第三話 港町
今年で四歳になることになる俺、魔法は低級が少し扱えるようになった。
剣術はまだ年が年なのでまだまだだ。
ちなみに今日は四歳になる誕生日なのでお祝いをする日だ。
この世界は誕生日を祝うのが一年に一回ではなく四年に一回だそうだ。
なのでペルダがそれに向けた買い出しに今日は行くという。
港町に行くので大きなかごを用意していた。
「じゃあ父さん、誕生日の食材買ってくるな」
「……あ、あのちょっといい?」
買い出しに行こうとしたペルダを止める俺。
ここで俺は誕生日というイベントに少し欲望が沸いてしまった。
「僕もついて行っていい?」
「……大丈夫か?」
俺は呪いのことが分かって以降、外までは行かず家の庭までしか出ないようになった。
なのでペルダが買い出しや仕事に行くときは家で待っていた。
しかし、今回は違う―――
前世では両親から誕生日を祝ってもらうどころかその日も覚えてもらっていなかった。
俺のことは完全にのけ者として扱い、弟にだけすべて愛情を注いでいた、まるで俺だけが他人のように。楽しい思い出のない誕生日だったから。
だから―――
「うん、俺も一緒に行きたい」
俺は、この日はペルダから離れたくなかった。
「なら、一緒に行くか」
そう言って大きなかごをペルダが背中に担ぐ。
するとペルダが何か思いつく。
「あ、おまえこれに入ればいいんじゃないか」
――――――――――――
ということで現在、俺はペルダの担いでいる大きなかごの中にいます。
「父さん天才だな、サキラもそう思うだろう?」
「まあ歩ける年でおんぶみたいな形になってるのはちょっと恥ずかしいけど、さすがお父さんだね。さすおと、いやさすパパかな」
「さすパパ?なんじゃそりゃ」
とても楽しい。話しているだけでこんなにも胸が高まるなんて。
久しぶりの庭以外の外、気持ちいいな。
久しぶりの外の風を全開で感じられるから、今日が誕生日だから、ほかの人にとっては当たり前だが俺の気持ちの高ぶりは収まらない。
ちなみにかごの中は俺が占拠してしまったので、食材などを入れるためにもペルダが前に鞄をからうことにした。
しばらく歩くと嗅いだことのないにおいがしてきた。
「スンスン、塩のにおい……」
「ああ、見えてきたぞ」
かごから顔をのぞかせる。海の上を飛ぶ白い鳥、多くの漁船がとまっている。
そこには活気あふれた町の光景が広がっていた。
「港町フィーブルムだ」
前世では海に出かけるときはお留守番になるので俺は海というのを見たことがなかったが、大きな水たまりだな。奥を見てもまだ海が続いている。
思わず声に出てしまう。
「海って大きいね」
「そ~だろ、絶景だろ?」
ただの海を見ただけで感動してしまう。映像ではいくらでも見たことがあるのに、実物の感動とはここまで心動かすのか。
港町に入るとさまざまな露店が並んでいた。
果物屋に肉屋、雑貨屋に武器屋など似た種類の店が何店も並んでおり、港町だけあって魚を売ってる店は多く、魚の競売場に関しては人も多く、場所がとにかくでかい。やはり料理店で扱うためというのがほとんどなので、料理人のような顔ぶれが多く見える。もちろん競売場には用がないのでのぞいているだけだ。
早速露店で食材調達をすることにしたペルダはまず肉屋へ向かう。
大きな塊肉が多く並んでおり、においからして燻製されたもの、ベーコン?でもあるのだろうか。他にも漬けにされたものや腸に詰められたもの、つまりソーセージ?などもぶら下がって並んでいる。
この露店の様子を見るだけでもこの世界の食文化の発達は進んでいると思える。もちろん似通った時代背景などの世界観にしてはという話だが、美味しいものを食べられるに越したことはない。
ペルダがいくつか塊肉を買う。もちろんかごの中には俺が入っているので、前にからっている鞄に入れ込むと次の露店に向かう。
