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【30秒で読める怪談】マスクの男

掲載日:2025/02/19





WHOが新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックにおける緊急事態の終了を発表したのが2023年5月5日。


もう1年以上前になるんですね。


当時は人が1000人いたら、それこそ999人はマスクを着けていましたが、今ではその数もだいぶ少なくなってきました。


でも職場の方針だったり、あるいはお化粧するのが面倒だったりで、たまにずっとマスクを着けている女性がいらっしゃいます。


私自身、疲れて目の下の隈ができているときなんかは、マスクで外出したりしています。


とはいえ、そうするようになったは、コロナ禍以降。


その前は、インフルエンザにでもかからないかぎり、マスクを着けようと思ったこともありませんでした。


だって、息苦しいじゃありませんか。


でも、コロナ禍前からずっとマスクを着けている人が私の知り合いにいます。


仮にAさん(32才、男性)としましょう。


本当にずっと着けているんです。


職場の先輩だったのですが、フロアに並んだそれぞれの机で仕事しているときや、通勤時の電車の中、お昼休みに外へ行くときなど。


ずっとマスクを着けています。


マスクを外すのは、食事をしているときと、職場のビルの地下でタバコを吸っているときだけ。


当時、まだ禁煙していなかった私がはじめてAさんの素顔を見たのも、地下の喫煙所でした。


いたって普通の顔でした。


特にイケメンでもなく、特にブサイクでもなく。


というか、職場の先輩ですから、顔の造形など気にしません。


むしろ人柄というか、雰囲気の方を見ますよね。


もっともAさん自身も顔になにかコンプレックスがあってマスクをしているわけではないようでした。


別の同僚が、冗談で聞いたことがあります。


「Aさん、寝てるときはどうしてるんですか? まさか睡眠中もマスクを?」


「してるよ。ただ寝てるときはクシャクシャになるから、安いマスクを着けてるけど」


Aさんの答えに、私たちは黙りこみました。


そんなある日。


職場である噂を聞きつけました。


なんでもAさんが同じビルに入っている他社の女性に恋をしているというのです。


まだ若かった私と職場の仲間は、それまで物静かで観葉植物みたいだったAさんのロマンスにイキリ立ちました。


この恋はなんとしてでも成就させねばなるまいと、私たちは会議を開きました。


まずはお相手の調査からというわけで、私たちの職場である12階からわざわざお相手の会社が入っている27階まで確かめにいきました。


アウトドアっぽい女性か、それともインドアっぽい女性かだけでも確認しないと、方針が決まらないと考えたのです。


フロアを間違えたふりをして、エレベーターを27階で降り、ガラスの扉を開けました。


受付に2人の女性がいて、いつも左側にいる女性との話でした。


左の女性はマスクをしていました。


私は迷ったふりをして話しかけました。


「〇〇不動産さんはここの階ですかね?」


「〇〇不動産さんは、この上の階になります」


左の女性は答えました。


「ああ、間違えました。すみません。ところで……こちらの会社さんは、勤務時間中のマスク着用は義務ではないですよね?」


私は聞いてみました。というのも、受付の右側にいる女性はマスクを着けていなかったからです。左の女性は、不思議そうな顔をしながら言いました。


「はい、義務ではありませんが」


「変な質問をしてごめんなさい。マスク姿で受付をされるって、けっこう珍しいんじゃないかと」


もちろん珍しくありません。むしろよく見る光景と言えますが、このときはあえてこう言いました。すると左の女性は答えました。


「私は生まれたときからマスクを着けております。一度たりとも外したことはございません」


きっぱりした口調に、私はそれ以上の質問はひかえました。


恋のキューピッド役を買って出ようとした私の思いはついえました。


その後、Aさんと受付の女性はお付き合いできたのか?


私は1ヶ月後に転職したので、はっきりしたことは不明です。


風の噂では、お付き合いするには至らなかったと聞いています……







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