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第七話 初戦闘

 目を覚ますと、俺は知らない場所の地面に寝っ転がっていた。

 どうやら津波にかなり流されてしまったようだ。


 ここはどこかと辺りを見渡そうとすると、横でパチパチという音が聞こえた。横を見るとそこには、ペルダが焚火を焚いていた。俺はそのままペルダに声を掛ける。


 「お父さん」

 「サキラ!目が覚めたか!」


 すぐさま駆け寄ってきたペルダ、そのまま俺を抱きしめる。

 とても心配していたのか、俺を抱きしめる力はとても強かった。


 「無事でよかった、目を覚まさなかったらどうしようかと」

 「お、お父さん苦……しい」

 「っと、すまん!」


 慌てて離してくれた。

 抱かれて死ぬとかシャレにならん、ましてやお父さんに……エッチな意味じゃないよ。


 落ち着いたところで今までの状況を整理する。

 とりあえず、まずはペルダが先ほどのことを知っている様子だったので聞いてみることにした。


 どうやら先ほどの大きな津波は、四大災魔の遠大鯨ギガグエイブという魔物の仕業らしい。

 四大災魔とは、この世界に何千年も前から生きている伝説の魔物だ。

 四大災魔は名前の通り四体存在する。

 紫電狼ヴォルガウル、暗黒竜アーグロウ、血刀虫ジンタルパ、そして遠大鯨ギガグエイブの四体だ。


 紫電狼ヴォルガウルと暗黒竜アーグロウはそれぞれ一つの島を支配するように生息しており、血刀虫ジンタルパは古くからカースレイヤー大陸にある、とある森に生息しているとの噂だ。カースレイヤー大陸は俺たちのいる、セスタプジール大陸の向かい側にある大陸だ。


 問題の遠大鯨ギガグエイブなのだが、この世界はとてつもなく広大な海を中心として大陸ができており、その中心の海に生息している魔物が遠大鯨ギガグエイブなのだが、あまりの大きさに動くだけで大地震や大津波を引き起こすという。幸い、普段は眠りについている大人しい魔物で十年に一回、息継ぎのために移動をする際にこのような災害が起きるのだそうだ。


 この四体のうち、遠大鯨ギガグエイブだけは非常におとなしく攻撃的な性格をしていないので、十年に一度の被害しか被っておらず、何度か討伐して被害をなくそうと考えた人々がいたそうだ。


 普段は海の底で眠っているため、呼吸しに海上に浮上する瞬間を船に乗って待ち伏せしたが―――討伐部隊が乗った船は、遠大鯨が浮上してきた際に起こる波で一瞬で破壊されたそうだ。


 幸い、討伐部隊の半分程度はそのまま波に流され海岸まで生きて戻れたが、その者たちが見た遠大鯨ギガグエイブの姿は目視ですべてを確認できず、あまりの大きさにこの魔物は討伐不可能として扱われたのだそうだ。


 そんな魔物たちがいただなんて、聞いただけでもとてつもない恐ろしさを感じる。

 とりあえず津波のことは一旦この辺で話を終える。


 次に俺たちの現在位置と帰る方法だ。


 ペルダ調べによるとこの場所は、港町から少し離れた場所にある遠吠えの森という場所だ。魔物こそいないものの獣が多く生息している森となっている。

 中でもこの森のほとんどを狼が牛耳っており、そこから名付けられた森の名前が遠吠えの森だそうだ。


 帰る方法として、家からは一日から二日歩けばたどり着ける距離だそうなので、歩いて目指すことにした。


 ここで少し心配なのが、狩りなどの戦闘の際に使う剣や弓を一切持っていないということだ。

 今いる遠吠えの森は、狼が多いというのは先ほども言ったが、木が多く障害物が多いこの場所で、狼は非常に素早く動くことができ、魔法を当てるのは難しく、基本は武器を持って仕留めるそうだ。

 なるべく遭遇することがないよう、祈って進むしかない。


 俺たちはおおよそのことを話したところで今は夜なので、ペルダが仕留めた猪の肉を食べて一旦寝ることにした。


 次の日、俺たちは目覚めると昨日の残りの猪肉を食べて腹ごしらえを済ませるとまず、森を抜けるべく歩くことにした。  


 しばらく歩くと、少し離れた草むらが動いたのを見つけた。

 一体何の獣が現れる?

