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第二十八話 夏の定番

 夏だ!プールだ!水着だあぁぁ―――!!


 俺たちは夏休みに入ると、さっそく立てた予定の一つ、学園内のプール施設前に来ていた。

 メンバーはもちろん、俺、アリア、アンリ、ダン、デンドリス、リーミュルの六人だ。


 夏休みにさっそくこんな一大イベントに立ち会えるとは、嬉しい限りだ。


 「ごめんみんな~!」

 「大丈夫だよ、まだ時間まで余裕あったし」

 「それじゃ入ろっか」


 すると、待ち合わせ場所にまだ来ていなかった残りのリーミュルとデンドリスが来ると、さっそく施設へと入っていった。



――――――――――――



 プールサイドに水着で身を包んだ俺たち。

 ラッシュガードのようなものもあったが、いずれも下のパンツだけでプールサイドに立っており、ムキムキとした肉体美が三人並んだ。


 プールの水着は学園側が貸し出ししている。

 更衣室には水着がいろいろ種類があった。

 

 これを可能とするのは、かの有名な糸、ジュラシックスパイダーの糸だ。

 なんとこの糸、魔力を注入することで性質を変化できるらしいのだ。

 ジュラシックスパイダーの糸、スゲーな。

 だから加工品なんかも作る必要がないから、この世界にはないのだろうか?


 男子更衣室にある水着でこんなに種類があるんだ。

 女子組は一体、どんな水着で来るのだろうか。


 そんなことを一人で考えながらも三人で話していると、水着を着終えた女子グループがやってきたようだ。


 「お待たせ~」


 現れたのは生まれたままの姿………ではなく、健康的な身体の恥部を覆い隠すセクシーな水着姿の少女たちだった。

 彼女たちの水着は、いずれも肌を大胆に露出させるものだった。


 「思い切っちゃった」


 誘惑気味に言葉を出したアンリの水着は、三角ビキニというやつだ。

 きれいな体つきが見て取れ、柔らかそうな身体が非常に魅力的に見える。

 白い肌は光を反射して、より輝きを増して見えた。


 どうやらこの水着は紐で結ぶタイプのようで、グラマラスな体が良く見て取れる。

 シンプルなデザインだが、この中で最も布面積が少ない。


 「は、恥ずかしいですぅ~」


 続いて、恥ずかしそうに身体を隠すのは、リーミュル。

 可愛らしいリーミュルは、フリルのついた水着で来たようで、この上なく似合う水着だろう。

 あのフリルが、リーミュルの愛嬌をさらに増大させているように感じる。

 リーミュルの肌は真っ白な肌かと思っていたが、アリアと同じ田舎で住んでいたということもあってか、焼けてるほどではないものの意外とそこまで白くもなかった。


 それを見ていたデンドリスは、まるで目の前に天使が舞い降りたのか?と認識しているかのように見える。

 これが尊いというやつだろうか。


 「あんまり胸ばっかり見ないでよ?」


 そして、最後はもちろんアリアだ。

 彼女の水着はクロスビキニという水着だろうか。

 正面から見たトップス部分がXのようになっており、セクシーな印象を与えるデザインだ。

 布地の色は黒で、ショーツも比較的に小さく、よりセクシーさを増していた。


 程よく実った胸に、すらりとした美脚。

 彼女の白い肌は、余計に優美なくびれのあるお腹を意識させ、中心にあるおへそが非常に魅力的に見える。


 前回のことで自然と意識してしまう。

 彼女が俺のことを意識していると知って、変に顔を合わせられない。


 ………これが恋か?


 俺は三人の中で彼女の、アリアの水着姿が逸脱して美しく見える。


 俺はこの気持ちにどう向き合いながら、今日を過ごせばいいのだろうか?

 ついそんな思いにさせられてしまった。



 ちなみにリーンも誘ったのだが―――


 (「その日は用事があるの。第一、あなた達とかまってる暇はないのよ」)


 と言って、きっぱりと断られた。

 ハア、リーンも来ればよかったのに。


 にしても、プールの授業はないのに学園にプールがあるって、俺としてはうれしいけどなんで用意したんだろう?

