第二十二話 ソース
グ~~っ!とおなかの音を部屋に響かせるのは、ミミット。
今は授業が終わって、寮の部屋でゆっくりしていたところだった。
「おなかがすきました~~っ!」
「まだご飯の時間まで全然だよ?」
時間はまだ授業が終わってすぐなので、夕方にもなっていない時間帯だ。
相変わらずの食いしん坊メイド、ミミットだ。
「まあそこまで言うなら、今日は俺が作ろうかな」
「今からですか?」
「自分がおなかがすいたって言ったくせに」
まあ実際、晩御飯にはやはり早すぎる。
時間もあるしせっかくだ、ついでに新しい調味料でも作ろう。
「じゃあ、ちょっといつもと違うやつを作るよ」
「ご主人様はほとんど毎回、別の料理をお作りになってますけどね」
「マヨネーズとかケチャップみたいなのを新しく作るんだよ」
「それは楽しみです!」
「ほぉ~、わたくしも興味があります」
そう言ってリーンの部屋からひょこっと顔を出してきたのは、リーンの従者メイベルだった。
彼女は料理好きなようで、俺の料理によく興味を持ってくれるので、料理の勉強意欲がとても高い。
毎日ミミットとメイベルの二人に料理を頼んで作ってもらっているが、前回のように度々俺が料理を作っている。
メイベルも俺の料理に非常に興味を持っているので、こうして俺に作ってもらう日もあるのだ。
メイベルもこう言ってることだし、今日は気合いを入れて俺がご飯を作ろう!
ということで、やってきました市場!
今一緒にいるのはメイベルだ。
ミミットはというと、おなかが減って力が出ない!とのことなので、こうしてメイベルと二人で食材調達をしている。
俺たちは各露店の食材を見ていく。
お目当てのものを見つけてさっさと買っていく。
ちなみに、店の人との対応はメイベルに任せている。
港町の時のように、いらん誤解をされたくないからだ。
お金を渡して商品を受け取る。
お目当ての食材を全て手に入れると、俺たちはさっさと寮に戻る。
すると、寮の食堂は晩御飯の時間も近づいてきたためか、お肉を焼いたにおいが漂ってきた。
実はみんなも知っての通り、食堂で食べれば無料なので安上がりだが、やはり自分の食べ慣れた美味しいものが作れるなら、やはりそちらが良い。
ちなみに、もちろん自分たちで作る場合はお金がかかる。
今もこうして食材を買い足しているのだから。
しかし、食材は食堂のものを無料でほとんど提供してくれているので、変わった食材がなければそこまでお金がかけずに、少しのお金で美味しい料理を作ることができる。
ありがたすぎる。
まあ、当然このようなことをしているのが俺たちだけのようなので、こんな対応をしてくれているというのもある。
何ならたまに、食堂のおばちゃんにご馳走してあげたこともある。
とても驚いていて、見ていてとても気持ち良かった。
部屋につくと、買った食材と食堂でもらっておいた食材を広げる。
「今日は何を作るんですか?」
メイベルが俺の顔を見て今日の献立を聞いてきた。
今日作ろうと思っているのは、ソースを使った料理だ。
マヨネーズ、ケチャップと来たらソースであろう。
そこで作るのは―――
「そこで!今日作るのは―――焼きそばやで~~!!」
「急にどうしたの?気持ち悪いわよ」
「ご主人様、やきそばやでとは何ですか?」
「……やではただの語尾だよ」
ということで、肝心のソースを作らないといけないので、まずはそこから作っていこう。
たしか、野菜にスパイス……後リンゴあたりの果物を一緒に水で煮込めば、たしかできたよな?