 強く警戒し、その様子を見る、出てきたのは―――


 「キューー!」


 どうやら手負いのウサギのようだった。

 ほっと一安心だと思ったが、ペルダは警戒したままだった。

 すると、ウサギのもとに四、五匹ほど狼が出てきて一気に食い殺した。 


 「来やがったか」


 どうやらこのウサギは狼に狙われていたらしく、狼たちは俺たちに気づくと一斉に吠え出した。


 「「「オオォーーーン!」」」


 すると俺たちのもとへ狼が続々と集まってきた。

 俺たちの周りをあっという間に取り囲む。

 四十、いや五十は目視でも確認できる。

 草むらにも隠れているだろうし相当な数になるだろう。


 「サキラ、お父さんの背中に乗れ」

 「うん」


 ペルダの言う通り、俺は急いでペルダの背にがっしりとしがみつく。


 「絶対に離すなよ!」

 「わ、わかったよ!」


 狼たちが一斉に襲い掛かってくる。

 ペルダは素手で構えをつくる。


 「パワーレンジ!」


 ペルダが身体強化魔法を唱えると、向かってきた狼に向かって拳を振り上げた。


 「せあぁーー!!」


 ペルダの拳は狼の頭に命中し消し飛んだ。

 はえええぇ~!なんちゅう威力してんだよ!!