 もしかして、転生者たちが残していった叡智とかだろうか。

 まあ俺としては嬉しいことだし、考えるだけ無駄か。



――――――――――――



 準備運動を済ませると、さっそくそれぞれがプールに入ると、思いのままに泳ぎ始める…………………こともできずに、ただいま足のつかないプールでバタバタしている者ばかりでこの空間が包まれてしまった。

 まさに地獄絵図といったところだろうか。


 「ぼばぼばば!」

 「がぶがぶ」

 「ぼぼぼぼぼ………」


 前世では、プールの授業をしてきたので俺は泳げるが、泳いだことのないみんなは足をバタバタさせて溺れかけている。


 ダンやデンドリスも、運動神経が良くても初めての水泳は難しかったか。


 仕方なく俺はいったん泳ぎを止めると、彼らを助けるため浮き輪を取りに行き、それぞれに泳いで届けに行った。

 皆息を切らし、必死に浮き輪にしがみついた。


 「がはーはぁーあ!」

 「はっはーはー!」

 「ひゅーひゅー!」


 やがて、なんとかプールサイドに上がりきることができた。

 プールから上がった彼らの姿は、まるで死の淵を這い上がってきた死者のようだった。


 まったく、泳げないなら素直に浅いプールで泳げばよかったのに。

 特にデンドリスなんて―――


 「見てろリーミュル!カッコイイ泳ぎを見せてやる!」


 とか意気込んでプールに飛び込んだものの……。


 「え!足つかない!ちょっ、これどうやって泳げばばばb……ぷはっ!」


 といった具合だったのだ。

 まったく情けない。


 一旦彼らは呼吸を整え、休憩を終えると、やがて浅いプールに向かっていった。



 が、間もなくすると、他の学生も泳ぎに来たのか、ガチャっと音を立てると、入り口の扉が開いた。

 その学生は―――


 「な、なんであなた達がここにいるのよ!」


 用事があると言って来なかったリーンだった。


 「いや、プールはここしかないからね」

 「……はっ!」


 意外とドジなのか?かわいい奴め。


 「―――っ!帰る!!」


 そしてリーンは踵を返すと、プールから出ていこうとする。

 するとリーンの陰に、いつの間にか潜んでいたのか、人影がリーンに飛びついた。


 「もう!せっかく来たんだから一緒に遊びましょう」


 後ろから飛びついた人影の正体は、アンリだった。

 リーンは、飛びついてきたアンリを取り払おうと必死に手を動かすが―――


 「ちょっと!わ、私は用事があるの!」

 「だからここに来たんでしょ?」

 「うっ……」


 それにはかなわず、自分の目的が露見されたことへの恥ずかしさと言い訳したくてもできない焦りに、顔が真っ赤に染まった。

 そのままアンリに止められたリーンは、俺たちのグループへ渋々混ざることになった。



 しかし、彼女はグループに混ざっても、少し離れたところで通常のプールへと歩みを進めた。

 そこは、先ほど俺たちのグループのほとんどが溺れてしまったプールだ。

 リーンはプールで泳いだ経験があるのだろうか。


 しかし、なんでもこなしそうな雰囲気でリーンがスタート台に立っている。

 いったいどんな泳ぎを見せてくれるんだ!?


 俺たちから期待のまなざしを送られていることを気にすることなく、そしてリーンはプールに飛び込んだ。


 バシャーン!と水しぶきを立て、着水した。


 その瞬間、プール内にゴーン!という音が響いた。


 ゴーン?何やら床に頭をぶつけたような、そんな音が聞こえたが………。

 皆も不思議がって、音のした場所へと視線を移した。


 視線の先はリーンの飛び込み地点。

 プールからはブクブクと気泡が上がってくる。

 やがて、バタバタとさせながらリーンが浮かび上がってきた。


 「ごぼごぼぼぼ!!」


 ………溺れてるぅ―――!

 さも泳げますよ?、みたいな姿勢でプールに飛び込んでいたのに。

 すると、すぐさま助けるためにアリアが飛び込んでいく。


 「待ってて、今助けるから!」


 そして、助けるために飛び込んでいったアリアは…………。


 「がぼがぼぼぼ!」


 ………案の定、一緒に溺れた。

 何やってんだよ!


 まったくしょうがない。

 二人を助けるために、浮き輪を持ってはまたしても俺もプールに飛び込む。


 二人を浮き輪に乗せようとしたが、リーンはあまりの恐怖に俺にしがみつくと、浮き輪にしがみつくことなく、離れることがなかった。


 リーンは俺のお腹側にコアラのようにしがみつくと、俺は胸が当たって興奮を抑えきれずにはいられなかった。

 アリアもこんなに近くに一緒にいるというのに、そんな意識さえもはねのける。

 邪な気持ちを取っ払うため、とりあえず急いでプールから連れて出た。

 プールからあがり、俺は少し腰を引きながらも、リーンを地上へ降ろしてあげた。


 リーンはプールサイドへ腰を下ろすと、頭を抱えて泣いていた。

 さっきの音はやっぱり、リーンが床に頭を打ち付けちゃったのか。

 初心者なら背伸びせずに、飛び込みなんかしなければいいのに。


 「うっうっうっ、いたいよぉ~~!」


 …………んぎゃわいい―――!!