ニンジンに玉ねぎ、リンゴに似た食べ物はわかるのだが特にスパイスなんかは、固有名詞が違うものが多くあまりわからないので、この世界のメジャーなスパイスを適当に使いながら試行錯誤してみることにした。
早速俺はエプロンを身にまとう。
先ほど思い出した、おおよそのソースの材料を取り出していく。
材料をまな板の上に置き、包丁を手に取る。
早速、ニンジンもとい、この世界ではジンサンを角切りにしていく。
この世界は、前世の世界のものと固有名詞が一緒のものが多いが、度々このように違うことが多いので、実際に目にして食べてみないと、何の食材かわからないことが多いのだ。
困ったものだ。
すると、俺はふと外を見る。
もう夕日に照らされて、一日の終わりが近づいているのを感じた。
もうこんな時間か。
買い出しに時間かけてたかもだし、急いで作らないとな。
そう思い、俺は集中モードに入った。
「ホアアーッタタタタタタッ―――!!!」
カカカカカッ!!と包丁の音を立て、食材が切り分けられていく。
高速の包丁さばきで、俺は次々に材料を下ごしらえしていく。
この様子を見ていたリーンは疑問の顔を浮かべる。
「な、なんなのあれ?誰なの?」
「ご主人様が料理をするときは、時々ああやってゾーンに入るそうです」
「……何ソレ」
ゾーンという知らない単語が出てきて、戸惑うリーン。
しかし、ツッコむ気も起きなかったリーンは気にしないことにした。
ここで説明しよう!ゾーンとは、きつい練習を幾度となく繰り返し、その肉体は未知の領域に差し掛かる。そして、その者が極限の集中に入り込み、感覚が研ぎ澄まされたとき、その実力が全て発揮することができる状態のことである!
「と、ご主人様は言っていました!」
「……別に説明は求めていないけれど」
半ば呆れ気味に聞き流したリーンであった。
(ちなみに、ゾーンは料理する時にはないと思うので、カッコつけるためにつけただけです。byサキラ)
そしてしばらくして、完成に近づいてきたとき。
ミミットがこちらに匂いにつられるように、フラフラとこちらへやってきた。
「においだけで腰が抜けちゃいそうですご主人様~!一口味見させてくださいぃ~!」
「フッ、今ここで味見なんかしたら、焼きそばの楽しみが減るだろ(キラン!)」
「はああァァア~ッ焦らさないでくださいよ~!」
「あなた達いつもこうなの?」
「……」
思わずこれにはツッコんでしまったリーン、それを静かに見守るメイベルである。
やがて、使ったスパイスの違う二つのソースが完成した。
ソースは作り終えたが、当然ちゃんとした料理はここからだ。
あくまで、焼きそばに使うソースができただけだからな。
ということで、焼きそばの材料を取り出していく。
ちなみに、麵はいつでも使えるよう、作って保存しておいてる物があるのでそれを使う。
麵だけで売ってることが、少なくともここにはないからな。
焼きそばに使う野菜とお肉を次々に切っていく。
切り終わったお肉を先に炒め、頃合いのいい頃に野菜、麵を投入していく。
蒸らしていい具合になれば、ここにソースを絡めていく。
久しぶりに焼きそばが俺の前に現れた!
このにおい懐かしい。
さすが俺のお気に入り料理だぜ!
ソースの絡んだ麵が、光を反射して光り輝いているように見える。
出来上がったところで、それぞれの皿に盛りつけていく。
お皿を手に、食卓へと並べていく。
「これが焼きそば?」
「美味しそうです!」
「どんな味なんでしょう?」
ミミットたち三人が次々にコメントを出していく。
なんか今更だが、クールなイメージのあるリーンが、マヨネーズ料理を食べたり、焼きそば食べたり、これはよく考えれば違和感ある組み合わせじゃないか?
なじんで違和感なかったからな。
そんなことを考えながら、俺たちはフォークを手に取り、焼きそばをからめとっていく。
一口、口へ運ぶと―――
「なにこれ!今まで食べたことのないこのスパイシーさ!!」
「だ、ダメですご主人様もう耐えられません……!」
ちゅるんと焼きそばの麵をすすり、ミミットとリーンの二人は、あまりのおいしさに体が悶え始める。
「「はぁぁ~~っ!!」」
すると、二人の服がはじけ飛び、まるでお○じ○のようになってしまった。
下着姿の二人の死体(味に屈しただけ)が床に転がる。
「はっはっは!」
我が焼きそばの味の前に屈したか!
手を腰に当て、愉快に笑う俺。
しかし、この状況下で一人、屈していない者がいた。
そう……メイベルだ。
「………やるね、さすがリーンの従者メイベル」
「ふふっ、ありがとうございます」
彼女は焼きそばを一口食べても、まるで微動だにしない。
仮にも主に付き従う従者ってとこか!
