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第四話 大男

 いつものように庭でペルダに剣の訓練をしてもらってるある日、知らない大男が家にやって来た。

 俺たちを見つけると、大男はこちらに向かって手をあげて声をかけてきた。


 「よう」


 顔めっちゃこわ!借金取り?ヤクザですか!?

 大男はそう思わせるほどの風貌だった。


 「お、久しぶりだな」


 と、声の向くほうへ振り返ると、手を挙げてペルダが挨拶を返した。


 え、ペルダと知り合い?

 こんな巨体で強面の人がか?

 この世界にもヤクザみたいな組織でもあるのだろうか?いやそれじゃあペルダがヤクザになるやないか~い!……とりあえず一人漫才して冷静になる。


 しかし、不思議と前世のいじめっ子やヤンキーたちのような悪い雰囲気は感じ取れない。

 むしろ、お父さんと親しい雰囲気を感じ取れるぞ。

 てことは悪い人ではなさそうだけど、俺の身長の二倍近くあるぞ。

 俺の今の身長は百二十センチほどだ。つまり、大男の身長は二百四十センチ近くはあるということだ。筋肉もすごすぎて服がぴちぴちだ。


 「お前の子か?」


 すると、大男が俺のほうを向きながらペルダに尋ねてきた。

 若干威圧感を感じる気がするが、呪いのこともあるし当然かと思っていると……


 「おうよ~可愛いだろう~?サキラのやつよ~教えたらすぐに何でも出来ちゃうんだぜ~天才なんだようちの子は~」


 ペルダがデレデレ声で言葉を返した。


 俺は元高校生なのだからある程度のことはできるだろうが、天才とまで言われると照れ草さを覚える。

 お父さんがのろけてやがるな、やめてくれよパパン。

 俺に対しての世間の目は嫌悪、決して良くないものなのだから。

 そんなこと言ったって嫌な顔されるだけだぜ。


 「……お前んとこの子は俺を怖がらないんだな」

 「そういや、おまえ大きいから良く女、子供には特に怖がられてたもんな」


 思ってたのと違う反応が返ってきたので少し驚いた。

 そうなのか、なんだか親近感わくな。

 思わず俺は、キラキラした目をゴルグに向ける。


 「サキラ、お前親近感わいたって顔してんな」

 「え、怖いサイコパスかよ」

 「それを言うならエスパーじゃないか」


 大男に真顔でツッコマレタ……コワい。

 思わずムッとした顔になってしまった。

 すると―――


 「ハハッ、確かにこいつはかわいいかもな」

 「だろおう~?」


 大男が俺に対して笑い声をあげた。

 うれしいことだがなんだかパッとしない。


 

――――――――――――



 あの後、家で一緒にお昼ご飯を食べることになった。ペルダ以外と食卓を囲むのは、今回が初めてだ。なんだかんだ嬉しいな。


 大男の名前はゴルグというらしい。

 お父さん、ペルダの元パーティーメンバーですごく強い人だとか。まあ、見た目通りだな。

 ゴルグとペルダがパーティーを組んだのには大きなきっかけがあった。


 ペルダは昔、騎士として仕えていたが、とある事件で騎士の位を剝奪されたそうだ。

 その事件はペルダの学園時代のことが発端だった。


 ペルダは学園に通っていたそうで、その頃の成績は魔法も技法もともに次席の優等生で誰にでも優しいイケメン、まさに完璧超人だったのだ。


 しかし、その様子を気に入らなかったのか。

 学園の魔法首席イザベラと技法首席ヘンリーの二人が自分たちより人気があることに怒り、嫉妬したのだ。そこから二人は、腹いせに嫌がらせをするようになったのだとか。


 ある時はペルダのありもしない噂を流した。

 ある時はペルダに下着泥棒の冤罪をかけた。


 しかし、周りからの信頼の厚いペルダはこれらのことはすぐに誤解となって終わった。

 皆、ペルダがそんなことするはずないという絶対的な信頼を獲得していたからだ。


 他にも、ある時はペルダの提出する書類を燃やして紛失させたり、ペルダの食事に毒を混ぜて殺しまではいかない毒で体を壊そうとしたりなど、結構大変な日々を送っていた。……毒はまずくないか?よくペルダは今も無事だったな。


 そんなことを毎日繰り返しながら時は過ぎていく。嫌がらせはやがて減っていき、卒業が近い時期には諦めたように嫌がらせがなくなった。


 学園を卒業後、ペルダは騎士として仕えることになった。ペルダの家、ライダール家は代々騎士の家系で、それぞれ結果を出していき貴族という地位を確立できたのだ。ペルダも同じで家族の人達にならい、騎士として仕えることになったのだ。


 ここでペルダはお見合いを家族から勧められようになり、今では元妻ラーナと婚約することになった。


 ペルダは元々騎士になるために学園に通っており、まだ見習い騎士にも関わらず、周りから見れば一人前の騎士と間違われるほどの実力と礼儀作法がなっていたのだ。

 ペルダは僅か二年で多くの者の模範騎士として評価され、やがて一つの隊を率いる四番隊隊長の座についた。


 しかしそんなこともつかの間、ここで大きな事件が起きることになるとは思いもよらなかった。

 騎士には、剣術であっても魔術であっても扱うものは関係なく国を守るものは騎士であり、そして剣術が得意なヘンリーだけでなく魔術が得意なイザベラも騎士になっていたのだ。


 ペルダの率いる四番隊にはそのイザベラとヘンリーがいたそうなのだが、とある作戦中この二人が作戦無視をした行動を行い、作戦に関わった一般人の村に危害を加えたのだとか。