香辛料を取り扱ってる店についた。この世界では香辛料やはり高いが手が出せないほどではない。なので、塩や砂糖、胡椒などを使っているので味は整っているが調味料、醬油やみりんなどがないので薄味ではある。研究していって作っていく必要がありそうだ。
いくつか買い物を済ませると料理をしている露店に通りかかる。
「いい匂い~」
「港町で食う飯は格別だぞ~、飯の時間にもいいし、寄ってくか」
途中でおなかがすいたので露店の串焼きやパンを買って、休憩をとることにした。
もちろん俺はかごの中からは出ずに、食べながらペルダと会話する。
「どうだ、初めての港町は?」
「風も気持ちいいし、見たことないものがいっぱい見れて楽しいよ」
「そりゃよかった」
薄味でもやはりこういう場所の食べ物はとても美味しい。祭りに行ったときなんかも屋台の料理がおいしいのと同じものだ。中でも魚は採れたてを扱っているのでとにかく美味かった。
またこんな風に美味しいものを外で食べたいな。
休憩もはさんだことで再び港町をまわる。残りの食材を買うためいくつか露店をまわる。
前にからった鞄もパンパンになり、食材の買い物は済ませた。
買い物を済まして帰ろうと踵を返す、その時頭を少しのぞかせ、ふと目に留まった店があった。その店は魔道具屋という看板があった。
前世でも魔道具という単語は幾度も聞いたことがあるのでどんなものかはある程度予想できるが、この世界の魔道具はまだ見たことがなかったので、ぜひとも見てみたいと思った……と言ってもかごの中に入っているので、頭を少し出してチラッと見ることしかできないがとりあえずペルダに聞いてみることにした。
「お父さん、魔道具屋って何?」
「よし、買い物も済ましたし寄ってくか」
ということで、露店に並んだ品を覗いてみる。
ほお~、見慣れない品ばかりでなにがなんだか分からん。
「いらっしゃいませ、来たついでにとっておきの品を見てってください~」
そう言って店主が取り出したのは丸い球体だった。
「なんだこれ?」
不思議そうにのぞき込むペルダ、本当に一見ただのガラスでできた丸い球体だった。
すると店主はペルダに耳打ちするように小声で話す。
「実はこれ……アーティファクトなんです」
「……本当か?」
アーティファクトとは、人類の手では制作不可能なものでまるで神の力が宿った代物と言われるものであり、魔法でも再現できない現象を引き起こすことができる。アーティファクトの入手方法は世界各地にある迷宮に存在する隠された宝箱から入手できる。もちろん必ずアーティファクトが入っているとは限らず、まず入手確率が低いのは当然である。そのため多くの物は競売にかけられ高値で取引されている。
なので、こんなちっぽけな露店にアーティファクトがあるのは少し不思議なことなのだ。
「う、噓じゃありません!せっかくですからどんなものか見てみませんか~?」
「ま、見るだけなら少し見させてもらうか」
そう言うと店主はガラス球のようなものをもって呪文のようなものを唱える。
「す~けすけすけスケ透けろ~、ハッ!」
すると店主がガラス球のようなものをペルダに渡す。
「この球をかざすと不思議な光景を見ることができます、試しにあそこの女性を覗いてみてください~」
「っと、こうか?」
すると、ガラス球のようなものが力を与えたのか、ペルダの視界が変化する。先ほどの女性がガラス球をかざされて服が消えていた、いや透けていたのだ。
女性の裸が突如見えたことに驚くペルダ。
「うわっ!?」
思わずびっくりしたペルダは受け取った球を落としてしまう……が割れることはなかった。
「す、すまん!」
「大丈夫ですよ、アーティファクトですから~」
ペルダがすぐさま謝るが店主は顔を変えずに笑みを浮かべている。
ガラス球のように見えるがアーティファクトは壊れることは決してないという性質を持っており、傷一つさえつかない。
「ただよ、こんなもの急に見せんなよ」