私も従者ですよ!とミミットが脳内で言っている気がするが、可愛い担当のミミットはそんな大層な従者のようには見ていないので、無視をした。
メイベルは立ち上がり、俺の前へやってきた。
クッソ!この焼きそばの前に立っているなんて!
しかし、俺の目の前に立ったメイベルの発した言葉は、勝ち誇ったものなどではなかった。
「でも……わたくしの負けです」
その時、メイベルのスカートからおパンティーがはらりと落ちてきた。
そう、お○だ○してしまったのだ。
「完敗です……はぁぁ~~っぁぁああ!」
ついに、メイベルは膝から崩れ落ちた。
やはり、焼きそばの前では無力!
「お粗末!」
俺はお決まりのセリフを残し、満足げになるのであった―――
ドドドドドドドドドッッ!!ワアーワアー!!
すると、部屋の外から騒がしい音が聞こえ始めた。
ん?なにやら部屋の外が騒がしい……ミミットに外の様子を見てきてもらおう。
「ミミット、ちょっと外の様子を見てきてもらえないか?」
「承知しました」
いつの間にか服を着たミミットが扉へ向かう。
まったく、少しは満足感に浸らせてくれよ。
ミミットが扉に手をかけ、開け放つ。
すると―――
「おい、この部屋からとてつもなく香ばしいにおいがするのだが!?」
「この美味しそうな匂いは何なの!?」
「頼む!俺にも食べさせてくれ!!」
匂いに連れて人だかりができていたようだ……。
わ~お、ファンタスティックベイビー。
俺は玄関の前に立つ。
「え、おい、あいつの部屋かよ」
「でもなー、食いてえし」
「誰かは知らんが、是非とも食わさせてくれ!」
俺の知ってる学生だけじゃなく、知らない学生も当然いた。
俺に不満を持っているのは気に入らないが、料理に罪はない。
……よし、こうしよう。
「料理への関心、素晴らしいことだ。お前ら、俺の料理が食いたきゃ、一列にしっかり並べ!!」
「「「「「………はい!!」」」」」
「ちなみに、お金がかかっているからお金は払うんだぞ!」
「「「「「今すぐとってきます!」」」」」
すると、学生たちは部屋に戻りお金を持ってくると、瞬く間に列を作り、俺の料理を待ち始めた。
いなくなったものもいるが、俺だろうと料理を食いたい、その意気や良し。
「よし、ミミット!メイベル!野菜とお肉を切ってくれ!」
「分かりました」
「私まだ一口しか食べてないんですけど―――!」
そして、俺たちの戦いは始まった―――
うおおおおおおおぉぉぉぉぉ――――――!!へらを振れぇぇ―――!!!
俺は用意した鉄板の上で、複数の焼きそばを同時に炒めていく。
「ふんふんふんふんふんふんふん―――!!!」
「ご、ご主人様がオーバーゾーンに入りました!」
「また、変な単語が出たわね」
そこまでのツッコみ役ではないリーンは、その単語を聞いて浅いツッコみだけ返してあげた。
またまた説明しよう!オーバーゾーンとは、ゾーンの中のゾーンに入り、ゾーンよりも極限の集中に入り込むことで、人間には到底不可能なスピードで動くことが可能になる状態のことである!
なおこの単語は、サキラがゾーンとオーバーフローが合わさってオーバーゾーンってカッコよくね?と勝手に考えた単語なので、実際にこの単語にはそんな意味は持っていない。
「と言っていました!」
「……だから別に説明は求めていないけれど」
次々と流れ込む客の流れをさばいていく。
リーンが接客で、ミミット、メイベルが食材を切って、俺が炒める。
「言う暇もなかったけれど、どうして私も手伝わされてるのよ」
「リーン様からの手渡し、ありがとうございます!」
「受け取ったらさっさと消えなさい羽虫」
「ありがとうございます!!!」
その後も客をさばき、噂を聞きつけたアリアやデンドリスたちも部屋へ来たので、一緒に手伝ってもらい、このままホームパーティーをすることにした。
この寮は厳しいルールなどはなく、生徒同士で部屋で遊んだりお泊りをしても何のお咎めもないので助かった。
本当に今日は疲れた。