ラウンド2:万博とは何か?〜国家、都市、民衆の祭典〜
あすか:「さて、ラウンド1では1970年の熱狂とその光と影を垣間見ましたが、ここからはもう少し視野を広げて、『そもそも万博とは何なのか?』その本質に迫ってまいりたいと思います。」
あすか:「秀吉公、先ほど『わしの祭りも万博のようなもの』と仰いました。数々の巨大事業を成し遂げ、人々を熱狂させた太閤はんから見て、国が、あるいは都市が、これほど大規模な『祭り』を行う意味とは、一体何なのでしょうか?」
豊臣秀吉:「(ぐっと胸を張り、自信に満ちた声で)ふん、簡単なことよ。第一に、わし、すなわち日の本の力を内外に示すためじゃ!わしが大坂に築いた城を見よ!伏見の城もじゃ!あの壮大さ、豪華絢爛さを見れば、誰もがひれ伏す。異国の使節も、日の本の隅々の大名も、『秀吉には逆らえぬ』『日の本は強い』と思うであろう。万博とやらも、そういう『見せつけ』の意味合いがあろう?」
あすか:「なるほど、国威発揚、デモンストレーションということですね。」
豊臣秀吉:「うむ。第二に、銭じゃ!人が集まれば、物が売れ、銭が動く。わしが城下町を整備し、楽市楽座を開いたのもそのためよ。民が豊かになれば、年貢も集まり、わしの懐も潤う。祭りには金がかかるが、それ以上の実入りがあるものじゃ。その1970年の祭りでは、どれほどの銭が動いたのじゃ?」
丹下健三:「(手元の資料に目を落とすような仕草で)…当時の経済効果は約1兆円とも試算されています。関連インフラ投資を含めれば、さらに大きな額になりますな。」
豊臣秀吉:「(満足げに頷き)ほう、1兆とな!わしの時代とは比べ物にならぬ額じゃが、道理は同じよ。そして第三に、これが肝心じゃが…人心掌握よ!民には、日々の暮らしを忘れさせるような、でっかい夢と熱狂が必要なのじゃ。醍醐の花見を見よ!北野の大茶湯を見よ!身分に関係なく誰もが参加できる盛大な祭りを開けば、民は喜び、わしを崇め奉る。少々の不満など、どこかへ吹き飛んでしまうわ!」
あすか:「力を見せつけ、経済を回し、民の心を掴む…まさに天下人の戦略ですね。」
丹下健三:「(静かに口を開く)太閤殿下のお話、現代の万博にも通じる側面は多々あります。しかし、現代の万博は、もう少し複雑な意味合いも持っているかと存じます。」
あすか:「と、申しますと?」
丹下健三:「万博は、開催都市のインフラを飛躍的に向上させる契機となります。1970年の大阪万博も、高速道路網、地下鉄の延伸、空港整備など、その後の関西圏の発展に大きく寄与しました。これは単なる『祭り』の費用ではなく、未来の都市基盤への『投資』なのです。」
(モニターに、万博に合わせて整備された当時のインフラ(道路、鉄道など)の映像が映る)
丹下健三:「さらに、万博会場そのものが、新しい都市機能や生活様式の『実験場』となる側面もあります。新しい交通システム、情報通信技術、省エネルギー建築…万博は、未来の暮らしの断片を実際に体験できる場でもあるのです。太閤殿下の城がある時代の技術と権力の象徴であったように、万博会場は、その時代の未来へのヴィジョンを具現化する場と言えましょう。」
岡本太郎:「(口を挟むように)未来だ、投資だ、計画だ…丹下君の話は相変わらずカタいね!それも一面だろうが、そんな上からの話だけじゃ、万博の面白さはわからんよ!」
あすか:「岡本さん、と申しますと?」
岡本太郎:「だから言ってるだろう!大事なのは、ごった返す人間どもの熱気、エネルギーなんだよ!理屈じゃねえ、腹の底から湧き上がってくるような、あの訳のわからん高揚感!それこそが祭りの本質じゃねえか!計画通りに事が進むなんて、つまらん!ハプニングが起き、予想外のものが生まれるから面白いんだ!」
