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ラウンド1:1970年大阪万博〜熱狂と理想の光と影〜

あすか:「さあ、それでは最初のラウンド、まいりましょう!時は遡り、1970年。ニッポンが、そして世界が熱狂した、あの大阪万博です!」


(モニターに、千里丘陵に広がる万博会場の空撮映像、カラフルなパビリオン群、そして中央にそびえる太陽の塔とお祭り広場の大屋根が映し出される)


あすか:「岡本さん、丹下さん。お二人はまさに、この巨大プロジェクトの中心にいらっしゃいました。テーマは『人類の進歩と調和』…今、改めて振り返られて、いかがですか?まずは岡本さん、あの熱狂の渦中、何を思われましたか?」


岡本太郎:「(腕を組み、忌々しそうに)『進歩と調和』だあ?反吐が出るね!当時の日本は、経済だ、発展だ、って浮かれてやがったが、その裏で何が起きてた?公害垂れ流し、ベトナムじゃ戦争だ。そんな中で『調和』だなんて、チャンチャラおかしい!」


あすか:「おおっと、いきなり痛烈なご意見!ですが、岡本さんはテーマ展示プロデューサーとして、あの『太陽の塔』を創られたわけですよね?あれは『進歩と調和』へのアンチテーゼだった、と?」


岡本太郎:「(目をカッと見開き)アンチテーゼなんてケチなもんじゃねえ!あの塔は、人間の根源的なエネルギーそのものだ!てっぺんの黄金の顔は未来、胴体の顔は現在、そして背面の黒い太陽は過去…そして、塔の中には『生命の樹』がある。アメーバから人類まで、生命の進化のエネルギーが渦巻いてるんだ!進歩だの調和だの、そんなお題目をはるかに超えた、ドロドロしくて、わけのわからん、しかし強烈な『生命』そのものをぶち込んでやったのさ!」


(モニターに太陽の塔の内部、「生命の樹」の映像が映し出される)


丹下健三:「(静かに頷き)岡本さんのエネルギーは、確かに圧倒的でした。あの塔は、我々が目指した合理的な空間構成とは、ある意味で対極にある存在だったかもしれない。」


あすか:「対極、ですか?丹下先生は、会場全体のマスタープランと、シンボルゾーンである『お祭り広場』を設計されましたよね?先生が目指された『調和』とは、どういったものだったのでしょう?」


丹下健三:「(背筋を伸ばし、理論的に語り始める)万博は、世界中の人々が集い、交流する場です。私は、そこに明確な『都市軸』を通し、人々が自由に回遊し、発見し、そして中心にある『お祭り広場』で一体感を得られるような、未来の都市空間のプロトタイプを提示しようと考えました。大屋根は、人々を包み込むシェルターであり、同時に、多様な催しを受け入れる巨大な舞台装置でもあったのです。」


(モニターに、お祭り広場の設計図、建設中の写真、様々なイベントで賑わう広場の映像が流れる)


丹下健三:「『進歩』とは技術革新であり、『調和』とは、その技術と人間、そして多様な文化が共存する秩序ある空間の創造だと、私は解釈していました。岡本さんの塔が垂直的なエネルギーの爆発だとすれば、私のお祭り広場は、水平的な広がりのあるコミュニケーションの場を目指したのです。」


岡本太郎:「(鼻を鳴らし)ふん、丹下君の言うことは理屈っぽくて好かんが、まあ、あのデカい屋根の下で、世界中の連中がごった返して踊り狂ってたのは、悪くなかったかもしれんね。エネルギーはあった。」


豊臣秀吉:「(興味深そうに身を乗り出し)ほう、その『万博』とやら、随分と盛大なものだったようじゃな。して、岡本殿、丹下殿。その祭りには、どれほどの国々が集まったのじゃ?遠い異国の者どもは、日の本の力を見て、恐れおののいたか?」


丹下健三:「(冷静に)参加したのは77カ国、4国際機関でしたな。国威発揚という側面は否定しませんが、それ以上に、相互理解と国際協調を目指す場でもありました。当時の日本は、経済成長の真っ只中。世界にその復興と未来への意志を示す、重要な機会だったのです。」


岡本太郎:「恐れおののいたかどうかは知らんが、度肝は抜かれただろうな!特に俺の塔を見て!」


レオナルド・ダ・ヴィンチ:「(静かに問いかける)お話を伺っていると、当時の人々は『未来』への強い期待を抱いていたようですな。展示の中には、『月の石』なるものもあったとか。人々はそれを見て、純粋に宇宙の神秘に感動したのでしょうか?それとも、単に珍しいものへの好奇心や、所有欲のようなものが刺激されたのでしょうか?」


岡本太郎:「(即座に)そりゃ両方だろうよ!人間なんて、そんな単純なもんじゃねえ。崇高なものに感動したかと思えば、次の瞬間には下世話な欲望に目がくらむ。だから面白いんじゃねえか!」


レオナルド・ダ・ヴィンチ:「なるほど…(頷き)では、もう一つ。『調和』についてですが、丹下殿の目指された『秩序ある空間』は素晴らしい。しかし、岡本殿の言われるような、人間の内なる矛盾や、自然界の持つ荒々しさとの『調和』については、どのように考えられていたのですかな?」


丹下健三:「(少し考え込み)…それは、難しい問いですな。我々建築家や都市計画家は、まず人間の生活を守り、より良くするための合理的な秩序を追求します。しかし、それだけでは都市は無味乾燥なものになってしまう。だからこそ、岡本さんのような強烈な個性が、ある種の『異物』として存在することが、都市全体の活力を生むのかもしれません。完全な調和ではなく、異質なものが共存する『ダイナミックな平衡』とでも言いましょうか…。」


豊臣秀吉:「(腕を組み直し)ふむ。理屈はわからんが、要は、綺麗なだけでは人は集まらんということか。わしの城も、ただデカいだけではない。黄金の茶室のような派手な驚きもあれば、石垣の力強さもある。そういうことか?」


あすか:「(感心したように)太閤はん、核心を突いていらっしゃる!岡本さん、いかがです?」


岡本太郎:「(ニヤリと笑い)まあ、そういうこったな。この古狸の方が、丹下君より話がわかるかもしれん!」


丹下健三:「(苦笑)…光栄ですかな、太閤殿下。」


あすか:「いやはや、早くも議論が白熱してきましたね!1970年の大阪万博。それは『進歩と調和』という輝かしい理想を掲げつつも、その内側には、岡本さんの言われるような人間のドロドロとしたエネルギーや矛盾、そして丹下先生が目指した未来都市への構想と現実の格闘があった…。レオナルド先生や秀吉公からの問いかけによって、その光と影が、より鮮明に浮かび上がってきたように思います。」


あすか:「見えてきたのは、万博という巨大な鏡に映し出された、人間の、そして時代の、複雑な肖像なのかもしれませんね。」


(あすかが一息つき、次のラウンドへの期待感を込めて対談者たちを見渡す)

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