「性能を見てもらわないと信じてもらえませんからね~」
「……ハアァ~、確かにな。疑って悪かったな」
「いえいえ~滅相もない、わたくしは商人、儲けるためにやってるだけですよ」
「そうか」
「見たところお金回りもよさそうで~」
「……ただの冒険者だよ」
少し間の悪い返事をしたペルダだが、お金があることを否定はしなかったのを店主は見逃さずにどんどん攻める。
「実はこのアーティファクト、通常のアーティファクトより大変お安くお求めできるのでご紹介したのですが……大金貨十五枚でどうです~?」
大金貨は前世のお金に換算すると一枚十万円……つまり百五十万、高く聞こえるがアーティファクトは通常、白金貨と呼ばれる前世のお金に換算して百万円のものを十枚、つまり一千万円以上が普通なのだからたしかにお買い得だ。
ちなみに、この世界のお金は一番価値の低いものから銅貨、銀貨、金貨、大金貨、白金貨の順だ。前世のお金に換算換算していくと銅貨が百円、銀貨が千円、金貨が一万円、大金貨が十万円で白金貨が百万円となっている。
話を戻すがこのアーティファクト、そこらへんのゲスイ目で見るような悪徳貴族やアーティファクトをコレクションしている人に売ればもっとお金になるだろうに……なにか訳アリか?
すると考え込んでいたペルダが俺に尋ねようと思ってか店主には「少し考える」と言って、露店から離れる。
「あのアーティファクト怪しくねえか?」
「たしかに……何か悪い効果があったりするのかな」
「ずっとアーティファクトのことばっか紹介されてたがサキラもかご越しに魔道具見てただろ?なんか気になったのがあったならそっち買ってやるから」
やんわりとあんまりアーティファクトのことを気にするなと言わんばかりに言ってくる。おそらくペルダにおねだりすれば値段のことなど考えずに買ってくれるだろうが、こんな怪しいものは何かあった時のためにも買わない方がいいと言っているのだろう。
しかし、前世の俺からするとこんな限定商品を安く手に入れられるなら欲しい……というわけで。
「試しに値段が低い訳を聞いてみようよ、もし大した問題がなければ欲しいな」
「お前……あんなのがほしいのか?」
「あ、アーティファクトがどんなものかじっくり見てみたいだけだよ……あはは」
俺は乾いた笑みを浮かべる
ペルダが俺を若干引いている。無理もないがやめてくれ、なるべく悪いことには使わないから。
心の中ではっきりと悪いことには使わないとは言えなかった。
「あと、俺まだ魔道具のことよくわからないから父さんが良さそうだと思ったもの一つ欲しいな、家にある日常品みたいなやつじゃないやつ」
「……ま、今日は誕生日だ。プレゼントとして買ってやる」
やだ~お父さんったらブルジョワジ~!
ということで店に戻り、まずはアーティファクトの格安の理由を聞いてみることにした。
店主は真顔になるが途端に大笑いした。
「ハハハ!安心してください、本当にわたくしが勝手に安くしただけですので!!それにあなたにはかつてお世話になったお礼でもございますので~」
「……お前のことをお世話した覚えはないが、それなら買わせてもらうか。それとこの魔道具もくれ」
「ありがとうございます、合わせて大金貨十五枚と金貨六枚です~」
「あいよ」
そう言ってペルダは、店主に大金貨十五枚と金貨六枚を渡す。
店主が枚数を確認し、品物を渡す。
「まいど~ではまた……お会いしましょう」
支払いを済ませ露店を後にする。
とんでもない大金を一日で使ったが、面白いものを格安で手に入れられたのでうれしい。
自分のお金で買ったわけではないのが少し申し訳ないが……一生分のお願いをした気分だ。
今度こそすべての買い物を済ませた俺たちは家へ帰ることにした。
夕飯の準備もしなければならないからな。
帰り道、喜びに満たされた俺は、かごの中で眠りについてしまった。