 そして、あろうことか二人はペルダの指示したことだと周りに吹聴し、陥れたのだ。


 ペルダは当然そんな指示などしていないが、騎士団にはイザベラとヘンリーの学園でのことを知らなかったためか、その言葉をあっさり信じてしまったのだ。

 当然誤解だと反論するペルダだが、一度広まった噂により多くの者は、イザベラとヘンリーの二人のことを信じてしまっていたのだ。


 そこからはひどいものだった。

 ペルダを今まで信頼していた者たちは、手のひらを返したようにあっさりと噓の噂を鵜吞みにしてしまっていた。それがなぜかは分からない。それでもペルダの周りに信頼するものはいなくなり、孤立してしまった。

 結果、ペルダは騎士団から追放されることとなった。


 職を失ったペルダはすぐさま別の職を探すが、例の事件の噂は街まで広がっており、どの職場でも断固拒否ばっかりで働き手を見つけることができなかった。やがてペルダは意気消沈し、家からも縁を切るとまではいかなかったが、もう家に顔を出すなと言われ頼る場所ももなくなっていった。


 そんな不安に駆られていた時、一人手を差し伸べた者がいた。

 それが冒険者をしていたゴルグだそうだ。


 冒険者にとってこのような噂をどうでもいいと思っている人が多いのもあるが、ゴルグはそれだけではなかった。彼はペルダの本質をちゃんと理解していたからだ。

 ゴルグはペルダの目を見た瞬間、それが分かったのだそうだ。

 一目で相手を理解できるだなんて、会社のような場所ではトップに欲しい人間だ。


 そこからはペルダは冒険者となり、ゴルグとパーティーを組んで共に戦うようになった。

 二人は強く、みるみるうちに頭角を現し、あっという間に有名な冒険者パーティーとなり、世間に名をとどろかせた。


 しかし、不幸は再び訪れる。

 この噂を聞きつけた二人。そう、イザベラとヘンリーだ。

 彼らはペルダの住む付近の住民にも騎士団として要注意人物だと言い回り、悪評がさらにたってしまったのだ。


 ペルダはこの暮らしに耐え兼ね、ペルダの元妻と一緒に半ば強制的に追放という形となり、カイツァルド国を出ていくこととなった。

 ゴルグにこのことを伝えると、どこで暮らすのかを聞いてきた。


 ペルダはその問いに対して、隣国のラーベール国の港町付近の村だと短く伝えると、ゴルグは度々会いに行くと言ったそうだ。

 強引な別れとなったがゴルグはしょうがないことだと割り切り、ペルダたちに餞別を渡して見送った。


 元妻と一緒に隣国ラーベール国の港町に馬車で向かうペルダ。

 道中の護衛として、小遣い稼ぎをしながら獣や魔物を倒して向かっていく。

 やがて馬車を一か月ほど走らせると目的地の村に着いた。


 家に着くと荷物を置き、すぐさま冒険者ギルドのある町へと行く。

 幸いこっちの国ではペルダの噂は流れてなかったので、冒険者としてまた少しずつ稼ぐこととなった。


 いろいろ苦労がありながらもなんとかやっていき、細々と暮らしながら無事息子の俺を産むことができたとさ―――


 「泣かせてくれるやん、お二人さん~(泣)。お父さん、優しいひとなのにあの二人はひどい人たちだよ~」


 号泣しながら気持ちを述べる俺。

 こういう話には弱いんだよ~。

 前世でも鬱ゲーをしまくっていた俺なので、このような話を聞くと途端に涙があふれてしまう。

 こっちまでつらくなるよ。

 そんな俺の姿を見て、ペルダは少し笑いながら優しい顔になる。


 「昔のことだから気にすんなって」

 と言いながら、俺の頭をなでるペルダ。


 とてもつらかっただろうに、一切そんな素振りを今まで俺に見せなかった。

 やっぱ強いな、お父さんは。


 「ゴルグ、お父さんのことありがとね」

 「……礼なんていらねえ、と言いたいところだがここは素直にその言葉を受け取ろう」

 と言うとペルダが……


 「辛気臭い話はおしまいだ、サキラ体動かして遊ぶか」

 「……うん!ゴルグも一緒に付き合って」

 「へっ、あいよ」


 その後もゴルグと遊んだり、訓練に付き合ってもらった。ゴルグとは鬼ごっこをして遊んだが、普通にガチの鬼に追われてるんじゃないかって、結構ガチでコワかった。


 不思議と呪いは効いてない様子だったが、初めてペルダ以外に話せる人ができた俺は喜びを隠せず、そんなことなどどうでもよくなっていた。


 やがて日が落ちると、ゴルグは晩御飯や睡眠もわが家で一緒にとることとなった。



――――――――――――



 ゴルグはそのままうちに一日泊まるとすぐに帰り支度をした。


 「もう少しゆっくりしてけよ」

 「そうしたいのは山々だが、今回たまたま仕事を離れられてやっとこっちに顔出せたからな」

 「……残念だが、ならしょうがないな」

 「すまないな、顔を出すのが遅れて。今度はまたすぐに顔を出しに来るからな」


 そう言って歩き出すゴルグ。

 俺は大きく手を振り、別れを告げる。


 「また来てねー!ゴルグー!」


 振り返らずに手を挙げひらひらとするゴルグ。

 やがて姿が見えなくなると、途端に寂寥感に囲まれる。

 やはりこのようなことの後は虚しさを感じる。

 まあ前世でそんなこと一回もなかったけどね。と心の中でつぶやきブーメランを食らってしまった。……自分で言っててつらい。


 ともあれ、数日だが楽しい日々を送れた。

 今日の出来事のおかげで、父さんの新たな一面を知ることができたし、ペルダのパーティーメンバーに会えて良かったな。

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