 リーンが目に涙を浮かべ、子供のように泣く姿は、情けないなんて思うことができなかった。

 彼女はそれほどに美しかった。


 だが、その姿に見惚れていたのは俺だけで、皆泣き止ませようとあたふたしていた。


 「あわわわ!」

 「だ、大丈夫よー?」

 「ほ、ほらぁなでなでー、泣き止むですぅ~」


 少し俺が変態チックだったのかもしれないな。


 リーンは泣き止むのに、それほど時間は要らなかった。

 いつもの冷静さを取り戻したリーンは、何か?といった表情で何事もなかったかのように接してきた。

 さすがに無理があるぞ。



 しかし、これほど泳げないメンバーがいるのか。

 プールで遊ぶというのは、少し間違えたかもしれないな。

 ………そうだ、いっそお手本を見せてやろう。


 今こそ前世で培った水泳技術を見せるとき!

 行くぜ、派手なバタフライを決めてやる!!


 すると俺は、皆揃って溺れていったプールへと歩いていく。

 俺は、スタート台に立つと飛び込みの姿勢に入る。


 「くしゅん!」


 そして、アンリの突然のくしゃみを合図に、俺はプールへ飛び込んだ。

 その瞬間、皆の視線がサキラのもとへ移った。


 バッシャンバッシャン!と水しぶきを立て、やがて壁に到達すると、華麗なターンで往復に入る。


 「すごいわね!」

 「なんであんな泳げるんだ?」

 「すっごいバシャバシャしてるぞ!」


 そうだろそうだろ!

 すっごいだろ!


 「二人ともすご~い!」


 …………………な、何?二人とも?

 俺はその言葉に耳を疑った。

 まさか俺のスピードについてくる奴がいるだと!?


 俺は泳ぎながらも、ふと横を向いてみる。

 隣のレーンを泳ぐその姿は―――リーミュルだった。


 「………ぷはっ………」


 クロールで水をかき、息継ぎをする。


 まさか普段気弱で運動が苦手なリーミュルが、ここまでやるとはな。

 前世でも小さくて運動が苦手な女の子が、水泳でとんでもない実力を発揮していた、なんてこともあったな。


 ふっ、面白い。勝負だ!



 ―――数時間後。


 ま、負けた……どんだけ体力があるんだ。


 途中まで速さでは俺が勝っていた。

 なのに、疲労で俺が速度を落とし始めたにも関わらず、彼女は一切速度を落とすことはなかった。

 結果、往復本数で負けてしまった。


 めっっっっっちゃ、疲れたなぁ~。

 水着を楽しみにきたのに、こんなの実質訓練だ。

 まあ遊びのつもりでも、負けは負けだ。


 「リーミュル、俺の完敗だ」


 俺はリーミュルの前に手を差し出す。


 「いえ、サキラさんこそ、ここまでやるとは思わなかったですよ」


 リーミュルがその手を取ると、互いが互いを褒め称え握手を交わす。


 「次も勝ちますからね」

 「………次?」


 いや、さすがにきついっていうかー、なんというか―――、次はないかな。


 「……」


 返答に困り、つい顔をそらしそうになる。


 「沈黙ということは肯定、望むところということですね」

 「すいません今回限りでお願いします!!」


 勘違いされてしまい、俺は即拒否を主張したが―――


 「男の子に二言はないよね?」

 「い、いやなんも言ってな―――」

 「んん~?」


 笑顔で詰め寄ってくる。怖い。


 「デンドリスとかどうだ?体力もあるし、な!」


 デンドリスを見るとこくこくとうなづく。

 危うく死ぬところだったが、これを利用していい感じに恋の架け橋をかけられたんじゃないか?

 ピンチはチャンスというやつだ。


 「でも、デン君泳げないじゃん」


 ハアァァ~~!というショックそうな顔でデンドリスは倒れた。

 デンドリスへの視線は、かわいそうなものを見る目と急にどうして倒れたのか分からない困惑の目だった。

 ちなみに、後者は何の事情も知らないリーンの視線だ。


 そして、リーミュルは俺に向き直る。


 「よし!じゃあもう一本いってみようですぅ~!!」



 …………………ピンチは、ピンチでした。

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