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第六話 遠大鯨の災い

 部屋には明かりが差し込み、まぶしさで目に力が入る。朝だということに気づき目が覚めると、とても心地のいい朝日が窓越しに俺を照らしてくれた。心地のいい朝日を感じ、風を体に感じたいと思った俺は窓に手をかける。

 「いい天気だな、オープンザウィンドー!」

 そう言って、思いっきり窓を開けはなった次の瞬間。


 ヒューン、バシャ!という音を立て、窓の外から飛んできた何かが、俺の顔にぶつかった。


 「おうふっ!?」

 前が見えなくなり、思わず目の部分をこする。すると、拭いた部分が水っぽく茶色に汚れてしまった。な、なんだ……泥水?


 「おい誰かに当たったぞ」

 「家のほうに思いっきり投げるからだろ」


 窓から覗くとちびっこどもがこちらを見て、何やらコソコソ話しているようで、どうやら朝から泥んこ遊びをしていたが周りを確認せずに遊んでいて、このようにやらかしてしまったという感じだろうか。


 「おい何か気持ち悪い奴が出てきたぜ」

 「早く離れよーぜ」


 どうやら俺の悪口みたいだ。

 気持ち悪くしたのはお前たちだろ!ってかこっちに泥水かけたこと謝れや!ボケッ!!


 コソコソ話し終わると、ちびっこどもはやがてこの場から立ち去っていく。コソコソ話すなら小さな声でしゃべってほしい。朝から聞きたくないことを聞いてしまって俺は不機嫌になる。

 いい天気なんて前言撤回、泥水降ってきて最悪の天気だぜコンチキショーが!

 俺はとりあえず顔を洗うために自分の部屋から出ると、家のドアが開く音がした。


 「ただいまーっておいどうしたよその顔は」

 「窓を開けたら泥水が降ってきたよ、ていうかもしかしてその顔は父さんもやられたの?」

 「まあな、トレーニングでいい汗かいて水浴びるかって思ったらこのザマよ」

 「今からきれいにするからちょうどいいじゃない」

 「それとこれとは話が別だろ」


 どうやらペルダが帰ってきたようだ。ペルダも体が泥で汚れており、服に茶色いシミを作っていた。

 愚痴のように言ってるが、ペルダの全身の汚れ方を見るに一緒に遊んでやったのだろう、手とか泥だらけだし明らかだろう。さすが私のダーリンは優しいわねん。


 「俺はお前の父さんで夫じゃねぞ」

と言って髪をわしゃわしゃしてくる、おっと口に出してしまってたのか?

 「ところで今日も港町に行くがついてくるか?」

 「もちろん行くよ」


 そう言うと、この姿のまま外を出歩くわけにはいかないので、お互い泥を落とすためにたらいに汲んだ水で俺は顔を洗い流し、きれいにする。ペルダは全身が汚れてしまったので、服を脱いで体をすべて洗い流すと、汚れた服の泥を取るために一旦乾かしておく。服についた泥は水分がある状態で汚れを落とそうとすると、繊維に泥が入っていき落とすことができないのでまず乾かさなければならない。


 そして俺たちは服を着替えて、身支度を済ませると市場に出発することにした。

 ミミットには家の留守を任せている。メイドの仕事も板についてきたようで、家事全般メキメキと成長を見せている。……と言いたいがよくドジをするのでまだまだであるが、それでもミミットは可愛い家の猫耳メイドさんだ。


 最初の市場に行って以降、俺は買い出しについていくようになり、毎回かごの中に入ってついて行っていたが、身長が大きくなるようにつれて自然とペルダの隣で一緒に歩くようになった。

 もちろん周りの声や視線は嫌だが、ペルダと一緒にいればそんなものどうってことない。


 「サキラ、今日の晩飯は何の料理にするか?」

 「んー、魚料理が良いかな」

 「よし、今の季節はハジロジが旬だからな、サキラはそれに合うカンダケを買ってきてくれ」

 「おっけー」


 ハジロジとは鮭と似た魚で、カンダケはキノコの種類のうちの一つだ。

 これらを一緒に土鍋で蒸した料理がとてもうまいのだ。もちろんしょうゆなどがあればもっとおいしく出来上がる料理なのだが、無理を言っても仕方ない。

 しばらく歩き続け港町に着いてからは、ペルダと分かれて材料を買いに行くことになった。


 俺はキノコの露店の場所に行くためいつもの場所を思い出す。前回見たときはキノコを売っていた場所は、たしか左奥のとこだな。

 思い出した俺は、目的の場所に向けて歩き出す。

 そういえばこれが初めてのおつかいじゃないか?まあ、元の世界の年で考えるとおかしいけど。と考えながら港町を歩いていると、見覚えのある露店を見つけた。


 キノコが売っている店についたので、早速目的のカンダケを探す。

 えっと確か……あった、このキノコだ!

 俺はこのキノコを買うために店主に声を掛ける。


 「すみませんそこのカンダケを…」

 「てめえ、何持ち逃げしようとしてやがる!」

 「い、いえちゃんと買おうと」

 「気持ち悪い顔しやがって、おい巡回呼べ!」


 おいおい噓だろ、指さして聞いただけじゃねえか!