(モニターに、万博会場で熱狂する人々、様々な国の人々が交流する様子、ハプニングを捉えたようなスナップ写真などが映る)
岡本太郎:「それにだ!企業どもが寄ってたかって自社の宣伝ばかりして、デカいだけのハリボテを建てて、くだらんシロモノを見せびらかす!あんなもんは商業主義の押し付けだ!本当の創造性ってもんは、そんなところからは生まれねえ!」
あすか:「(困ったように笑いながら)うーん、岡本さんらしい手厳しいご意見…。では、レオナルド先生は、この万博という現象をどうご覧になりますか?」
レオナルド・ダ・ヴィンチ:「(一同の意見を静かに聞いていたが、ゆっくりと語り始める)皆様のお話、実に興味深い。国家の威信、都市の発展、民衆の熱狂、そして商業…万博とは、実に多くの顔を持つようですな。」
レオナルド・ダ・ヴィンチ:「私の考えでは、このような大規模な集いの一つの重要な意義は、『知の交流』にあります。異なる国、異なる分野の知識や技術が一堂に会し、互いに影響を与え合う。私の工房でも、様々な分野の職人や学者たちと議論を交わすことで、新たな着想を得ることが多くありました。万博は、いわば世界規模の巨大な『工房』とも言えるのではないでしょうか。」
(モニターに、ルネサンス期の工房の絵画、様々な分野の専門家が議論するイメージ映像などが映る)
レオナルド・ダ・ヴィンチ:「そして、そこで披露される新しい『技術』。これは、人類の持つ創造力と可能性を示す、素晴らしい機会です。しかし、(少し表情を引き締め)同時に忘れてはならないのは、その力に伴う『責任』です。新しい技術は、使い方を誤れば、人間や自然を深く傷つける凶器にもなりうる。力を誇示するだけでなく、その力といかに向き合うべきか、深い知性と倫理観が伴わねばなりません。」
豊臣秀吉:「(鼻で笑うように)ふん、青臭いことを申される。力がなければ、国も民も守れんわ!倫理だの知性だの、そんなものは力ある者が後から飾り付ければよいことよ!」
レオナルド・ダ・ヴィンチ:「(穏やかに、しかし毅然と)太閤殿下、力だけの支配が、いかに脆いものであるかは、歴史が証明しておりますぞ。真の強さとは、力と知性、そして人々を慈しむ心が調和した時にこそ、生まれるのではないでしょうか。」
岡本太郎:「(レオナルドに)おい、ジイさん!あんたの言う『知性』ってやつも、結局は頭でっかちの理屈じゃねえか?大事なのは、もっとこう、腹の底から湧き上がる衝動だろうが!」
丹下健三:「(岡本に)しかし岡本さん、衝動やエネルギーだけでは、社会は成り立ちません。それを良き方向へ導くための計画性、理性もまた不可欠です。無秩序なエネルギーは、時に破壊しかもたらさない。」
岡本太郎:「だから、その『良き方向』ってやつが気に食わんのだよ!」
あすか:「(割って入り、場を収めるように)まあまあ、皆様、落ち着いてください!いやはや、万博の本質を巡って、国家論、都市論、民衆論、芸術論、技術論、そして倫理論まで…様々な視点が激しくぶつかり合いましたね!」
あすか:「まるで、様々な楽器が力強く鳴り響くオーケストラのようです。秀吉公の奏でる力強い太鼓のリズム、丹下先生の構築的な弦楽器のハーモニー、岡本さんの魂を揺さぶる叫びのような管楽器、そしてレオナルド先生の深く響くチェロの音色…。それぞれが主張し、時に反発し合いながらも、全体として『万博』という、複雑で、巨大で、そして魅力的な音楽を奏でている…そんな風にも聞こえてきます。」
あすか:「国家の威信、都市の発展、民衆の熱狂、経済の活性化、知の交流、技術の未来…万博とは、これら全てを内包する、時代のエネルギーの奔流なのかもしれませんね。」
(あすかは、感慨深げに頷き、次のテーマへと思いを巡らせる)