにはいられんだけだ。」
豊臣秀吉: 「わしは、後世に語り継がれるような、でっかいことを成し遂げたいだけよ。」
丹下健三: 「私は、より良い社会と環境を、次世代へと手渡したいと願っています。」
レオナルド・ダ・ヴィンチ: 「(ワイングラスを静かに置き)…結局のところ、我々は皆、この世界に生きた証として、何かを『遺したい』と願っているのかもしれませんな。その形は違えど。」
(しばしの沈黙。窓の外には、架空の美しい星空が広がっている。激しい議論の後、異なる時代の偉人たちの間に、不思議な共感と静かな敬意が流れていた。)
岡本太郎: 「…けっ、柄にもねえこと言っちまったな。」(再びらんびきを注ぐ)
豊臣秀吉: 「ふん。まあ、たまにはこういう静かな酒も悪くないわ。」
丹下健三: 「…ええ、本当に。」
レオナルド・ダ・ヴィンチ: 「(微笑む)」
(彼らはそれぞれの飲み物を味わいながら、しばし穏やかな時間を過ごす。)