 ふざけんなよ、この店主の目は節穴か?どうかしてると呆れてしまう。

 どうすればいいんだと思案していると続々と人が集まってきて人だかりができてきた。

 騒ぎを聞きつけ関係ないものも足を止め野次馬のように群がる。


 「こんな所で盗もうだなんて」

 「あんな顔ならやるわよ」

 「まったく困ったガキね」


 まるで俺が悪いことした人みたいじゃないか!逃げようにも逃げることができそうもない。

 ますます焦ってしまう、どうする?予想外の事態に困惑し、どうにか説得しようと思ったが、さっきのように聞く耳を持たずにあしらわれそうだ。

 すると―――


 「おい!うちの子に何してやがんだ!」

 大声を上げ、こちらに走ってやって来たのはペルダだった。

 ダディ~~!!(顔ぐちゃぐちゃの泣きじゃくった顔)

 あまりの嬉しさに力が一気に抜けたように涙が溢れ出る。


 「はっ、こいつがうちの商品を盗もうとしたんだよ!」

 「うちの子はちゃんと金出そうとして手に持ってんじゃねえか!」

 「そ、それは……」

 「おいサキラ、ちゃんとこれくださいって言ったか?」

 「ううん、でも言おうとしたら怒鳴られて」

 「だって言ってるが?どう落とし前つけてくれんだ、ああん!!」

 「す、すみません!ちゃんと気を付けます、代金はタダでいいので!」


 あの優しいペルダが怒ったとこなど見たことないが、俺のためにこんなに怒ってくれるなんてね。

 我が父ながら素晴らしい父さんだ、こりゃー拍手喝采だね。まー、周りは俺に対しての言葉を反省することなく文句を言いながら立ち去って行ったが、これだから野次馬どもは騒ぐだけ騒いで迷惑をかけるから嫌いなんだ。


 店主は先ほどの言葉のように、お代をもらわずに俺たちの目的のキノコを渡す。

 だがこれは商売、金はきちんと払うのが筋ってもんだろ。

 只より高い物はないってね。これにも当てはまるのかな?


 「代金はちゃんと払うから、謝ったし」

 「サキラ、おまえ」

 「商品に罪はないよ、確かに店主は悪いけど俺だけ商品をタダでもらうのは違う」

 「……そうだな、我が子ながらよくできた子だ」

 「本当にすみませんでした、今度から気を付けます」


 ペルダの怒りをなだめるように話しかける。そして俺はそのままお金を店主に渡す。

 店主が謝ると俺たちはその場を後にした。

 しばらく港町を歩くと、ばつが悪そうな顔をしてペルダが俺に話しかけてきた。

 「すまなかった、一人で行かせて。あんなことになるとは考えてなくて、嫌な思いさせたよな」


 ペルダは泣きながら俺を抱き寄せてくれた。

 「俺は毎日お父さんに助けられてるから、さっきだってすぐに助けに来てくれたでしょ?」

 「っ当たり前だろ!」

 大丈夫、あんたはちゃんといい父親をできてるぜ。

 そんな思いを込めて、ペルダの頭をなでる。


 「そんなことより腹減ったよ」

 「ふっ、そうだな帰るか」

 家に帰ろうと歩き出し港町を出ようとした、次の瞬間―――


 「キャーー!!」

 「なーー!!」


 周りのすべての人々が悲鳴をあげる。

 何だ、地面が大きく揺れている!?

 周りの人たちはあまりの揺れに耐えられず、女、子供は皆立ってられず地面に手をついてしまう。もちろん俺も例外なく立てずに手を地面についてしまう。

 「サキラ、急ぐぞ」

 急にペルダの顔が青ざめた。何が起こっているのか俺は訳も分からず、ペルダに何事か聞く。


 「ど、どうしたの?」

 「遠大鯨が目覚めた、もうすぐ津波が来る」


 遠大鯨?訳が分からない、何が起きようとしているんだ!?

 とにかく津波が来るなら大変だ、海岸からすぐ近くのここは危険だ。

 そう思いペルダの言う通り、なんとか俺は立ち上がり走ってこの場から逃げ出すが、際限なく続く地震の揺れでよろけてしまい、またしても転んでしまった。

 すると―――


 「津波が来たぞー!!」

 「逃げろーー!!」


 周りの人々の焦りの声が増長する。周りの空気にのまれ俺はどんどん焦り、冷静な判断ができなくなる。

 まずい、逃げ遅れた!

 するとペルダが俺のもとに来て、がっしりと抱きかかえる。

 「サキラ、しっかりつかまってろ」


 ペルダが俺を抱きかかえて走り出す。

 抱っこの状態なので、後ろが見えてしまう。後ろの様子を見てみると、水の壁が見えた。壁?いやこれが津波なのか?

 津波がもう、すぐそこまで来た…ってでかすぎないか、元の世界でもテレビでこんなでかいのは見たことない!!

 当然港町の露店より高く簡単に港町を飲み込みそうだ。二十メートル?三十メートル?いや……もっとだ。


 ペルダが全力で走るが間に合わず、ついに頭上まで津波がやってきた。一気に押し寄せてきた津波に俺たちは成すすべなく巻き込まれてしまった。

 バッシャ―――ン!と水が地面を強く打ち付ける。

 あまりの勢いと質量に、ペルダは地に足がつかず流されてしまった。

 そしてみるみるうちに辺りは一面中、湖のようになってしまった。


 「ぷはっ、大丈夫かサキラ!」

 津波に流されながらも、ペルダが俺を抱きかかえ続け水面から顔を出す。

 しかし、ペルダに抱きかかえられながら津波から逃げている途中、津波と一緒に飛ばされてきた魚が俺の頭に当たって血が出てしまっていた。


 脳がぐらつき視界が揺らぐ。失血で俺の意識は薄れていく。

 (「おい、サキラ!しっかりしろ!!」)

 まずい、意識が……なく―――な―――

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