 だが、そんな狼の様子などお構いなしに次々と別の狼たちが襲い掛かってくる。

 その狼たちをペルダは焦ることなく、一手で粉砕し確実に仕留める。


 頭へ狙いすまして飛びかかる狼、足を狙って飛びかかる狼。

 ペルダは跳んで避けると頭を狙った狼へ空中で回し蹴り、そのまま足を狙ってきた狼にその姿勢から踵落としをお見舞いする。


 一対複数の状況の中、ペルダは超人的な動きを見せ、狼を仕留める。

 攻撃はすべて避けながら、次々と殴って蹴り飛ばす。

 死角から襲ってきても、瞬時に後ろに魔法を放ち迎撃する。

 さすが戦闘に慣れてるな。


 少しずつ数は減っていき、目視で数えられるほどとなった。

 残り十匹ほどだ。

 すると木の上に隠れていた狼がこちらへ跳んできて、ペルダの頭上目掛けて攻撃してきた。


 その動きを察知したペルダは『ウィンドステップ』を唱えて風を足に纏い、瞬時に避ける―――がこの状況において、この魔法は最善手ではなく最悪手だった。


 いつもの戦闘なら判断は間違っていなかった。しかし、ペルダはサキラを担いでいるこの状況でその技を使えば、振り落とされるのは必然的であった。

 いつもの戦闘の癖が判断を間違えてしまう原因となった。

 俺はその激しい移動に耐え切れず、ついに手を放してしまう結果となった。


 「ふ”わっ!」

 「しまった!」


 俺はそのまま地面に転がった。

 そして、その状況を一匹の狼が見逃すことなくこちらに目を付けた。

 俺は狩られると思い、とても恐ろしく感じた。


 「ぃぃぁ!」


 声にもならない恐怖を感じ、思わず背を向け逃げ出した。


 「サキラ!クソッ、鬱陶しいんだよ!」


 頭を的確に狙い拳で一瞬で破裂させる。

 しかし、ペルダの下に絶え間なく来る狼の群れ、さばいてもさばいても次が来る。減ってはきたが十匹程度ならばペルダを足止めし、俺と引き離すのには十分の数だった。


 ペルダはサキラのもとへ行けず二手に分断されてしまった。


 サキラは狼から必死に逃げるが、恐怖のせいか足にうまく力が入らなく転んでしまった。

 すると狼は、圧倒的優位に立っていることを自覚しているのか。まるで笑っているかのような顔でこちらに近づいてくる。


 「うあぁぁー!」


 とにかく魔法を連発する……が、恐怖で狙いがうまく定まらなく、簡単によけられてしまう。

 そのまま距離を詰めてきた獣に対して、思わず恐怖でサキラは腕を突き出すが―――


「いあ”あ”ぁ”-い”!」


 そのまま狼は腕にかみつき離れようとしない。

 とにかく引き離そうと、頭も回らなく咄嗟に唱えた魔法が―――


 「スパーク!」


 雷魔法で放電した瞬間、獣は麻痺して動けなくなった。

 本来、当てることが難しい魔法で設置型として使われる魔法。

 しかし、相手が直接触れていることで当てることができた。


 「はあっ!死にさらせやあぁーー!!」


 動けなくなったところを魔法を連発しながら叫ぶ。

 無我夢中で二十発とオーバーキルレベルで魔法を打ち込んだ。


 やがて、狼はピクリとも動かなくなった。

 ほっと一安心することができたが、サキラは今の戦闘でたった一体の狼に重症を負い、死にかけた。

 だがそれはトラウマではなくサキラは恥辱と感じた。


 俺は父さんとの特訓で少しは、いやかなり強くなったと考えていた。

 剣や魔法を練習して多少なりとも強くなっていて、弱い魔物なら簡単に倒せると思っていた。


 この時俺は武器なしだったとはいえ、それでも魔法は使えた。

 なのにただの獣の狼でギリギリなんて……そう考えると今の自分が恥ずかしくてしょうがないのだ。


 今までは魔法や剣を使って楽に強くなると思っていたが、違う。

 ゲームのように簡単ではない、現実なのだ。


 もっと強くならなくちゃ。

 俺はこの戦闘を機に強く決意した。



――――――――――――



 狼を全て狩り終えたペルダは、サキラのもとへ急いで向かってきた。


 「大丈夫かサキラ!ひどいけがだ、すぐ手当てしてやるからな」


 狼に嚙みつかれてそのまま回復魔法をかけると病気になることがある。

 なのでまず、きれいな布を酒で濡らしたもので負傷した箇所をしっかり消毒する。

 消毒ができたのでペルダが回復魔法をかける。


 「ヒール!」


 ペルダの回復魔法のおかげで、傷も痛みもなくなった。

 しかし、疲労までは回復できないので立つのもしんどかった。


 「よく頑張った、歩くのもしんどいだろ」


 と言って、ペルダは俺を背におぶるとそのまま進んだ。

 その後の道中は獣も出てこず、安全に森を抜けることができた。


 夜になり暗くなったが、やがて俺たちは村に辿り着くことができた。

 家に入るとミミットが泣きながら飛びついてきた。


 「ううぅぅ~ようやく帰ってきたぁ~!!」


 ハアァ~~ン!初めてミミットが俺に抱きついてくれた!!

 まあ無理もない、二日近く一人で俺たちに帰りを待っていたのだから。

 今回はお尻を揉むだけで許してやろう。

 いや、初めて抱きつかれたからって何てことしようとしてんだ俺は!?

 平静を保ちミミットを抱きしめる。


 「ただいま、ミミット」

 「ごめんな、災害に巻き込まれてよ」

 「……知ってます、遠大鯨の津波ですよね?」

 「この村に被害はないようだが、報せはここまで来たか」

 「あの……今日は一人にしないでください……」


 いつも一人部屋で寝ているミミットだがこの二日間がよほどこたえたのだろう。

 俺とペルダはうれしながらもやれやれとポーズをとり、今日は同じ寝室で寝ることにした。 

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